第3話 雷槍
まだ大貴に出会う前のこと。
揺れるバスの中で女子高生達が喋っている。
「ねぇ知ってる?鬼化病っていう病が流行ってるらしいよ。なんでもかかった人は最後鬼になっちゃうんだって」
「うわ、嘘くさ。本当にそんなのあるの?」
揺れる車内で、圭史は赤いフードを深く被りながら言った。
「あるよ…。」
その声は女子高生達には届く筈もなく、バスを打つ雨音の中に消えていった。
✴︎✴︎✴︎
「大貴、またピーマン残して…、大きくなれないぞ?」
圭史はそう言うと、大貴の残したピーマンに鰹節をふりかけた。
「これでかきこめ、美味いから」
「何だよ!子供扱いすんなよな!」
言われた通り大貴はピーマンをかきこむと、コリコリと音を立てながら食べ飲み込んだ。
「ほ〜やれば出来るじゃないか坊や」
そう言いながら沢山の野菜を持って庭から現れたのは銀治郎だった。
わけあって今、大貴は弟子として圭史の長屋に住んでいる。
弟子と言っても、鬼化病汚染者でない大貴は何を出来るわけでもなく、ただ素振りやランニングをしてみたり、掃除、洗濯などをこなすだけである。
しかしそのほとんどは一人では上手くいかない。
それでも嫌な顔一つ見せず圭史はこうしてたまに来る銀治郎と共に大貴の世話を焼いていた。
「圭史よ〜ちょっと邪魔するぜ〜。何だそのガキ?」
軒先で見知らぬ高校生くらいの派手な着物を着た少年がそう言うと、大貴は眉をピクリと動かし、その少年に向かって言った。
「ガキとは何だよガキとは!お前こそ誰だ!ここは今は俺ん家でもあるんだ、用がないなら帰って貰おうか!」
大貴が子供ながらにそう言い切ると、少年は一瞬固まり、その後「ガーバッハ!」と笑うと、手を広げて言った。
「それは悪かったなクソガキ!俺は高梨晴人、いつか鬼神になる男だ!以後お見知り置きを…。」
「クソガキ…。」
大貴が言われ慣れない言葉にショックを受けていると、晴人は銀治郎に向き直り言った。
「師匠…いらしてたんですね。その後変わりはありませんか?」
「うむ、晴人も元気そうで何よりじゃ、でも子供には優しく声をかけねばならんぞ」
「はい!以後気をつけます!」
晴人と銀治郎はそう言うと、仲良く談笑し始めたが、一連の流れを見守っていた圭史が晴人に話しかけた。
「…それで晴人、何か用があって来たんだろ?」
圭史にそう言われ、晴人はニヤリと笑うとドカンと縁側に座り込み言った。
「流石、お前は話が早くて助かる!いやな、大した事では無いんだがちょっくらつきあって貰いたい案件があってな!」
晴人は背中に背負っていた槍を袋から出すと、その槍がビリビリと雷を帯び光った。
「なっ!何だそれ!?」
大貴が声を上げると、晴人は真顔で言った。
「何って俺の得物だが?コイツで鬼どもを痺れさせるのよぉ!」
「晴人、それでその槍がどうかしたか?」
圭史がそう言うと、晴人はまたニヤリと笑い、言った。
「いやな、最近また変えたばっかの俺のこの得物だが、もうすでに俺の雷の力に耐えられなくなってきちまってな。俺もどうしたもんかと悩んでたわけだ。そんな時に強い槍を持つ鬼が三匹も出たって言うじゃねーか!そこでお前だ圭史、それに師匠!出来れば力を貸して貰いてーんだが…。」
晴人はそう言うと手の平を叩いて合わせお願いした。
「わしは構わんが、坊主はどうだ?」
「俺も構いません、鬼退治なら尚のこと…。」
当然のように会話をしている圭史達を前に、大貴はまた声を上げた。
「ちょっ…ちょっと待った!まさか銀治郎のお爺ちゃんも戦うの!?鬼と!?」
大貴がそう言うと、皆、唖然とした顔をし、少し間を空けて圭史が口を開いた。
「当たり前だろう?ここをどこだと思ってるんだ?汚染者管理区域、鬼丸横丁だぞ?ここではみんな鬼神を目指して鬼と戦っているんだ」
大貴はそれを聞き、あんぐりと口を開いた。
そして暫くして言った。
「みんな!?女も子供もみんなか!?あの鬼と!?」
驚きをかくせない大貴を見て三人は笑うと、大貴に言った。
「お前もそうなっちまう前に出て行った方がいい。汚染者なんてなりたくてなるようなもんじゃないんだからな」
「…?」
さっきまで笑っていた三人は、一変してみな何とも言えない顔になっていた。
ところが、晴人だけは少しキョロキョロし始めて言った。
「おい、ひょっとしてこのガキ、汚染者じゃねーの!?」
晴人がそう言うと、みな先程とはまた違った何とも言えない顔をした。
✴︎✴︎✴︎
夜を待ち、圭史達は身支度を整えて大貴に黙ってこっそり出て行こうとしたが、庭に先回りしていた大貴に見つかった。
「俺を置いて行こうなんて百年はえーよ圭史!」
「おやおや、これは一本取られたの坊主」
銀治郎がそう言うと、圭史は目を片手で覆いやってしまったと言わんばかりに立ち尽くした。
✴︎✴︎✴︎
「本当に銀治郎のお爺ちゃんも行くんだな」
圭史に背負われながら大貴がそう言うと、晴人がさも当然と言わんばかりに言った。
「そらそーよぉ!この人を誰だと思ってんのさ、俺のお師匠様だぜ!」
はつらつとした晴人の言葉に大貴はげっそりとしながら聞き流した。
そして彼らはある林の一点で止まった。
「えっ?何?」
「おいでなさったのさ…鬼共が」
あたりをキョロキョロ見回す大貴だったが、周りには何もいない。
しかし次の瞬間、けたたましい鳴き声と共に槍を携えた鬼が三匹、彼らの頭上から襲いかかって来たのだった。
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