魔法>スキル
「良いXXX!?絶対に言いふらすんじゃないわよXXXォ!」
「あの、ちょっと声を抑えた方が…。」
(う、うわぁ…。)
エルちゃんからの情報を基に向かった先は、ティアノス郊外のある一軒家。そこにお住いの金髪ツインテールの魔法使いさんが今回の被害者らしい。高らかに淫語を叫んでいる所を見ると、哀れで仕方ない。
「筆談とか、なさらなかったんですか…?」
私がそう聞くと、文字の書かれた紙をこちらに見せる。えーっと、何々…。
『やろうとしてもこうなるのよXXXX。』
「…なるほど。これは回避しようがないですね…。」
筆談もダメとは、流石ワルプルギスの魔法だ。隙が欠片も無い。これ以上の被害者を増やさないためにも、彼女に魔法をかけた魔法使いを聞かなくては。
「誰が貴方に魔法をかけたんですか?」
「ブレディオとかいうクソXXX野郎よXXXX!」
(あ、この人元から口悪いんだな…。)
お陰でワルプルギスの魔法関係なく伏字を使う羽目になったじゃないか。せめて私のモノローグだけは、健全な字面を心がけていきたい所存であります。
「ありがとうございます。情報を頂けたお礼として、まずは呪いを解くように掛け合ってみますね。」
「お願いねXXX!」
◇
「ギャハハハハ!」
目の前で爆笑していらっしゃるのは、褐色金髪の優男。金髪を軽く後ろでまとめた、いかにも遊び人感漂う人物である。
今、私達はティアノスの端の端、『捻れ塔』の正反対の位置にいる。住宅街に同化するように建っている、工房の入り口にて立ち話中だ。
「あれではあんまりです。どうにか魔法を解いてあげて下さい。」
主に人間の尊厳的な意味で。
「あ~おもろ。さすがワルプルギスの魔法やわ。ま、十分楽しませてもろたし、直接様子を見たら解除したるわ。」
ひとしきり笑い終わると、平静を取り戻した橙色の瞳がこちらを射貫く。こちらを品定めするような視線に、見られた瞬間に不快感が走る。
「――――で、アンタらは何の用や。まさかそれだけ言いに来たって訳じゃあないやろ。」
放たれる威圧感に竦みそうになるが、ここで引き返すわけにはいかない。ようやく掴んだ手がかりだ、ここでものにするしかない。
「ワルプルギスの一次写本。貴方はこの言葉に聞き覚えはありませんか?」
私の言葉を聞くと、ブレディオは金髪を掻いて目を逸らす。そして、あっけらかんと言い放った。
「知らんなあ。というか、それはお前らの管轄やろ。オレが知る道理はない。」
(載ってた魔法を使っておいて、良くもぬけぬけと…!)
余りの白々しさに腸が煮えくり返りそうになるが、ぐっと堪える。ここで怒っては話しが進まない。
「では、先程使っていた魔法はどこで学んだものですか?」
「知らんなあ。そんなもんとうの昔に忘れてしもたわ。」
そう言われてしまうと、こちらは何も追求できる点がない。このまま知らぬ存ぜぬを通されてしまえば、折角手に入れた切っ掛けが水泡に帰してしまう。
(どうする…どうすればコイツから情報を引き出せる…?)
頭を回転させて、何とかしてこのつかみ所の無い男から情報を引き出さねば。
「情報を頂ければ、個人的に支援も…。」
(コイツ金にがめつそうな顔してるし、金で落とせば…!)
「悪いが魔法使いは信用第一や。おいそれと依頼人は裏切れんなあ。」
「依頼人、とは?」
「おっと、口が滑った。アンタさんが気にすることじゃないで~。」
(アレックスから金はたんまり受け取ってるって訳か…。とすれば、後はどんな手がある…?)
私の申し出をばっさりと断ると、ブレディオは怠そうな顔でドアノブに手をかける。
「悪いが、この後から魔法の使用実験があるんや。新しく学んだモンが100個ほどあるからなあ?」
(使用実験…それだ!)
「ちょっと待って下さい。その実験、お手伝いさせて頂けないでしょうか。」
閉じかけた扉に手を入れ、無理矢理こじ開ける。扉の向こうにいる彼は、飄々とした態度を崩して面食らっているようであった。
「はあ?お前、何言って…。」
「我々と模擬戦闘を行い、貴方が勝ったら言うことを聞きます。我々が勝てば情報を頂きます。貴方は新たに得た魔法を実践で使用できますし、勝てば我々をこき使えます。悪い話ではないのでは?」
(こい、乗ってこい…!ここで何としても証言を得なければ…!)
相手にメリットが十分ある話だ。こちらは魔法なんて一切知らない一般人。しかも相手の土壌で勝負を行う。下準備が重要となる魔法使いにとって、これは破格の条件の筈だ。
ブレディオは腕を組んで考えると、目を開いて再度こちらを品定めする。
「…本当にいいんやな?オレが勝ったとき、お前らに何をさせても文句は言わんな?」
「ええ。魔法の実験台にされようが何も言いません。」
「分かった。その話に乗ったる。こんな美味しい話聞かされたら首を横に振れんわ。お前ら3人、オレの後に付いてこい。」
(キターーー!)
降って湧いた僥倖にガッツポーズをして喜ぶ。これで首が繋がった…!
ブレディオの家の玄関口から上がり、私とアストロさん、エルちゃんは屋内を歩く。一見普通の家にしか見えないが、ブレディオの向かう先には地下へと続く階段があった。
木のフローリングの一部が開き、そこから薄暗い地下空間へと道が続いている。
「ここや。」
コンクリートで打ちっ放しの暗い通路を抜けると、突き当たりには巨大な空間が空いていた。
半球状で床は白く塗られ、光源もないのに光輝いている。
ブレディオは部屋の中央に立つと、入り口から入ってきた私達を手を広げて迎える。
「ここならいくら暴れても大丈夫。どんだけ威力のある魔法でも撃ち放題の、自慢の実験設備や。」
(いくら暴れても大丈夫、ね…。なるほどなるほど。)
これは都合が良い。いや、何がとは言わないけれども。
「言わせて貰うが、魔法はスキルより強い。これは確定事項や。」
ブレディオは既に勝ちを確信しているのが、笑みを浮かべて語り始める。顔が良いのでとても様になっていた。
「お前らが産まれてから割り振られてる一個を、こっちは魔法で大体再現できるんや。それも何個も同時に。」
「卓越した魔法使いが『隔離』されたんも、アイツらが強すぎるからや。紛れもなく、神は魔法を恐れたのさ。」
(…まあ、ワルプルギスとかも『隔離』されたらしいしね。案外それは間違ってないかも。)
寿命なんぞ超越しきった彼等は、魔物達と同様に異世界に追放されたらしい。そう考えると、魔法を極めた彼ら彼女らの脅威度が理解できる。
「…とまあ、これだけ語ったんや。ハンデくらいは付けたる。お前らの勝利条件は、オレに一発当てること。対してオレの勝利条件は、お前らの意識を奪うこと。これでええやろ。」
「なるほど。降参はありだろうか?」
「ありだが、禄に試せもしないうちに止めるのは堪忍な。オレかて新魔法は使いたいんや。というかアンタ、そんなガタイして自信無いんか?」
「いや、もしもの時に止められる様にだ。まず私が一番手で出よう。」
そう言うとアストロさんは中央に向けて歩き出す。その威風堂々とした佇まいは、いつ見ても最強感が漂っている。
「ほ~う、面白そうやん。ほんじゃ姉ちゃん、合図頼むわ。」
二人が中央で相対すると、ブレディオは私に合図を促す。
…ぶっちゃけ、ここまでこぎ着けた時点で勝ったようなモンなんだけどね。
「では。――――始め!」
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