第2話 第一の町


「たしかあったはず……あった! ありました!!」


 起死回生。護衛依頼を受けさせるために、メイはオティリーをエサで釣ろうと、フルーツタルトを取り出した。


「ふむ……見た目は普通だな」


 NPC売りのフルーツタルトとさほど変わらないので、オティリーは顔を暗くすが、一口味見をして、護衛依頼を受けるかの判断とする。


「確かに店の物よりは味がいいが、ユラ殿から貰ったフルーツタルトのほうが格段にうまいな」


 味にうるさいオティリーだったが、その顔は幸せに満ちた顔をしていたので、メイは脈アリとみて畳みかける。


「ユラって人の事はわからないですけど、料理スキルが高い人が作った物だと思います。私ももっと練習して、美味しいフルーツタルトを作りますから、今日のところはこれで守ってください!!」


 頭を下げるメイに、オティリーは問う。


「これは、貴様が作ったのか?」

「そうです」

「我でも作れるようになるのか?」

「はい。料理スキルをセットすれば誰でも……で、でも、現実世界で料理が上手い人の物は、もっと美味しく作れますよ!」


 オティリーに作られてしまっては、自分の価値が無くなってしまうと感じたメイは、慌てて言い直した。


「なるほど……わかった。護衛依頼を受けてやろう」

「本当ですか!?」

「その代わり、フルーツタルトを持っているだけ出せ。ケーキもな」

「は、はい!!」


 交渉成立。メイはありったけのフルーツタルトとケーキを、オティリーに前払いで渡すのであった。



 オティリーとメイは隣り合って歩き、第一の町に向けて進む。しかし、オティリーは無口でフルーツタルトを食べる時以外は顔を緩めないので、無言に耐えかねたメイは一人で喋り続けていた。


 メイは、デリング・オンラインでは花を育て、料理を作ったりなんかしていたこと。しかし、戦闘が苦手でお金が稼げず、一向にホームを持てなかったこと。本当はテイマーになって、モンスターをモフモフしたかった等々。

 最底辺ゲーマーの日常を聞かされていたオティリーは相槌すら返さなかったが、テイマーという単語に反応する。


「そのテイマーとやらになれば、我でもモンスターを飼えるのか?」

「はい。これもスキルをセットすれば誰でも。ただ、多く飼うにはホームか牧場がないとダメで、買うには高いんです」

「そういえば、ユラ殿も牧場を持っていたな。なるほど……あの数を揃えるには、牧場が必要なのか」

「そのユラって人……ひょっとして、トッププレイヤーの人じゃないですか? 一人で理不尽姫を倒したって掲示板で見たことありますよ」

「ふむ。我も一目置く男だ」


 ようやく二人の話が弾んで来た頃に、PKが現れる。


「ひゃっは~! 有り金置いてけ~~~!!」

「「「「「ぎゃははは……ぎゃ~~~!!」」」」」


 しかし、一蹴。オティリーに斬り殺されて、死に戻りとなる。それから町に近付けば近付くほどPKが増えていき、50人ほどのPKを斬り捨てた頃に、ようやく第一の町に到着したのであった。



「オティリーさん凄いです! まるで理不尽姫みたいでした~」


 理不尽姫とは、デリング・オンラインで最強を誇る裏ボスの女騎士のことだ。


 理不尽姫に挑戦する前に、恐ろしく強いビッグエッグと深淵竜を倒さないといけない。その二匹をなんとか倒して出て来た理不尽姫は、感謝の言葉を贈りながら握手を求めるのだが、手を伸ばした者は首を落とされる。


 理由は、深淵竜を狙っていたのは自分だと逆ギレされてのこと。


 戦えば深淵竜よりも倍も強いので、30人で挑んでも倒すまでには一時間を要する。ここでレアアイテムでも貰えたら、理不尽姫と呼ばれなかったのだろうが、何も無し。全員でゲーム内通貨2万モンを貰って、ボス部屋から追い出される。


 初見殺し、強敵、戦えば赤字。この三点から最後の女騎士が代表として、理不尽姫と呼ばれ、プレイヤーからそっぽを向かれる事となったのだ。


「みたいも何も……我がその理不尽姫だ」

「見た目も一緒ですもんね! もう本物と言っても過言じゃないです!」

「だから本物なのだが……」

「キャーキャー」


 テンションの高いメイに何を言っても通じず。オティリーはため息を吐きながら歩き出すのであった。



「それより、護衛依頼は終わったのだから、行きたい所に行くがいい」


 いつまでもオティリーについて来て、ずっと喋り続けるメイに、オティリーは迷惑そうにする。


「あ、そうでした。でも、オティリーさんはどこに向かっているのですか?」

「宿屋だ」

「宿屋ですか? ダメージを受けていなかったのに、必要なのですか?」

「まぁな」

「そうなんですか……でも、先にポータルの登録をしたほうがいいですよ」

「ポータル?」

「死に戻りをした時やログアウトした時は、ここからスタートになりますし、違う町のポータルに移動できるから便利なんです」

「ほう……そんな便利な物があったのか。それなら、いつも歩かなくてよかったのだな」

「またまた~。オティリーさんも知ってるくせに~」


 メイは、オティリーがロールプレイで知らない振りをしていると思いながら、ポータルへと案内するのであった。

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