第三章
堂本家にロボットがやってきて一週間。その存在を一番快く思っているのは母親だった。彼女はロボットの働きぶりを絶賛して、とても可愛がった。父親はロボットが忙しなく動いているのを見て「昔見ていたアニメにもこんなのが……」といつまでも懐かしさに浸っている。トウタは課題を楽に終わらせることができるので大変満足だった。
ユウタは相変わらずだった。ロボットが挨拶をしても一瞥するだけ。ロボットの姿を目にする度に、嫌悪に満ちた表情を浮かべるのだ。彼が事前に参考画像をちらりとでも見ていれば、あるいはこんなことにはならなかったかもしれない。
その日の夕食の時間。
テレビに写し出されたのは「お手伝いロボ」だった。毎週決まって見るバラエティ番組の、トレンド商品紹介コーナーで、それは取り上げられていた。
司会者がロボットのあれこれを説明していく。スタジオにいるゲスト達は口々に、すごーい、欲しいなどと言っていた。
皆さん是非手に入れたいとお思いでしょうが、このロボット実は日本に七十体しか存在していないんです。
司会者の言葉を聞いて、堂本家の人々は充電中の25号を見た。なんと、ではここにいるロボットはその七十体の内の一体なのか。その存在の希少さに驚かざるを得なかった。
その事実に一番食いついたのはユウタだった。家にいる不細工なロボットがとても希少な存在だと知って、彼の中でその価値は莫大に膨れ上がった。
実はゲストの東森さんはこのロボットを持っていらっしゃいます。そうですよね?ええ、そうです。家事を全部やってくれて、僕一人暮らしだからもう本当に助かっちゃって。
番組はどんどん流れていく。ユウタは瞬きも忘れるほど集中してテレビ画面を見つめた。東森は彼が今最も気に入っているお笑い芸人の一人だった。好きな
芸能人と同じものを持っていることが、ユウタには誇らしく思えた。それがいくら自分にとってはただの不細工な人工物だっとしても。
番組を見た日からユウタは、見事に手のひらを返してロボットに接した。関わってくるうちに段々と当初の嫌悪も引っ込んだらしい。友達と遊んでいるときのような表情で、ロボットと過ごした。
ロボットはそんなユウタに対しても堂本家の他の人々と同じように接した。決して感情的になることはなかった。そういうプログラムなのだろうか。
しかしロボットに感情がないわけではないらしい。母親に家事を褒められると、イエイエ、トンデモナイデスと言いながら照れたような仕草をする。
怒る、悲しむ、憎む、妬むという感情を知らないのかもしれなかった。
「25号ー。宿題教えて」
洗濯物を畳んでいた25号は、少々オ待チクダサイと言って急いで手を動かした。
洗濯物を片付け終わった25号は息つく間もなくユウタの向かいの椅子に座り、宿題のプリントを覗き込んだ。
25号の力を借りたユウタは以前の2倍近い速さと正確さでもって宿題を終わらせた。その正当率は先生にカンニングを疑われる程だった。25号の丁寧な説明のお陰で理解度も格段に上がった彼は、授業中に頻繁に挙手するようになり、次第に先生からの疑いも晴れていった。
彼は女子からも男子からも頼られるようになった。人気者の地位を獲得したのだ。小学校という小さな社会の中でも地位は重要だった。
一方のトウタも徐々に成績を上げていった。しかしさすがに高校の勉強は難しく、25号の解説を持ってしても一定以上のレベルには到達できなかった。それでも彼は満足だった。教師に指名されても慌てずに済むようになっただけでも大きな変化だった。
母親は毎日家事を頼んだ。その全てを完璧にこなしてもらえるので、彼女の負担は相当減った。心なしか表情が明るくなったように見える。隈が無くなったからだろうか。父親は特に頼み事をすることはなかったが、同じ空間にいるときはいつでも25号に視線を注いでいた。
25号は堂本家の人々に必要とされ、可愛がられ、存在しても良いという無言の許可を得た。
毎日忙しく働き、余計なことは一切言わず、少しの電気を食べていた。
そんな有能ロボットが知られざる計画の要に手を出そうとしていることに、堂本家の誰も気付いていなかった。
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