第5話 闇の魔の手
猿鬼の鳴き声が響く中、圭史が氷を纏わせた刀を抜くと、猿鬼は毒ガスを口から吐き出した。
すんでのところで圭史は止まると、後ろに飛び、直撃を免れた。
「近づけない…厄介だな」
圭史がそう言うと、晴人が笑みを浮かべて言った。
「これくらいの毒、吹き飛ばしてやるよ!」
晴人はそう言うと、ブンブンと槍を回し扇風機のように風を作った。
そうすると見る見るうちに毒ガスは吹き飛び、猿鬼は唸り声を上げた。
「どうよ!師匠も見直したっしょ!?」
調子良く晴人がそう言うと、銀治郎は冷静に言った。
「バカ者、毒を吹き飛ばした所で迂闊に近づけないのは変わらない、気を引き締めないか」
「…はいはい、わっかりましたよー。」
晴人はそう言うと、再び槍を構えた。
そして、最初に仕掛けたのは圭史だった。
手の平に小ぶりな氷の結晶を作り出し、猿鬼に向かって投げた。
猿鬼はそれをかわすが、かわした先には晴人がいた。
晴人が勢いよく、電流を帯びた槍で斬りつけると、猿鬼は少し血を流しながら逃げようとした。
「そうはさせんぞ!」
銀治郎はそう言うと、クナイを四方に投げ、猿鬼と彼らの周りに電流を走らせ、囲った。
「すげぇ…。」
大貴思わずそうもらすと、若々しくなった銀治郎がウインクした。
それでまだまだ三人には余裕ある事が見てとれた。
再び猿鬼が毒ガスを吐くと、晴人がまた槍を回した。
「何度やっても同じだっつーの!」
そして毒が飛び去ると、圭史が飛びかかり氷を帯びた刀で斬りつけた。
すると猿鬼の中で血の涙を流していた少女に光が差し込み、少女が笑って言った。
『ありがとう…。』
少女は笑顔のまま、天に上がって行った。
✴︎✴︎✴︎
どこかの屋敷で、憎しみや憎悪の元凶だった猿鬼の気配が消えたのを感じ、角を額に二本生やした着物を着た女性が言った。
「また、私の可愛い子鬼が逝ってしまったか…。」
女性は三味線を弾きながらそう言うと、その手を止めて部屋の奥に飾られていた鏡を見た。
そこには圭史達が林から引き上げて行く様子が映っていた。
「おや、まだ子供じゃないか…。困ったものだね、私のシマを荒らすなんて…。」
女性はそう言い、サッと爪で空を払うと、鏡がいとも簡単に二つに割れた。
その鏡が落ちるのを見とどけると、女性は長い桜の花紋が刻まれた爪をしまいながら言った。
「この桜鬼を怒らせるとどうなるか、思い知らせてやろうじゃないかい…。」
鬼の魔の手が近づいている事を圭史達はまだ知るよしもなかった。
✴︎✴︎✴︎
すっかり空が白み朝を迎えた林で、墓を作ると、圭史達は墓の前で手を合わせ拝んでいた。
「あの子も天国へ行ってくれてたらいいけど…。」
大貴がそう言うと、圭史が大貴の頭を撫でながら口を開いた。
「行ったさ、きっとな」
大貴が圭史にしがみつくと、圭史は大貴の背中をポンポンと叩いた。
「この辺も子供が捨てられるっていう嫌なウワサが無くなるといいんだがな」
「そうじゃのう」
朝が来てすっかり元のお爺さんに戻った銀治郎が、ターバンを少し巻き直しながら言った。
圭史は手作りの墓石に触れ、目を閉じると、氷の花のリーフを作り出し墓に供えた。
「きっと無くなるさ、鬼化病がない世界になったらな」
「そんな世界に本当になるかな?」
大貴が尋ねると、圭史は言った。
「そうなるようにするんだ、鬼丸横丁のみんなでな」
その時、柔らかな風が吹いた。
まるでこれからの彼らの背中を押すように。
「ちょっと待てよ…俺ね槍、結局見つからなくてこのまま帰るのかよ!」
「まぁ、夜しか鬼は出ないじゃろーし、そもそもこの林にはもう何の気配も無いしのぅ」
騒ぎ出した晴人に銀治郎がそう言うと、晴人はがっくりと肩を落とした。
早朝の林での出来事だった。
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