FILE120:なろうぜハッピー

 

 あれだけ派手に思い切りギターを鳴らし、ラジカセからも爆音を流した2人であったが、その時限りのセッションを締めくくったのは、まるで疲れきったかのようなスローテンポな音だった。

 演奏を終えた時、やりきった顔をした彼女たちや、軽く感動できた葵や竜平たちとは違って、パロットガイストとノイジーガイストはボロボロだ。

 だからといって追及の手を休める彼女らではない。


「やいやいやいカカポ野郎! みんなにこんなひどいことして、こうなったからにはもう手加減しないわよ」


「オウム! オウムなんだが!」


「何をーう! カカポくんだってオウムの仲間じゃねーか! やっちゃえアデレード!」


「ええ、今回もいきなり行くわよ。スパークル……ネクサぁ――――スッ!!」


「【新生減殺】!」


 その刹那、禍津から任務の達成と失敗時の責任を押し付けられた2大怪人はこの世の終わりのような顔をした。

 強化形態であるスパークルネクサスへと大変身を遂げたアデリーンの青と白の強化スーツはエメラルドグリーンで彩られ、背中からは氷の翼が生えて、一種の神々しささえ感じさせた。

 間近で見た蜜月や葵たちには安心感がもたらされたが、反面、パロットガイストとノイジーガイストには大いなる恐怖が襲いかかり、彼らは敵前逃亡を行なった。

 が――、翼を生やしたアデリーンはジェット機よりも早く飛び立ち、怪人にやすやすと追いついてみせた。


「スコォークッ!?」


「当然でしょ……!!」


 それに間も無く、スズメバチのモチーフを持った金色と黒の強化スーツを着用した蜜月が追い付く。

 彼女が来たのを合図に、アデリーンはその手に持った青い光線銃を空を飛びながら乱射し出した。

 狙うのは敵だけ、蜜月も同様に敵を撃って、撃って、撃ちまくる。

 アデリーンが撃ったのはもちろん冷たいアイスビームだが、パワーアップしたことによりその威力・効能ともに飛躍的に向上しており、パロットガイストとノイジーガイストを凍らせて黙らせるには十分すぎた。


「ま、待ってくれ。お前すごいな、さっきはみんなにひどいことしてごめんな。ここまでのことは謝るからよ、見逃し……」


「言語道断! オーロラエンド!」


 地上に降り立ち、蜜月がノイジーガイストを相手にマウントポジションをとって一方的に殴り倒しているのを尻目に、両手でブリザラスターを握り、両足でしっかりと大地を踏みしめて、アデリーンはオーロラのごとく虹色に輝く極太ビームを照射し、パロットガイストを撃破する。

 ド派手に爆発した後、緑と紫に染まったジーンスフィアが落ちて砕け散る。

 パロットガイストの姿に変身していた男・鸚外おうがいも、傷だらけでその場に倒れ込んだ。


「しまった、お……【鸚外】!」


「おしゃべりオウムがくたばったかあ。……食らいな。スロートカッティング」


 相方が先にやられて焦り出したノイジーガイストを、蜜月は容赦なく蹴飛ばす。

 喉元へのキックに使われるゆえ、その名が付けられた渾身の蹴り技を繰り出したが、命中させたのはよりによって喉ではなく……ノイジーガイストの顔面だ!

 毒をも付与するため、そのダメージは想像を絶する痛みを与える。


「うぎゃあああああ! 痛い、痛い、痛い……!?」


「お前はもう……しゃべんな! ハッ! スティンガービートアップ!」


 そして、顔面に毒を注入されたことによる激痛から戦意を喪失したノイジーガイストは、怒った蜜月からの16連続パンチを全て受け切ってしまい、大きく吹っ飛び爆発四散。


「……ビートエンド!」


 怪人に変身していた彼らはその場に気絶して動けなくなったが、そこに蜜月が黄色と黒に染まったカードを投げる。

 ミツバチと月のマーク入りだ。記された罪状はこうだ。


 【この者、大量破壊・扇動犯人!】


 パロットガイストに変身していた鸚外たちが倒されたことで本音を言わされていた者たちは皆正気に戻り、変身を解除したアデリーンと蜜月が葵たちと一緒に休憩していると、街の中を駆け抜けてきた仙崎ナルが輪に入る。


「ぜーっ、ぜーっ……みなさん!」


「ナルちゃん!」


「チリペッパーズのライブは中断されちゃったッス。けど、後日改めて開催だそうです!」


「那留ちゃん、それマジ!? やった!」


「ねえねえ、今度は私と母さんの分も用意してもらえない? 勉強と練習の合間に観に行きたいんだよね!」


「もちろんッスよ綾女さん!」


「……やったぁ!」


 この時、綾女は小百合とともに抱き合い、喜びを噛み締めたという。

 世の中やはり悪いことばかりではないもので、アデリーンは「これにて一件コンプリート」と、ニッコリ笑った。

 そして、パロットガイストに変身していた鸚外たちによって操られた人々が無事元に戻れたことも確認することが出来て、彼女たちは心から安心することが出来た。



 ☆☆☆☆



 それからまた別の日のこと。

 アデリーンは葵の家まで顔を出しに行っていた。

 葵と母の春子だけでなく、ライブハウス観賞をともにした仙崎那留の姿も見られた。

 2人、いや、3人、いいや、4人でリビングのテーブルを囲んで、仲良く話し合っていた最中である。


「よかった、今日のアデリーンさん、ニッコニコだ。嬉しい……」


「うふふ。みんな、アオイちゃんとナルさんのおかげよ。私たちをステキなライブに招待してくれて、ありがとうねぇ♪」


 春子に出してもらったお茶とお菓子を味わいながら、アデリーンはとびきりの笑顔を3人の前で見せる。

 いつものオトナっぽさを出しつつも純粋さを忘れていない、まぶしい笑顔であった。


「そうだ、今度『デビーメタル』のライブあるんですけど……アデリーンさんもどうッスか?」


「いいの!? 私ね、『デビメタ』の曲大好きなの! アヤメ姉さんたちも誘ってみたいんだけど、かまわなかったかしら?」


「オッケーでしょ! わたしもお義姉さんと一緒がいい!」


「やだもう、あんたたちねー!」


 3人で談笑し合っていた中に、いつもはくたびれた雰囲気の春子も混じってクスクス明るく笑う。

 さすれば、彼女たちは嬉しそうに振り向いた。


「若い子ばっかりでズルイわよ。私も入れてちょうだい、小百合ちゃんもね!」


「えへへー、もちろんッスよママさん! みんなでパーッと盛り上がりましょー!」


「わかってんじゃないの。ありがと!」


 酔った勢い――と、例えるには、いささか不適切か。

 パーティーめいたノリでアデリーンたちはまたもや大いに盛り上がり、両手を挙げてのタッチまでやり合ったほど。


「アオイちゃん、なんだか私ハッピーになれたわ。サンキュー!」


「はい……!」


 こうして2人は抱き合い、スキンシップの範囲ではあったが、あろうことかキスまで行なったのだった。

 それだけ交友を深めつつあったというわけだ。

 女同士でそうしたこともあり、春子も那留も驚きはしたが、拒否反応を示すどころか、むしろ大歓迎で喜んでさえいたのだ。

 ――梶原家は今、ハッピーに包まれている。

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