第7話 最終話


 オティリーVS魔王の勝敗は、オティリーの勝利。魔王は負けた時のセリフが決まっているのか、仰々しい褒め言葉を残して、光の粒子となって消えてしまった。


「な……なんでだ~~~!!」


 突然叫んで頭をかきむしっているジュンに、オティリーはゆっくり歩み寄って剣の切っ先を向ける。


「貴様の用意した魔王など、穴だらけだったぞ。ユラ殿なら確実に勝てるはずだ」

「勝てるわけがないんだよ! この理不尽姫が!!」


 喚き散らすジュンとは話が通じないと感じたオティリーは、剣を振り上げる。


「は? 馬鹿か?? このアバターは、非殺傷キャラだ。何をしようとも、攻撃なんて通じないんだよ!」

「ならば試してみよう」

「む……あへ?」


 オティリーが剣を振り下ろした瞬間、無理だと言おうとしたジュンであったが、無情にも体は真っ二つとなった。


「なんだ。斬れるではないか」

「にゃんれ~~~!?」


 ジュンが両手で顔をくっ付けようとしても、無駄なあがき。体が光の粒子となっていく。


「我が理不尽姫だからではないか?」


 最後のジュンの質問に答えたオティリーは、きびすを返して剣を鞘に収めるのであった。



 それから観客席にいるメイの元へ戻ったオティリーは、問い詰められていた。


「あの……オティリーさんは、あの理不尽姫なのですか?」


 ようやくメイは、オティリーがAIだと確信したようで、青い顔をしている。


「最初からそう言っているだろう。いや、貴様は我の話をまったく聞いていなかったな」

「ど、どうして開発者さんに狙われているのですか?」

「マスターが変わったとか言っていたけど、正直わからん。我のほうが知りたいところだ」

「で、では、オティリーさんの目的は……」

「いまのところ、美味しいフルーツタルトを食べる事だ。あとは、モンスターもモフモフしてみたいな」


 恐る恐る目的を聞いたメイは、キョトンとした顔になる。


「悪いか?」

「い、いえ……てっきり、バルドル・オンラインをめちゃくちゃにする事が目的だと思っていたので……だから、開発者さんが止めに来たのかと……PKさんも殺しまくっていたし……」

「おいおい。ずっと我の事を見ていただろう? 我は降りかかる火の粉を払っただけだ。こちらに来る前も、真っ当に金を稼いでいたぞ。攻撃して来るヤツからは、金は貰っていたがな」

「……よかった~~~」


 どうやらメイは、アナスタシス社が送り込んだ刺客としてオティリーを見ていたらしい。だが、オティリーの目的を知って、心底ホッとしたようだ。


「よかったとは?」

「だって、初めてできた友達ですも~ん」

「プッ……あはははは」


 突然大声で笑うオティリーを見て、メイは頬を膨らませる。


「もう~。どうして笑うんですか~」

「ははは……いやなに、貴様は人間というやつだろ? 我をゲームの中の住人と知ってなお、友達で居続ける心配をしているとはな」

「AIと聞いて驚きましたが、オティリーさんは人間と変わらないですよ。こうやって会話もできるんですからね」

「貴様も変わっているな」

「貴様って言わないでください~。私はメイ。友達なんですから、名前で呼んでくださいよ~」

「ふむ……たしかに失礼か。わかった。メイだな」


 自分で言わせておいて、メイは何故か照れるが、頭を振って気を取り直す。


「それじゃあ、これからもよろしくお願いしますね。オティリーさん」

「うむ。よろしく。メイ」


 メイに差し出された手を、オティリーは微笑んで握る。


「いたっ! HP減ってます~!!」

「おお。すまない」


 メイは握手を交わしたのはいい事なのだが、レベル差がありすぎて、しばらくはオティリーから触れる事は禁止となるのであった。


「あ、そうだ! 名前と見た目を変えません? いまのままでは開発者さんやPKの人にすぐ見付かりそうじゃないですか?」

「なるほど……かなり目立ってしまったものな。しかし、そんな方法があるのか?」

「名前は、たしか偽装アイテムで偽名にできたはずです。見た目はウィッグと服を買えばすぐですよ! 私がイメチェンのお手伝いします!!」

「服をか……」


 オティリーは見た目を変える事は賛成なのだが、メイの買い物に少しだけ付き合った経験から、時間が掛かると思って少し尻込みする。


「いいからいいから。かわいい服を選びますよ! 行きましょう!!」

「う、うむ……」



 こうしてメイに、バルドル・オンラインデビューをさせられた理不尽姫ことAI『オティリー・ブリュレ』は、大好きなフルーツタルトを美味しくいただきつつ、様々な問題を起こして、ゲーム内を騒がせるのであった。



               おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ティムした裏ボスを野に帰したら行方不明になった件 @ma-no

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ