FILE149:私が守る。
「おらあ! さあ吐け、吐くんだ! 最終兵器・ビッグガイスターの設計図、どこに隠しやがった!? エ゛エ゛ッ!?」
「やめなさい! 私ならばまだしも、なぜリュウヘイを……」
アデリーンと蜜月を捕獲することに成功したジャン・ピエール・グルマンとその部下たちは、その2人と綾女と小百合の目の前で竜平をいたぶって、拷問にかけていた。
「設計図なんか知らないって……ウッ!?」
カモノハシの怪人となっているセザールが巨大な熊手となった爪を何度も叩きつけたばかりに、竜平はひどく傷つき、とくに流血した痕が痛々しい。
「こいつのアネキとオフクロをいたぶるのは、正直気が進まねぇーんでなぁー。だがこのガキンチョが相手とならば、話は別よ。情報を吐く気になるまで、こいつをとことん痛い目に遭わせてやらあ!」
追加で竜平を蹴っ飛ばし、踏みにじる。
情報を聞き出すだけならば、そうまでして痛めつける必要性は無いはずである。
なぜそうしているのか、それは――このセザールという男が残忍冷酷で凶暴だからに他ならない。
その暴虐ぶりには、今は見ているしか出来ないアデリーンたちも目を覆いたくなったほど。
「浦和の嬢ちゃんよおー! 弟がカワイソーだとは、思わねえのかぁ? ん!?」
「汚らしい! そんなに痛めつけたいなら、そんなに知りたいなら……竜平じゃなくて私をやればいい!」
姐を守ろうと抵抗するそぶりを見せた竜平にイラついたのか、セザールは抗議して来た綾女と小百合の前で彼の顔を肘で打った。
「ダメだよ綾女。あんたや竜ちゃんが傷つくところなんて、あたしゃ見たくない。やるんなら、あたしをやりなさい!!」
「グワーッ! なんて良いかばい合いなんだ! それもこれも、お前が情けねえからだぞぉー? ……浦和のガキぃ!!」
「うっ! ぐあああああああ!!」
竜平に対する理不尽な仕打ちは止まらない。
この場はセザールに任せていたグルマンも、さすがに眉をしかめている。
しかし、先に「どんな手段を使ってでもありかを聞き出す」と口にしたのもまた、グルマンだ。
「竜平っち!? やめろ!!」
拘束から抜け出そうとする蜜月とアデリーンだが、鎖の強度は高くそう簡単にはほどけない。
そのうち、竜平を道端の缶クズのように乱暴に蹴飛ばしてから、セザールが暴力を振るうターゲットを2人のヒーローへと変えようとする。
「なんなら、オメーらから……」
「バカ者! 加減しろセザール!」
「しかしこいつらは!!」
グルマンとセザールが、捕虜とした者たちの処遇を巡り言い争いをはじめてしまった。
加えて蜜月が怒っているその間にも、何かできることはないか、どうやればこの窮地を脱せるか、そう考えるアデリーンだったが――。
「おいっ! ごそごそと何をやって……!?」
その時だった。
もう、我慢できなくなって全身を震わせていた綾女が鎖で縛られた両手を何度も叩きつけ、自力で抜け出すと、鬼気迫る表情をして見張りのシリコニアンたちを殴り飛ばす。
……それだけではない。
「うあああ――――っ!!」
「グワワッ!?」
座らされていた椅子を持ち出して、セザールに殴りかかったのだ。
威力はすさまじく、セザールのほうが圧されて、怪人としての彼の頭部、とくにゴーグルが損傷したほどだった。
それ以上に彼女は、とてつもない気迫と、消えぬ想いを感じられるほどすわった瞳をして敵を見ていた。
大切な人を守るために自ら立ち上がり、血を流すことを選んだその覚悟は、その意思は、もはやただ守られているだけの女のものではない。
「姉ちゃん……?」
「綾女……」
「……汚い手で、私の家族に……指1本触れるなッ!!」
アデリーンは、勇気を振り絞った綾女の姿に彼女らの父・浦和紅一郎の面影を重ねる。
自然と力が沸き上がり、みなぎった――!
「……ヤアアア!」
彼女は全身から青白く輝くオーラを放って辺りを凍結させる。
そして蜜月や小百合を縛っていた鎖を瞬間的に凍結・粉砕し、自由にしてみせた!
さしものグルマンも、綾女に圧倒されたセザールも、動揺せずにはいられない――。
「綾さんっ」
怒りから興奮状態になっていた綾女が反動で気を失いそうになり、地面に崩れ落ちようとしていたところを蜜月が支える。
「無茶しないでよ~……でもカッコよかった」
「蜜月ちゃん」
「……綾さんたちをいじめるなッ!!」
いきり立ち、唸り声を上げて襲いかかるセザールに、そのままキックを見舞って遠ざけた。
「な、なにいー!? まだそのようなパゥワーが残っていたのか……、【グルメチックチェーン】が破られるとは!?」
「そぉい!」
個別に名前が設けられるということは単なる鎖ではなかったのだろう、しかし今は関係ない。
静かながらも激しい怒りを燃やすアデリーンは、驚いているグルマンの顔とボディにパンチを浴びせた。
その間に、自由になった蜜月と綾女は、小百合や竜平とまとまって逃げる準備をする。
アデリーンと2人そろって戦うより、片方が護衛についたほうが理に
「まとめて私が引き受ける。ミヅキは、アヤメ姉さんたちをお願い!」
「任せな。……あっかんベーッ!」
逃げる前に煽るためだけに、蜜月はヘッドパーツを展開して素顔を見せる。
よろけるセザールは地団駄を踏んで怒り狂うが、グルマンがそこでなだめた。
「させるか。追え、セザール! 追うんだ!」
「グワーッ」
想定外の事態に著しく動揺しているグルマン/カトラリーガイストと殴り合っているさなか、アデリーンはついでのようにセザール/ダックビルガイストをアイスビームで撃つ。
サマーソルトでグルマンを蹴って、バックステップで距離を取ると専用のビーム銃・ブリザラスターを両手で構えた。
「あなたたちの相手は私よ。これ以上サユリ母さんたちに手を出すな、ジャン・ピエール・グルマン!」
「よろしい。ならば、
ついに戦闘態勢に入ったグルマンは、その両手に巨大なスプーン型の武器と同じく巨大なナイフを出現させ握りしめる。
心なしか、目を光らせていたようにも見えた。
「【スイーパースプーン】は! 掬って! 削って! 防ぐ!」
攻撃は躱されたが、アデリーンからの反撃は防いでみせた。
強度は十分でバリアーも瞬間的に展開させている。
「【チョッパーナイフ】は! 切って、突いて、刺す!」
このナイフは攻撃することに特化していて、それだけの破壊力を秘めている。
切られる寸前でアデリーンは回避できたが、その代わりに背後の鉄柱が斜め上から真っ二つに折れてしまった。
「【キラーフォーク】は……刺して! えぐって! 殺す!!」
そして、グルマンがフォーク型の武器に持ち替えて繰り出した連続突き攻撃のうち、フィニッシュが地面に炸裂した時、たちまち地震が発生する。
一方、セザールは綾女にやられたダメージが響いて、まともに戦えないでいた。
「ッ! やはり強い……」
「できれば。ヘリックス最強の兵士となるはずだった君が相手だろうと、無血で済ませたかったのだがね……」
かつて聞いたところによれば、彼は無益な殺戮をあまり好まず、制圧先でも現地の住民に料理を振る舞って心をつかみ、1滴の血も流すことなく支配することに成功したという。
それでいて実力自体はこの通り、やはり――油断は出来ないらしい。
強く警戒していたアデリーンは、ここで攻めに出ることを選んだ。
「グワーッ! こいつを買いかぶりすぎですよオーナー! 前菜にもなりゃしない!」
「そうかしら。エアーッ!!」
青く光る刀身を伸ばしたビームソードを構えて、力を溜めてから回転斬りを繰り出し、薙ぎ払う。
更に目にも留まらぬ剣舞のごとき連撃を開始して、工場内で大爆発を巻き起こすと外へ飛び出す。
そこはもう、福岡ドーム近辺の公道だった。
「ハッハッハッハッ。やるねぇ……」
アデリーンに追い込まれ始めてもなお、笑っている――ように見えたが、その実怒っているグルマンはキラーフォークを旋風のように振り回し、彼女が持っていたブリザードエッジをはたき落とす。
「あなたもね……!」
「しかし君はここまでだ。ショッキングバースト」
グルマンは「君は敗北する」という旨を宣言した直後、背中のナイフとスプーンや右腕のフォークから銀色の破壊エネルギーを放出し、アデリーンを爆破衝撃で吹っ飛ばす。
体勢を整えようとした直後、どこからともなく飛んできたシルエットが彼女を抱きかかえて着地した。
「大丈夫かアデレード! ジャン・ピエールめっ」
ゴールドハネムーンに変身中の蜂須賀蜜月である。
正義と悪の中間に立っていることを思わせる赤紫のカメラアイと同色の光の翅がまぶしい。
相棒を丁寧に下ろすと、彼女も同時に身構えて迎撃態勢に入る。
「ふっふっふっ。いまさら、君が来たところで結果は同じさ」
「そうだそうだ」
「ミヅキ、サユリ母さんたちは」
「大丈夫だ。全員避難させてある」
挑発して来たグルマンとセザールに脇目も振らず、蜜月はアデリーンに報告してひとまず安心させる。
これで心配事はなくなったし、両者ともにグルマンとの戦いに集中できるというわけだ。
「How come……?」
「な、なにいー!? まあ、よい。お前らを片付けてあの一家を追えばいいだけのこと!」
既にガタが来ていた体に鞭打って、セザールが両手の爪を振り上げて突進する。
「前菜にもならねえ貴様らは、失敗料理だあ!」
そのまま、セザールが熊手状の爪から何か
その間にアデリーンはジャンプしてグルマンとの間合いを詰める。
かくして、バリアーの前にセザールの攻撃は無効化され、彼は弾かれた反動で著しくひるんだ。
「毒の爪だったのに!」
「そもそもワタシに毒は効きませぇ~~ん。そんなことより、カモノハシのパストラミっておいしいのかね?」
「はあ!?」
「答えられなくて結構! 3枚におろしてやる!」
それもそのはず。適当にそれっぽいことを言って、混乱を招くことが彼女の目的だったのだ。
蜜月は波に乗って、そのまま両手に持ったワスピネートスピアーで華麗に攻める。
その動作たるや、1つ1つがまるで演武のようであった。
「この三下の相手はワタシがやる! あんたは、グルマンを成敗することに専念しろ!」
「ぱ、パストラミだけは勘弁を……。パーティー料理にはなりたくねえ」
「誰がおめ~の肉でクッキングするなんて言ったよ、気味が悪い!」
ワスピネートスピアーを巧みに操り、反撃の隙をも与えぬままじっくりと確実にダックビルガイストことセザールを攻め立て、追い詰めて行く。
彼自慢の巨大な爪もだんだん亀裂が入り、あっという間に割れて砕けてしまった。
「草刈流槍術・烈風狂い咲き!」
かつて、蜜月が師から教わった武術が活かされる時が来た。
草刈流とは、『人』を『殺』すための技ではない、『活』かして『罰』するための技だ!
斬撃と刺突を交互に織り交ぜ、目にも留まらぬ速さで敵を乱打する!
「グワワワワワ~~!!」
ダックビルガイストは大爆発を起こし、先に撃破された。
カモノハシのジーンスフィアも砕け散って、変身していたセザールもアザだらけになって横たわる。
「セザール!? 草刈とは確か、君のアサッシン時代のティーチャーだったか? ウッ!?」
あの後すぐにブリザードエッジを拾い上げていたアデリーンと切り結ぶも一瞬の隙を突かれ、グルマンは徐々に押され始める。
ビームソードから伝わる冷凍エネルギーは彼の想定をはるかに上回る効能を発揮し、その身をじわじわ凍らせていく。
「決して褒められるような人じゃなかったけどな」
「残るはあなただけよ」
「セザールをやられたのだ。ただではエスケープしない」
右手に持った武器をキラーフォークからチョッパーナイフに換装し、更に左手にはスイーパースプーンを握った。
今度は巨大スプーンを防御ではなく、攻撃に転用するつもりだ。
実際、次の瞬間にはまた2つの武器と背中のオプションから銀色のオーラを放っていた!
「蜂須賀よ、君だけでもティーチャーとご両親のところへ行くがいい!」
「くッ!」
アデリーンと蜜月、さしもの2人も万事休すか――。
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