FILE072:笑顔でいてほしいから

 変身を解除した蜜月は、逃がした人々の無事を確認。

 すぐさま敵に破壊された箇所の修復工事もはじまり、ショッピングモール自体も営業が再開された。


「本当にありがとうございました。わたしたちのことを助けていただいて……!」


「そんな。いいんですよ、お礼を言われるほどのことはしてませんから」


 「猫かぶっちゃって」、と、アデリーンが横から茶化す。

 蜜月は照れ臭くなって、彼女を払う。

 最後はお互いに一礼してから、鹿嶋親子は踵を返し、アデリーンと蜜月はその場に残った。

 もうしばらくショッピングを楽しもうと思っていたようだ。

 そこに弟と弟のガールフレンドを車の中で待たせた綾女がやってきたが、彼女もなかなかカジュアルな雰囲気の服装をして来ていた。

 まさしく、こういった場所に行き慣れている人の格好である。


「2人とも、今日はありがとね!」


「綾さん!」


「アヤメ姉さん? 先に避難して帰ってたんじゃ……」


「帰ってないよ? 近くの総合リユースショップまでみんなで避難してて……」


「あー! 宝の山じゃんそこー!」


「あまり使ったことないけど、そうなのね。おもしろそう。また一緒に行きましょ?」


「どーしよっかなー。ワタシとあんただけで行ってもつまんねぇーしなー。綾さん同伴なら考えてやらないこともないよ」


 2人が驚いている中で説明した綾女であるが、彼女が述べたようにこのショッピングモールのすぐ近くには大型の総合リユースショップが建っている。

 家電から古本、古着にぬいぐるみまで何でも買い取ってもらえるだけでなく、もちろん売ってもらうこともできる、まさしく至れり尽くせりなところなのだ。


「いいでしょー? ふふふ。さあ乗って!」


「いやいや、ワタシらバイク乗ってきたし……どうする?」


「心配ご無用。おっきい車だから乗れる乗れる!」


 蜜月が確認を取ろうとしたとき、アデリーンは右腕につけた腕時計に内蔵されたギミックを使い、専用バイクであるブリザーディアを光の粒子に変えていずこかへと転送した。

 せっかく誘われたのだから乗って行こう、という旨を伝えたかったのだろう。


「今の毎回やってるんだ? すごーい……!」


「ワタシもやってまっせー。ほれ」


「これがテクノロジーの進化……未来だねー」


 ニコニコ笑って、何やらウキウキしている綾女を前にした蜜月はノリをよくしたか、ブレッシングヴァイザーに内蔵されていたギミックを使いイエローホーネットを粒子化させてから収納した。

 そして綾女の車の中にお邪魔する。

 助手席には綾女の荷物が置いてあり、その後ろの列のシートには竜平と葵が乗っていて、アデリーンと蜜月は更に後ろの列のシートに乗せてもらっていた。

 なお、竜平と葵が買ったものはアデリーンと蜜月が買ったものと一緒にすべてトランクに載せられている。

 今、浦和家に向けて走っている最中であり、竜平とアデリーンが何やら話し合っていた。


「一時はどうなるかと思ったけど、アデリーンと蜜月さんのおかげで助かったよ」


「助かっただなんて、それはこっちのセリフよ。


「あなたたちにヘリックスの手が及ばなくて良かったわ」


 「うんうん」と、蜜月、葵、綾女の3人が頷く。

 安堵の息をすることができたのは、竜平だけでなくアデリーンも同じであった。


「連中、最終兵器・ビッグガイスターの設計図捜索のために浦和ファミリーのみんなを狙ってるのと、ディスガイストを戦争してる国に売り込むに当たってのアピールのための破壊活動、アデレードを今度こそ不死身の生物兵器に変えてしまうための捕獲、更に組織を抜けたワタシの処刑、……やることがたくさんあるから、なりふり構ってられないんだ。ホントむかつくし頭のおかしいやつらだよ」


「そのためだけにわたしたちどころか、ショッピングモールに来てたお客さんもみんな殺したり、捕まえてモルモットにしようとしてたんですよね? どうかしてる……!」


 表情を真剣にした蜜月が腕を組みながらヘリックスの所業や動向を赤裸々に語り、葵がその内情に一抹の不安を抱く。


「だいじょぶ、だいじょぶ。その狂ったやつらを止めるためにワタシたちがいるんだから。ね? 葵たんには笑顔でいてほしいんよ。君らの笑顔のためにワタシは少しでも償い続ける」


「ミヅキさん……」


 葵は思わず、ちょうど自身の真後ろのシートにいた蜜月に顔を向けて笑ってみせた。

 笑顔には笑顔で返すのが人間のルールであり、アデリーンにはそんな2人のやりとりが微笑ましく思えた。

 運転席の綾女もハンドルを握って車を走らせながら、しっかり耳で聞いていた。


「そうだ、アデリンさんも、蜜月ちゃんも、ウチでごはん食べていかない? ウチのお母さん、お2人に会いたがってて」


「私もサユリ母さんに会いたい。寄らせてもらっていいかしら?」


「もちろん! 良かったら3人ともお泊まりしてってくださいな」


「3人? 葵たんも?」


「その通り!」


「やったー! おばさまのお料理食べたかったんです!」


「そうだ綾さん。今度アデレードと一緒に【のばら園】に行きたいんだけど、綾さんもどう? のどかで良いところだよ」


「そこって確か、蜜月ちゃんの先生のお孫さんが経営してるんだったよね。行っちゃってもいいの?」


「全然OK! 今度の休みに予定が空いてるなら教えてちょ!」


「そうさせてもらいまーす」


 こんな感じで、それからも車内では盛り上がり、綾女が走らせている車は道路を駆け抜けていった。

 この平和な日々がいつまでも続くようにアデリーンと蜜月は祈り、戦う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る