第6話 オティリーVS魔王


「見付けたぞ! オティリー・ブリュレ!!」


 メイの質問に答えようとしたオティリーだったが、訓練場に入って来た白衣姿の男の声で遮られる。


「我と貴様は初見のはずだが、何用だ?」


 オティリーを追っていたと思われる男に対して、知らないと自信満々に問うオティリー。


「AIに仕込まれているアナスタシス社のシステムロックを外すには、一度お前を殺してシャットダウンしないといけないんだ。おとなしく死んでくれ」


 白衣の男の正体は、バルドル・オンラインを作ったブラインダー社のプログラマー『日佐目 ジュン』。

 吸収合併したアナスタシス社とのトラブルのせいで、一番欲しかったAI『オティリーブ・リュレ』のロックを掛けられてしまい、わざわざオティリーが現れるであろう第一の町を見張っていたようだ。


「殺すと言われて、我が簡単に殺されてやると思うのか?」

「俺はマスターだ。命令に従え!」

「マスター? マスターならば、設定変更のお知らせができるだろう。何故、そうしないのだ??」

「パスワードがわからないんだよ! いいから死ね!!」

「できないのならば、マスターではない。死ぬのは貴様のほうだ」


 オティリーは観客席から飛び降りると、ジュンに剣を向ける。


「話の通じないヤツだな……ほんと、作ったヤツそっくりだ」

「抜かないのなら、こちらから行くぞ」

「チッ……俺は戦闘が苦手なんだ。だから、こいつが相手してやる。プログラマー権限、出でよ魔王!!」



 ジュンが魔王と叫んだ瞬間、オティリーの目の前の空間が歪み、3メートルはありそうな角の生えた男がマントをたなびかせて現れた。


「オティリー・ブリュレを殺せ!」

「はっ!」


 魔王はいきなりの大魔法。5メートル近くある真っ黒な炎【黒炎】をオティリーに放った。

 しかし、オティリーは素早さを活かして横に飛び、なんとか避ける。ただし、その後ろにいるメイは、【黒炎】が当たりそうになって悲鳴をあげたが、観客席の手前で消えていた。


「思ったより速いな……しかし、この魔王には敵うわけがない。ただでさえ、ストーリーのラスボスなんだ。そのステータスを全て倍にしたのだからな。いけ~~~!!」



 バルドル・オンラインのラスボスVSデリング・オンラインの裏ボス。


 魔王VS理不尽姫、夢のバトルの開幕。



 魔王は有り余るMPで【黒炎】を連続で放ち、オティリーは走り回って避ける。

 オティリーはかする程度なら気にもせず、完全に当たりそうな場合は【剣気】で吹き飛ばし、飛ぶ斬撃【半月】で反撃。しかし、魔王もオティリーと同じぐらい素早いので、避けられてしまう。


 お互い遠距離からは勝負がつかないように見えるが、オティリーの計算では、ややオティリーが不利。なのでオティリーは斬撃を放ったあとに、自身も突っ込んで剣を振るった。


「無理無理。いくら理不尽なぐらい強いと言われるオティリー・ブリュレでも、ブースト魔王に勝てるわけがないだろ!」


 魔王の持つ禍々しい大剣に、オティリーの剣が止められると、ジュンは嘲笑う。

 だが、オティリーは気にせず剣を振り続け、剣と剣が火花を散らし、金属音だけが訓練場に響き渡る。


 剣の勝負も、ややオティリーの不利。力で負け、剣の重さにも負け、いくらオティリーが動き回っても受けられる。それだけでなく、剣が合わさる度に押されるので、連続で攻撃する事も難しいようだ。


 そうして何度も攻撃を繰り返していたオティリーは、お互いの剣がぶつかった瞬間、ついに大きく吹っ飛ばされた。


「はははは。勝負ありだな」


 大声で笑うジュン。その声に、オティリーは涼しい顔で応える。


「確かに地力では、我が劣っているな。だが、それだけだ」

「フッ……強がりを言ったところでもう終わりだ。殺せ!」

「はっ!」


 魔王は最大魔法を連続で放つが、オティリーにかする事すらなくなった。これは、今までの学習の効果。ただでさえ、30人のプレイヤーの息の合った攻撃をオティリーはしのいで来たのだ。

 たった一体の魔王の魔法など、速度、予備動作、次の動作をオティリーに完璧に捉えられ、紙一重で避けられる。


「くそっ……当たらねぇ……もっと速く撃てよ!」

「はっ!」


 いくらジュンがスピードアップを要求しても、魔王は設定スピード以上の攻撃はできない。

 魔王の動きを見切ったオティリーは簡単に避けて、斬撃を飛ばす。


「無駄だ!」


 魔王の懐に入っても、先ほどの剣撃を繰り返すだけだと思うジュン。しかし、次の瞬間に、オティリーの剣は魔王の脇腹に深々と刺さっていた。


「な、なんだと……」


 単純に、魔王の剣をすり抜けて、オティリーは剣を突き刺しただけ。

 魔法で設定スピード以上の動きができないということは、近接戦闘でも同じ。先ほどの近接戦で魔王の癖を全て把握したオティリーならば、一方的に斬り続ける事だって可能なのだ。


「それがどうした。魔王のHPをナメるな! いつかミスをするはずだ!!」


 たしかに大量のHPをゼロに持って行くまでには、オティリーの攻撃力があったとしても30分近くかかるだろう。人間ならば、集中力が続かず、小さなミス、大きなミスをして、大ダメージを受ける。


 しかしながらジュンは忘れている。


 オティリー・ブリュレは人間ではなく、AIだ。


 オティリーは、一度の被弾なく、一切のミスもなく、剣を振り続け、魔王の有り余るHPを削りきったのであった。

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