FILE071:ダブルヒーローが征く!
その頃、竜平と葵の護衛も兼ねて3階の呉服屋に立ち入っていたアデリーンと蜜月だったが、アデリーンはいち早く異変を察知していた。
持ち前の超感覚がディスガイストが発生したことを捉えたためだ。
「ミヅキは2人を守って! 頃合いを見て外に出て、アヤメ姉さんのいる駐車場まで逃げてちょうだい」
彼女は、凛とした顔と声で
青と白の強化スーツに全身を包んで、怪人が発生した1階中央へと着地した。
三角定規型のトンファーを持って暴れているシカの怪人を前に、彼女はマフラーをたなびかせて人々をかばう。
全員無事に逃がすためだ。
(見た感じ理性を失ってるということは……。アイシングドールを作ってる暇はなさそうね)
「ドンドコドンドコ……ドンドコオオオオオォォ」
荒れ狂うディアーガイストがツノから電撃を放ったが、アデリーンは青と金色のビームシールド・ブリザウォールを持ち出して、それを媒介にして周囲にバリアーを展開する。
おびえる人々を守るために……そんな中で戦闘員・シリコニアンたちを引き連れてツタのような姿をしたディスガイストが現れ、3階から降りている最中だった蜜月らにシリコニアンを仕向けるが、蜜月はそれを蹴散らして撒いた。
「しっかり掴まってな!」
「へ?」
そして、竜平をおんぶして葵を抱っこした状態で2階から飛び降りてアデリーンと合流し、2人を下ろしてから彼女とアイコンタクトを交わす。
「さ、最近のヒーローショーは凝ってるな……!?」
「これはショーではありません。今のうちに逃げてください!」
「危険ですから、ここは彼女の言う通りにして……」
アデリーンと蜜月が人々に避難を呼びかけたとき、1人のまだ幼い男の子が蜜月の足もとに寄りかかる。
若い見た目の母親も一緒だ。
「ぼ、ボウヤ、何? 忘れ物? おトイレ?」
「違うの! ぼくのパパがあの怪物になっちゃって……!」
「あのシカのモンスターはウチの主人なんです。お願いします、ヒーローさん、主人を……止めてください!」
「えっと、ヒーローはワタシじゃなくて……こっちの方です」
蜜月があまりにも綺麗だったばかりに緊張しながらだったが、男の子はハッキリと言いたいことを伝え、その子どもの母親も彼に続けて懇願する。
蜜月は少しバツが悪そうにアブソリュートゼロ=アデリーンのほうを指差す。
しかしこれは蜜月もまた、『
「……引き受けました」
「ボサッとしない! 早く逃げて! 竜平っちと葵たんもだ!」
アデリーンが立ち向かったのを見て、いっせいに人々が逃げ出す。
北エリア方面ではアデリーンがディアーガイスト=シカの怪人と戦っているため使えず、南エリアにある出入口や非常口から逃げなければならないのだが、そこで長く伸びたツタが彼らの行く手を阻む。
「ノビ~~~~~~~ルッ!」
「お前らは生かして返さん!」
更にはシリコニアンもゾロゾロと湧き出て、1人足りとも逃がさないつもりだ。
蜜月は、全身からツタを伸ばした怪人を見て鼻を鳴らす。
「アイビーガイストぉ――――!! そうとも、1人残らず死ぬ運命だぁ」
「見た目は全く同じだが、以前倒した追っ手とは違うな……」
全身モスグリーンと茶色のツートンカラーで、植物のツタが集まってハリガネと金属板で補強されたような体で、赤い目が覗いている。
【アイビーガイスト】はそんな容姿をしていた。
葵が恐怖から竜平にすがりつく中、蜜月は迷わず、新たに生まれ変わった銃型デバイス・【キルショットヴァイザー】を構え、険しい顔をするとシリコニアンやアイビーガイストの触手をビームで破壊して、人々を逃がすために走り出す。
「こっちです! 竜平っちは葵たんと一緒に……」
「わ、わかってる!」
少しでも人々が逃げるための時間を稼ぐため、蜜月はキルショットヴァイザーから実弾を撃ちながら、アイビーガイストを外に追い出してそのまま応戦する。
鋭いキックが炸裂し、敵は大きく吹っ飛んでから転倒。
「は、蜂須賀ぁ~~! この裏切りモンが……」
「お前らのために誰かが死んだり実験材料にされたりすんのは、見たくないんでさ。……フン!」
逆ギレしたアイビーガイストが振るったツタをかわして、蜜月は喉にあたる部分を的確に蹴って悶えさせる。
その間に人々は散らばり、ショッピングモールの外に飛び出して逃げて行った。
「竜平君! 早く早く!」
「わ、わーってら……」
だが竜平と葵も綾女が待つ駐車場へ向かわんとしていたその瞬間を、アイビーガイストは見逃さなかった。
応戦中の蜜月を払いのけると、2人を人質にするか、あるいは見せしめに殺すべく赤い目を細めて、ツタの触手をいくつも伸ばして捕らえようとする。
それだけは阻止したい蜜月はアイビーを踏み台にすると、ジャンプ中に体をひねり、宙返りして竜平と葵の手前まで大きく移動して2人の前に立つ。
着地の際に前転してからキルショットを構えて、眉をひそめてアイビーガイストを撃ってひるませた。
「み、ミヅキさん」
「これで少しは……償えたか……?」
こんな状況下ではあるが、彼女は葵と竜平に向けて陰のある笑みを見せる。
かつて彼女や竜平たちを騙すようなことをしてしまったことに負い目を感じていたため、それゆえの行動だった。
「もう、そういうのいいですから。気にしてないですから……」
「……そうよね。さ、早く行きな。あんまり綾さん待たせちゃ悪いぞ」
頷いた葵は竜平を引っ張り、綾女の待っている車まで大急ぎでダッシュする。
その間にアイビーガイストを牽制し続け、ついに蜜月は右腕にこれまた生まれ変わった変身デバイス・【ブレッシングヴァイザー】を装着し、更に武器をまたまた生まれ変わった十字剣・【スレイヤーブレード】へと持ち替えた。
右手にスレイヤーブレードを持ったままブレッシングヴァイザーを左手で速やかに起動し、金色と紫の光に包まれる――。
「【新生滅殺】!」
《ホーネット! ニューボーン!》
両手で十字剣を天に掲げて、その掛け声とともに変身。
メタリックゴールドとメタリックブラックに光る強化スーツを装着し、更に赤紫色の翅も展開させる。
ほのかに紫が混じった赤い複眼も光っていた。
まるで
「そ、その姿は!?」
「ふふふふふふッ。ワタシはもはや、ホーネットガイストではな~~い……。今のワタシは、月夜に舞う黄金の影・【ゴールドハネムーン】」
うろたえるアイビーガイストへ、スレイヤーブレードを持ったまま飛行してすれ違いざまに斬りつける。
伸ばされたツタをすべて切り落とし、相手に著しいダメージを与えた。
「ズンドコドーン!?」
するとその時、青と白のメタリックコンバットスーツを装着したアデリーンも遠くからディアーガイストをぶっ飛ばし、追撃する形で駆けつけた。
「アデレード!」
「戦いながら逃げ遅れた人の救助もしてたの……。パパさんを元に戻すには、彼の体内に入ったジーンスフィアだけを破壊するしかない」
「けどワタシの武器や技は加減が効かないからな……殺してしまいかねん」
「いいえ、普通に戦って倒せばいいのよ」
「だいぶアバウトだな!? いいのか!?」
少し軽妙な語り口と身振り手振りだが、2人は必要かつ大事なやりとりを交わす。
ディアーガイストにされてしまった鹿嶋という男を元に戻すことを最優先事項とし、アイビーガイストのことなど眼中にないようであった。
「うっ!? ……ち、違う。僕は、こんなことがしたいんじゃない……!」
「ノビール!!」
無視されたと思い込み、怒ったアイビーガイストが頭を抱えて苦しむディアーガイスト=鹿嶋を攻撃。
更に注射器のようなものを刺して怪しい薬を注入する。
「うあ……うお……ドンドコドンドコズンドコ! ドンドコドオオオオオン!!」
「ノビ~~~~ル! このオレをスルーした罰だ! こいつはもう元には戻ら……」
「ウソだね」
「ウソをつくならもっと上手につくべきだったわね。かまってほしいから下手なウソついたんでしょう?」
アイビーガイストはあっけなく、簡単すぎるほど論破されて激しく狼狽した。
その隣で、彼のせいでますます混乱したディアーガイストがむなしく唸る。
飛びかかってきたディアーを、蜜月が迎え撃って制止して、アデリーンはヤケを起こして触手を伸ばすアイビーガイストを前にブリザウォールを構え、前進して敵の行動を封じにかかる。
「気をつけろ! アイビーガイストの触手攻撃は最悪だ!」
「……聞くだけで耳が腐りそう! 気をつけるわね!」
2人してアイビーを煽っていく。
歯ぎしりしたアイビーの顔面を蹴飛ばして、アデリーンは右手にブリザラスターを握る。
これで身を守りながら射撃という、理にかなった戦法をとるのだ。
「てぇぇええい!!」
彼女に続いて、蜜月は右腕に装備したブレッシングヴァイザーの針をディアーガイストのボディに突き刺し、更に左手でアッパーカットを浴びせた。
このまま一気にとどめを刺し、彼の体内に取り込まれたスフィアを破壊して正気に戻すつもりなのだ。
「ドンドコっ!? あ、あがああああ」
「もうちょっとか……? それまでもってくれ、パパさん!」
再び苦しみだしたディアーガイストを目の当たりにして、蜜月は彼を蹴って飛び上がり、瞬時にキルショットを持ち出して銃撃。
アデリーンもバッチリそれを確認しており、すぐさまアイビーへの攻撃を再開。
そして蜜月は勢いをつけてから右足を突き出してダイブし、敵がツノから放電したのを切り抜けてそのままディアーガイストへと突っ込む。
「リーサルスマッシュキック……!!」
「ドンドコドンドコズンドコ、ドオォォォオオオオオン!?」
ハチが敵を刺すように鋭い必殺キックが赤紫の光とともにディアーガイストに叩き込まれ、爆発四散。
ディアーが元の子連れの男性・鹿嶋の姿に戻ると同時に黄色のジーンスフィアが飛び出して辺りに転がり、それに気付いたアイビーガイストが拾おうとしたがアデリーンのチョップで張り倒され、蜜月はスフィアをすかさず破壊して拾う。
「な、なんてことをしてくれたんだ! 幹部に昇進できるチャンスだったのに……。オレはもう破滅だああああああああああ」
「無理ね。あなたのような三下では無理」
「人の夢をわら、イデェェェ」
「自分の夢を叶えるためなら関係ない人々を苦しめてもいいなんて、本気でそう考えてるの?」
アイビーガイストは触手攻撃を繰り出そうとしたが、アデリーンは至近距離でシールドアタックをぶちかまして凍結させ、少しの間気絶させる。
そこに鹿嶋を保護したばかりの蜜月が片手に持ったキルショットヴァイザーから射撃を繰り出し、触手を全て撃ち落とす。
「ぼ、僕はいったい? そうだ、あのとき……」
「話は後でお伺いします。早く安全なところへ……」
蜜月は変身したまま鹿嶋を家族のもとへと連れて行き、アデリーンはその間に射撃でガンガン攻めてアイビーを撃破せん勢いで追い詰める。
もちろんアイスビームを撃っていたので、撃たれた箇所から徐々に凍り付いて行った。
「その盾さえなければあああああああああ」
刹那、アイビーガイストがツタを新たに1本伸ばしてブリザウォールを弾き飛ばそうと試みる。
しかし、はたき落とそうと触った瞬間にそのツタがジワジワ凍り付いて行った。
その部分だけを切り離そうとしたが既に遅く、足元も凍っていて動けない。
「あいにくだけど触手プレイならお断りよ」
「や、やべ……!?」
「終わりね、ツタ怪人。シューティングエンド」
またとないチャンスであった――。
アデリーンは凛々しく叫んでフルパワーでアイスビームを撃ち、アイビーガイストを粉砕する。
爆発と共に氷の破片が飛び散り、降りしきる中で変身者の黒服・
「お、オレの、出世街道……」
「やれやれだわ。頭を冷やしてきなさい」
変身を解除したアデリーンが黄金色の長い髪を片手で梳かしてから、まだわめいている蔦宗に呆れていつものようにカードに罪状を記そうとしたその時、遠くから別のカードが投げ込まれ、蔦宗の額に命中。
彼を気絶させる。
【この者、殺人未遂・無差別破壊テロ実行犯!】
カードは黄色と黒を基調とした色合いで、文字は白で書かれていた。
そしてそのカードに記されたエンブレムは、かわいらしいハチと三日月を組み合わせたものであり、それを見てアデリーンはクスクスと笑った。
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