第3話 パンケーキ屋


 オティリーとメイは隣り合って歩き、第一の町にあるポータルにて登録を済ます。その時、オティリーはメイにやり方を聞いていたが、徹底的にロールプレイを続けるオティリーを見て、メイは感心していた。


「では、我は行くな」


 用事の終わったオティリーは、さっさと噴水広場から離れようとする。


「待ってください!」


 しかし、再びメイに回り込まれた。


「なんだ?」

「フレンド登録してください。フルーツタルトが美味しくできたら連絡しますので……いま、申請送りますね!」


 オティリーはロールプレイの最中なので、やり方をを知らないと言って来ると思ったメイは、先回りしてフレンド申請を送る。オティリーもフルーツタルトのために、メイの説明を聞きながらフレンド登録をしていた。



 それから別れの挨拶をしたオティリーは歩き出すのだが……


「何故、ついて来るのだ?」


 メイが金魚のふんとなって離れてくれない。


「今日やることはやったので、暇なので……」

「暇なら狩りに行くとか、やることはあるだろうに」

「だって……ゲーム内で、初めてできた友達なんですも~ん。一緒にお茶とかお喋りしたいんです~」


 何やらボッチが嫌なのか、メイはオティリーの腕に絡み付き、離れようとしてくれない。一瞬殺そうかと頭によぎったオティリーだが、お茶をすれば帰るかと考えて、目に映ったカフェを指差す。


「あそこでどうだ?」

「う~ん……あそこはNPCのお店ですし、他に行ったほうが美味しいと思いますよ」

「なるほど……ならば、案内するといい」

「はい!」


 メイに案内を頼んだものの、メイもバルドル・オンラインは初めてだったので、どこがプレイヤーのやっているお店かいまいちわからない。

 なので二人でウロウロするが、メイは気になるお店が目に付くと吸い込まれるように入り、服や花を愛でるので、その都度オティリーに首根っこを掴まれて連れ出されていた。



 そうしてやっとこさ入ったプレイヤーがやっているカフェで、メニューを見たオティリーはガッカリする。


「フルーツタルトがない……」

「パンケーキ専門店みたいですね。で、でも、フルーツが多く使われているパンケーキもありますよ!」

「それで我慢するか……」

「店員さ~ん!」


 メイが店員を呼ぶとNPCらしきメイドが注文を聞き、支払いを受け取ったら、素早くパンケーキと紅茶が並ぶ。メイは「いただきます」と言ってから食べ始め、オティリーは並んだそばから食べていた。


「うまい! 我の通っていたケーキ屋よりうまいぞ!」

「あはは。デリングの後期は、お店で儲けようと思う人がいなかったから、みんな閉店していましたもんね」

「ここはプレイヤーの店ばかりなのか?」

「たぶんデリングより遥かに多いと思いますよ」

「ふむ……探しがいがあるな」

「あ! フルーツタルトは、私が最高の物を作るので、もう少し時間をください!」


 オティリーとの繋がりを切りたくないメイは、エサで食い止めようとしていたが、オティリーにはあまり通じないようだ。ただ、メイが涙目になっていたので、オティリーは「楽しみに待っている」と言わされていた。

 それからオティリーのおかわりが10個を超えた頃に、このパンケーキ専門店を経営しているポニーテールの女性プレイヤーが近付いて来た。


「味はどうだった?」

「うむ。大変美味であった」

「それはよかったわ。こんなに食べてくれて、あたしも嬉しいよ。もう、最近はPKが多発してるからって……」


 パンケーキ屋の店主トトは、オティリー達のテーブルにまざって愚痴を喋り出す。


 デリング・オンラインから流れて来るプレイヤーのために気合いを入れてパンケーキを多く用意したのに、PKがプレイヤーを殺しまくるので、金欠になったプレイヤーは客として入ってくれない事態となっているとのこと。

 第一の町でPKに顔を覚えられると、二度三度と襲われるから、第二の町にさっさと向かって行くので、初心者やデリング・オンラインのプレイヤーは皆無となり、ウロウロしているのはPKばかりとなっているらしい。


「もう、店持ちの生産職は泣くしかないわよ~」


 関西のおばちゃんみたいになったトトの愚痴を真面目に聞くメイとオティリー。


「私も襲われて大変でした~」

「フルーツパンケーキ、もう10個ほど貰えるか?」


 いや、聞いていたのはメイだけで、オティリーはまったく話を聞かず、何度かメイドを呼んでバクバク食べていた。


「あなたのお友達……大食いスキルでも持ってるの? もう30個も食べてるわよ??」

「今日、フレンド登録したばかりなので、あまり詳しい事は……」

「その食べっぷりは気に入ったわ。だから、あたしともお友達にならない? 食べたい物があったら作ってあげるわよ」


 トトがオティリーに声を掛けると、まったく話に入ろうとしなかったオティリーの耳がピクピク動き、信じられない速度で振り返る。


「まことか!?」


 トトとメイはその勢いで、髪や衣服を揺らした。


「フルーツタルトを作ってくれ!」

「べ、別にいい……」

「ちょ! ちょっと待ってください! フルーツタルトは私が作ると約束したじゃないですか~」


 圧の強いオティリーに押されて作っていいと言おうとしたトトは、メイの物言いを聞いてピキーンと閃く。


「あたしはフルーツタルトだけは作れないのよね」

「そ、そんな……」


 オティリーが腕が外れそうなぐらい肩を落とすと、トトはニヤニヤしながらメイの肩に手を乗せる。


「だから、彼女に作ってもらって。場所と素材は有料だけど、提供するわよ」

「か、彼女だなんて……」


 どうやら女性はユリ展開を期待して、フルーツタルトを作れないと言っていたようだ。

 そんな事を言われても、メイは顔を真っ赤にするだけ。しかしその表情は乙女の顔をしていたので、少しはそのがあると結論付けたトトであった。

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