第5話 オティリーVS100人のPK
「掴まれ!」
「えっ? あっ……はい! ……ええぇぇ!?」
いきなりオティリーに掴まるように言われたメイは、おろおろしながら抱きついたら、地面が無くなった。
驚く事に、オティリーはメイを抱いたまま訓練場の高い壁を飛び越え、観客席に登ったのだ。
「このゲームで、そんなに高く飛べたのですか?」
「しらん。それよりここは安全かもしれないが、敵が迫って来たら大声を出すんだぞ?」
「は、はあ……」
オティリーは、訓練場の戦闘フィールド以外なら殺されないと思って観客席に飛び乗ったようだ。事実、PKたちは「降りて来い」とか叫んでいるので、間違いではなさそうだ。
その声に応え、オティリーは観客席から飛び降りて、PKの前で不適に笑う。
「ざっと100人ってところか。30人ってのはやった事はあるが、楽しみだ。クックックッ」
「誰が楽しませるか! 金を奪うだけでなく、お前の装備も耐久度ゼロにしてや ……ぎゃ!?」
男の喋り終わりを待たずに、首を切断。オティリーは一太刀で死に戻りに追い込む。
「てめぇ! まだ喋っていただろうが! ぎゃ~~~!!」
新たに男がいきり立って前に出て来ると、オティリーはまたしても首を切り落とした。
「学習せんヤツだな。我の間合いに無造作に入るから悪い」
「弓だ! 魔法だ! 遠距離から狙え!!」
さすがに三人も斬り捨てられたのだから、PKも考えだし、弓矢と魔法の雨に
ウインドアローやファイヤーボール、サンダーアローや範囲攻撃魔法なんかも飛んで来た。
「笑止!」
そこに、オティリーのアーツ【剣気】発動。オティリーを中心に、扇状に衝撃波が放たれ、全ての遠距離攻撃は吹き飛ばされる。
「嘘だろ……ぐわっ!」
呆気に取られる男は、オティリーに後ろから心臓を貫かれて死に戻り。ついでに近くにいたプレイヤーも、5人ほど斬られて死に戻りとなった。
「つまらん……数が多いだけの烏合の衆か」
「囲め! 囲んで遠距離攻撃だ!!」
死地に飛び込んだオティリーは、PKに完全に囲まれてしまった。
「さっきのアーツ、たぶん後ろには使えねぇはずだ! 後ろを取ったヤツは撃ちまくれ!!」
ここでようやく連携の取れた戦闘になって来て、遠距離攻撃が常にオティリーの後ろから放たれる。
オティリーはその都度振り向いて、数が多い場合は【剣気】で吹き飛ばし、少ない場合は剣で叩き掻き消す。
しかし、PKはいまだ100人近く残っているので、オティリーは時々被弾してしまう。
「ど、どうなってやがる……もうとっくに死んでいてもいいだろ……」
バルドル・オンラインのHP設定ならば、弱い魔法でも50発も当てれば確実に死に戻りとなる。だが、オティリーの被弾はすでに100発を軽く超えているのに、一向に倒れる気配がない。
「くっ……くそ。MP切れだ……」
そんな中、MPの無くなったPKがチラホラ現れた。
「魔法を撃ちつつ、距離を詰めるぞ! 接近戦の準備だ!!」
ここで作戦変更。PKは慎重に輪を小さくし、槍や剣が届く距離に近付こうとする。
「それは愚作だ! フンッ!!」
オティリーの【剣気】発動。目の前にいた前衛は、吹き飛ばされて距離が開く。それと同時に、オティリーの飛ぶ斬撃。今まで隠していたアーツ【半月】を放ち、大きな風の刃に吹き飛ばされた前衛と後衛の数人は死に戻りとなった。
そして直ぐさま振り返り、後ろにいた前衛と衝突。三対一となるが、まったく力負けしないオティリーは、大盾を持つ男を蹴り飛ばし、チームバランスが崩れた瞬間、二人を瞬く間に斬り殺す。
その頃には、【剣気】のブレイクタイムが過ぎ、目の前のPKは吹き飛ばされて飛ぶ斬撃に晒される。
たった三度……その三度で、残りPKは半分を切り、オティリーを化け物を見る目で見る。
「「「「「理不尽姫……」」」」」
そう。デリング・オンラインのプレイヤーで、理不尽姫を知らない者はいない。
このPKたちも、元々はデリング・オンラインからの移住者。廃れ行くデリング・オンラインから、新発売となったバルドル・オンラインへすぐに移住した者は、オティリーの事を理不尽姫と重ねて恐怖しているようだ。
しかし、オティリーは待ったなし。凄まじい速度で走り回り、怯えるPKを斬り捨てて行くのであった。
「ムッ……何人か逃がしてしまったな。一網打尽にしてやろうと思っていたのに失敗だ」
どうやらオティリーは、わざと攻撃を受けて、PKを一人残らず死に戻りにしようと考えていたようだ。理由はおそらく、二度とPKをさせないため……
「まぁこれだけあれば、当分フルーツタルト代に困らんだろう」
完全にお金でした~。
「キャーーー!」
誰も居なくなった訓練場に、ただ一人立つオティリーは剣を鞘に戻すが、その時、悲鳴が聞こえて来た。
オティリーは何事かと振り返ると、そこには死に戻りから戻って来たセグメトが、メイを後ろから羽交い締めにしている姿があった。
「他の奴等はどこに行ったんだ!?」
ポータルの近くでしばらく待っていれば、PKの死に戻り集団に出会えただろうが、すぐに戻って来たセグメトは、誰も居なくなった訓練場を見て声を荒らげる。
オティリーはこのまま外に出てしまおうかとも考えたが、メイを無視するのもかわいそうかと思い、二人の立つ観覧場に飛び乗った。
「なんてジャンプ力してるんだい……バグ技かなんかか?」
「しらん。それより、まだ我に用があるのか?」
「ほ、他の奴等は……」
「全員斬った」
「有り得ない……これじゃあ、まるで理不尽姫そのものじゃないか……」
「そのものも何も……」
「オティリーさんは、理不尽姫のロールプレイが完璧なんです!」
オティリーが答えようとするが、何故かメイが誇らしく答える。しかしそのせいで、セグメトは人質をとっていた事を思い出してしまった。
「いいことを教えてやるよ。観覧場は戦闘NGだけどね、バットステータスなら殺す事が出来るんだよ」
セグメトは、アイテムボックスから毒々しいフルーツタルトを取り出して、メイの顔の近くに持って行く。
「ネタ技だけど、ケーキは顔にぶつける事が出来るんだよ。それも猛毒りんごや猛毒ぶどうを使った毒5のケーキだ。5分もしない内に死に戻りだよ!」
「フルーツタルトに、毒だと……」
まさか自分の好物に毒を仕込んでいると聞いて、オティリーは怒りの表情に変わる。しかしセグメトは、メイが殺されるからの焦りと受け取ったようだ。
「何も全員分の金を返せってわけじゃないよ。あたしから奪った金を返してくれたらいいんだ。それだけで、この子は解放するし、今後一切、あんたらにちょっかいかけないと誓うよ」
破格の条件を出したセグメトだが、オティリーには通じず。オティリーは剣を抜いた。
「わからないヤツだね。ここでは、攻撃は通じないんだ…よ。えっ……??」
その瞬間、セグメトの毒フルーツタルトを持つ腕は、二の腕辺りからポトリと落ちた。
「なんだ。当たるではないか。HPも減ってるぞ?」
「な、なんでここで……」
「さあ? 我が理不尽姫だからではないか?」
「待った! もう金を返してくれと言わないから逃がしてくれ!!」
オティリーが剣を振り上げると、また全財産の半額になる事を嫌ったセグメトから泣きが入るがお構いなし。オティリーは後ろに回り込むと、頭に剣を突き刺して終わりとするのであった。
「終わったぞ」
へなへなと腰を落としたメイに、オティリーは声を掛ける。
「あ、あの……オティリーさんは、実は本物の理不尽姫ってわけじゃありませんよね?」
さすがに、プレイヤーにしては有り得ない戦闘を繰り広げたオティリーを、ロールプレイだけでは片付けられないと感じたメイは問う。
「何度も言うが、我は……」
「見付けたぞ! オティリー・ブリュレ!!」
オティリーがメイの問いに答えようとした瞬間、見たこともない白衣姿の男が訓練場中央にて叫ぶのであった。
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