【第17話】悪魔の家出少女現る!?
FILE121:ゲロッパ!呪いの雨作戦始動
あるため池の付近。
その小高い丘の上に、遺伝子の螺旋がHの字を描いた形状のエンブレムが入った祭壇が建てられている。
周りには宮司に扮したケイ素生命体・シリコニアンたちの姿があり、まさに祈りを捧げている真っ只中。
そして、文字通り神輿に担ぎ上げられているのは……赤黒いカエルのようなサイボーグだ。
ギョロ目のカエルの顔の下に、もうひとつ、機械的かつ端正な顔を持っており、【機雷】の意匠が見られ、丸っこく愛嬌のあるボディを有してもいたが、水かきのついた両手両足からはそれらとは対照的な鋭い爪を生やしていた。
ほかにも、背中には酸素タンクらしきものを背負っている。
「ゲーローゲーロー、ゲロゲーロ~……あーめーよ、ふーれー! 呪いの雨よ、降れーッ! ゲロッパ! ゲロゲロッ! あーめーよー、ふーれー! 清き水を食らい、大地を汚す雨よ、ふーれーッ!」
ただ奇声を上げているだけではなく、何らかの呪文を唱えているようにも聴こえた。
そんなカエルの怪人や祈祷しているシリコニアンたちの様子を見て、1人笑っているものがいた。
秘密犯罪結社ヘリックスの幹部の1人、ドリュー・デリンジャーである。
なぜかいつものスーツ姿ではなく神社の神主のコスプレをしておりお祓い棒まで楽しそうに振り回していたが、これはつまり
「ブワハハハハハーっ! いいぞ
空は曇っていて雷もゴロゴロと鳴り始めてきている。
謹慎を破ってでもカエルのジーンスフィアを持ち出し、マスター・ギルモアに土下座してでもこの作戦を実行に移し、ああして彼に使わせた甲斐があったというものだ。
もう何度目かも思い出せない、同僚たちの前で味わった屈辱を思い出した後、すっかりご満悦のデリンジャーだが、彼は目先のことに囚われて小さなことに気づけなかった。
「……みーちゃった、みーちゃった。みーんなに言ってやろ♪」
ある1人の少女――、見た目は13歳くらいの彼女に一部始終を思い切り見られてしまっていたということに。
◆◆◆◆◆
その頃の吉祥寺。
そのような事態になっているとは知らないアデリーンは、バディを組んでいる蜜月とともに世界的大企業・テイラーグループの日本支社を訪問していた。
その理由は日本に滞在中である同社の社長、銀髪にアイスブルーの瞳を持つ虎姫・T・テイラーからじきじきに呼び出されたからに他ならない。
そこで、アデリーンのほうは金髪に映える緑のコートワンピースやベージュのミュール、蜜月のほうは髪をまとめてメガネをかけ、黒を基調とするブランドスーツと紺青色のシャツと黒いブーツ――といったおめかしをして、VIPルームでくつろぎながら、件の虎姫とその秘書・磯村環から説明を受けていたところだ。
「今はこんな感じですね。ご覧になっていただけましたでしょうか」
虎姫が磯村の持つタブレット端末を通して公開しているのは、研究・開発のスケジュール表――または、ロードマップである。
ありとあらゆるメカニックに関する情報が掲載されていた。
「へぇ、ロードマップ……ですか。さすがテイラーさんは抜かりがない」
いつものおどけた口調には封をして、蜜月はごく自然にきっちりとした口調で受け答えをする。
彼女に関しては、どちらも素であると記しておく。
「ミヅキ用の装備やメカニックもだけど、
「おっと、君は必要になったら自分で作れるんだったね」
「まあ、ね。秘密基地にアトリエがあるから……」
「おいおい、そんな大げさなもんじゃなかったろう?」
虎姫の前で少しカッコつけた言い回しをして笑っていたアデリーンは、横から蜜月に小突かれツッコまれる。
蜜月は実際に【秘密基地】の中を見せてもらったことがあるからこそ、こうして茶化したのだ。
「蜂須賀さん、その辺で。今はですね、蜂須賀さん用に【ワスピネートスピアー】を誠心誠意を込めて作らせていただいていたわけですが、これと並行してこの子バチ型の【ワーカービー】を作らせてもらっていたわけでしてね。スピアーのほうは完成間近というところです」
虎姫が紹介しているアイテムのうち、金色と黒を基調とし、穂先がクリアパープルとなっている槍がワスピネートスピアーで、小さいハチ型のビットやドローンの類がワーカービーである。
「ほほう。つまり、この槍と
「蜂須賀さんなら、
気を利かせた磯村が、サングラスの下でウインクをしてから指をパチンと鳴らすと、秘書課に属する者たちが現れ、ワゴンに件のハチ型ドローンを乗せて運んできた。
本当に子バチや働きバチのような手乗りサイズであり、それがかわいらしくもあった。
実際、そのドローンをのぞき込んだアデリーンたちもうっとりした顔で、同じことを考えている。
「話を戻しましょう。アデリーン、君用に【フロストサーペント】というムチを鋭意製作中だ」
ロードマップに表示されている、全体的に青っぽく光るムチがそうだ。
「これ以上武器はいらないんだけどねー……。でも、完成次第使いこなしてみせるわ」
「……嬉しい!」
少し泣きそうになったところを、虎姫は堪えた。
「以上です。――もちろん、【ブレイキングタイガー計画】も並行して進めているので心配はご無用です」
「まだ完成してなかったのね。もうそろそろ、スーツのプロトタイプくらいは出来た頃だと思ってたんだけど?」
ここでおさらいしよう。
ブレイキングタイガー計画とは、同名のヒーローとして活動するための虎姫専用のメタル・コンバットスーツを作る一大プロジェクトのことである。
そのスーツはホワイトタイガーをモチーフとしてデザインが出来上がっており、これもまた開発途中であった。
「データがあともう少しだけ足りないのだ。すまない、いつまでも君たちだけを危険な目に遭わせるようなことはしたくなかったんだけど……。引き続き、わたしや磯村君に代わって戦闘データの収集をお願い……できるかな」
少し困った――というか、弱々しくなった様子を見せた虎姫の前でアデリーンと蜜月は微笑みかける。
蜜月のほうは、アクセサリー用のメガネをいったん外して指でクルクル回し始めた。
「ノープロブレム。遠慮なくワタシたちを頼ってくださいな」
「その代わり、【ブレイキングタイガー】のスーツが完成したら――。今までの分も一緒に戦ってくれるわね、ヒメちゃん?」
彼女と付き合いの長いアデリーンは、ソファーから立ち上がり、前かがみになった上で少し意地悪な笑みを浮かべて条件を付ける。
これは社長である虎姫の前で立場をわきまえず生意気に振る舞ったのではなく、仲が良いからこそ出来たことだ。
磯村もそれをわかっていて、うら若き社長令嬢をからかうように笑う。
「もちろんさ。期待して待っていてくれ」
虎姫も虎姫で、少し気取ってみたくなっていたらしくアデリーンたちを指差してから、ウインクして笑った。
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