nemesiss:code 九龍貿易商会編

@zirozirox6

第1話


 虎瑛党とか組織ゴッコやってるメンバーはハッキリ言ってどいもこいつもクソ。

 良くてライヴハウスのトイレの便器に貼られたステッカーみたいな奴やらの集まりだ。

 そんなガキのまま大人になっちまってる奴らをまとめるのが俺の今の仕事。

 勘違いしてもらっちゃ困るから言っとくけど、俺も便器に貼られたステッカーみたいなモンだから、今の思考はディスりとかじゃなくて、言わば自分を卑下してるってだけだ。


 「自分〇〇勢なんで……って言うのと他人が、これだから〇〇勢は……って言うのは訳が違うよな?」


 「それなんの話?」


 俺が話しかけたサメって男は俺に視線を合わせないで答える。

 AKを構えた方向の相手から目を離さないからだ。

 こーゆー奴は実直で助かるが、ギャグが通じないのは少し寂しいね。

 俺は肩を竦めて、サメが構えている方向に目を向ける。

 ボコボコにされたオッサンが壁にうな垂れて「ガキどもが。クソ。死にたくない。助けて」とか、ゴニョゴニョ言ってる。

 俺はオッサンの頭にサプ付きのp7m13を押しつけた。

 ガキ勢がガキ勢同士、舐められない様に強がってんだからさぁ、そーゆーのは良くないぜオッサン。

 「こいつがミスったって話」

 俺はサメに答えながら引き金を引いた。





 「ケース、今月の接着剤と殺鼠剤、殺虫剤は100パーセントの買付だよ」

 倉庫の片隅に無理やり作られた事務所の来客用ソファでヘラヘラしてるこいつの名前はスバ。

 こいつは虎瑛党って訳じゃないが、空路と海路から仕入れた品の買付けに力を貸してくれる言わばビジネスパートナーだ。

 九龍貿易商会の中では鳳仙会にも四龍組にも属さない異端の存在ではあるが、金で動く分には信頼が置ける。

 「すまんね。助かる」

 俺は茶の代わりにエナジードリンクを缶のまま机に置く。

 フィーア地区の陸路は虎瑛党の支配下ってのは俺がフィーアに来た頃から変わっていないが、俺が頭になってから海外から仕入れる物は大きく変わった。

 接着剤はヤバイ隠語とかじゃなくて、マジの瞬間接着剤。

 殺鼠剤も殺虫剤もマジで意味の通り。

 ヤバイ薬と必要ない武器の仕入れは片っ端から削除した。

 陸路を担う虎瑛党は九龍貿易商会では國に一番近い窓口になる。

 先行きを考えたら嫌でもクリーンな金の流れが必要になるからだ。

 「しかし殺鼠剤に殺虫剤は良いところに目をつけたもんだね。四龍組の港はネズミが絶えないし、鳳仙会の中華街はゴキブリ生産場ときてる」

 スバはフランクな感じで話す一方で、缶に細工がないか舐めます様に確認する。

 そこそこの付き合いになるが、警戒心を解かないスバを見ると改めて金にしか信頼していないのがわかる。

 「虎はご存知、鳥と龍がいないと売る物がねーからな」

 「そう!そこである程度の知恵と技術がいる害虫駆除って訳だ。確かに経験が資本なら儲けはデカいね。ケースくん良いよ。オレと組めばもっと稼げるぜ?」

 スバは話を被せて嬉しそうに話す。

 虎瑛党に売れる物がないってのは事実だが、お世辞でも否定しないのが流石だ。脳味噌に金が詰まって人に気を使えなくなったに違いない。

「……デリカシーのないヤローだ。で、ホントは何しにきたんだ?」

 俺はスバのペースを断ち切るように話を変える。

 「あぁ。いつも買い付け頼まれてるフルメタルジャケット弾ね。市場に動きがあったよ」

 「なに?」

 「今月虎瑛党で抑えられたのは70パーセント」

 フルメタルジャケット弾。

 ハンドガン、アサルトライフル含めて貫通力を優先した弾丸だ。

 この品は九龍貿易商会の中では外部に捌くのにほぼほぼ虎瑛党が任されている。

 通常なら8割9割は虎瑛党に回る品だ。

 「内訳は?」

 「あー。こっからは有料コンテンツ」

 チッ。俺は舌打ちをして、机の引き出しから封筒を取り出し、手渡す。

 「15パーセントは鳳仙会。内容もアサルトライフル用。これは誤差あれど毎月の事だから良いんだけど、問題は残りの15パーセント。四龍組が……」

 スバは節操なく封筒を開きながら話し出すが、封筒を開いたタイミングで話を止める。

 「って。これ、キミんとこの通貨じゃん」

 中身の札束をペラペラ見せつける。

 確かに俺が渡した封筒は虎瑛党が牛耳る商業地区で使える専用の通貨だった。

 「あぁ。Cじゃ足がつく。特にスバに流れる金は目を付けられてるからな。ウチで使える金で手を打て」

 「えー。だってここで買えるもんなんて接着剤くらいだろ?」

 確かに言えてる。虎瑛党の縄張りは害虫駆除以外で観光産業の基盤のために瞬間接着剤を推しているからだ。

 「しかし美味い酒といい女は多いぜ?」

 真面目に働ける環境を揃えるのには遊べる場所も必要だ。

 飲み屋街には害虫駆除、接着剤販売の次に力を入れている。

 「オッケー、キミとの仲だ。たまには気兼ねなく休暇でも取るよ」

 スバは肩を落としながら承諾した。

 「で、話の続きだけど、弾薬の15パーセントは四龍組、しかもハンドガン用の鉄鋼貫通式レアメタル弾だ」

 「……そりゃ、珍しいな」

 四龍組はホローポイント弾大好きクラブだ。貫通弾より破壊力重視の弾丸を好む。

 破壊力と貫通力のバランスが取れたアサルトライフル用の弾丸ならともかく、新製品のハンドガン用の殺傷能力の低い貫通弾が売れる事なんてまずない。

 「で、四龍が買ったあと、どっかに流れた」

「どっかって?フィーア地区外か?」

 ……いや、それはない。貫通弾はフィーア地区以外のやりとりでは全て関税をかけている。

 俺が頭になった時、九龍貿易商会会合でギャンギャン吠えてそうした。

 なぜなら貫通弾は海外相場で安価だが、國ではサイバネヤローみたいな硬い奴らに唯一の有効打になり、需要があるからだ。

 九龍以外の派閥に食い潰される前に相場の見直しが必要だった。

 「区外なら商会の履歴に残るよ。多分、フィーア地区内でさばかれてるね」

 読み通りだ。じゃなきゃわざわざスバが教えに来るはずがない。

 「枢木は絡んでるのか?」

 俺が貫通弾に関税をかける提案をした時、率先して賛成した男が二人いた。

 一人は鳳仙会のウータイジン。そしてもう一人が四龍組の枢木彩雅だ。

 こいつがいなかったら四龍のジジイ共も首を縦には振らなかっただろう。

 「いや、今のところはノータッチだと思うよ。枢木さんは海外に買い付けに行ってまだ戻ってないはず」

 枢木は貫通弾の価値に気付ける切れ者だ。四龍組の要と言える。

 他の雑魚とは訳が違うが、あいつが絡んでたらかなり面倒だな。

 しかし、区内でさばいてるなら、単純に下っ端の小遣い稼ぎか?

 確かに、フィーア地区にだって九龍貿易商会に属さないチンピラはいる。

 実際、俺が虎瑛党を占めてから、それが気に食わなくて抜けてった奴だっていない訳じゃない。

 「どっちにしろ、きなくせー」

 俺は頭を抱えた。

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