【第11話】怪獣ブルドッグが大暴れ!

FILE073:猛犬注意!惨劇のキャンプ場

 ある晴れた日の東京郊外にあるキャンプ場でのこと。

 家族で楽しむ者、友人と楽しむ者、1人でも楽しむ者、たくさんの人々が集まり、歓声を上げていた。辺り一面には緑が広がり、近くには川もあるので、目の保養にもなるし、定番の釣りも楽しむことが可能であった。


「おぉ、芽依めい、上手に焼けたな~! えらいえらい!」


「えへへ、そんなことないよー。いただきます! ……おいしー」


 この家族はテントを張って、その近くでバーベキューを楽しんでいる最中であった。

 芽依と呼ばれた幼い少女は、父親とともに串に刺した肉や野菜を焼くのを張りきっており、それが上手く行って大喜びしていたところだ。

 芽依はくりっとした丸い目に加え、ツインテールに結んだ髪を花の形のバレッタでかわいらしくまとめ、花柄のワンピースを着ている。

 また、サンダルを履いていたため、砂利の多い川辺には近寄らないように両親から言いつけられ、それをしっかり守っていた。

 まだ年端も行かないというのに、よくできた子どもである。

 一所懸命にかじりつく健気な姿も両親には愛おしく思えたし、芽依自身も楽しくて仕方なかった。

 その後も分け隔てなく他の家族とも交流を持ち、子ども同士で遊ぶなど、平和そのものだったのだ。

 ――。


「バウバウ! ブルスコ! ブルスコォォォォ!!」


 あまりにも突然のことだった。

 青色のブルドッグのような怪人が手下の戦闘員を連れて現れ、その怪人が持つ首輪についたトゲがミサイルのごとく飛び交うと、辺り一面を爆撃し始めたのだ。

 爆風で草木やテントが吹き飛ばされ、泥や土煙がキャンプ場内におびただしく飛び散り、立ち込める。

 更にブルドッグも戦闘員ともども、直接人々に暴行を加えてそのまま殺害するなど、このキャンプ場を血に染めん勢いで暴虐の限りを尽くす。


「め、芽依!」


「パパーッ!?」


 その魔の手は、芽依の父親にも及んだ。死にはしなかったが、ブルドッグの怪人が怪力だったこともありひどいケガを負った。

 乱雑に辺りに転がっているテントだったものやコンロ、果ては死体をどかして、ブルドッグ怪人は雄叫びを上げた。


「グワハハハハハハハハハッ! 家族の団らんを邪魔してしまったな、オレ様はヘリックスが遣わした【ブルドッグガイスト】だ! 突然で悪いがお前たちには死んでもらう。1人残らずだ」


 品性の無い笑い声を上げている、この怪人の顔はブルドッグを更にコワモテにしたもので、黒ずんでいて目は赤く黒目は黄色となっており、首から下はほとんど厚手の青い装甲で覆われて、両肩にはブルドッグの頭蓋骨を彷彿させるおぞましい肩アーマーがついていた。

 そんな機械化されたボディの接合部は赤色で、それらも合わせてまさしく【悪の手先】といった感じの、全体的に暗く毒々しい色合いである。

 既に犠牲者が何人か出ていたこともあって、「成す術もなく殺されるしかないのか……」、と、キャンプに来ていた人々はブルドッグガイストに対してひどくおびえていた。


「な、なんでそんなこと」


「意味なんぞないわい! オレがスカッとするからやっとるだけだボゲェェェェェ!」


 食い気味に突っかかり、芽依の父親を蹴っ飛ばして追い打ちをかけると、ブルドッグガイストは首輪型の武装だけでなく、いかにも犬が好きそうな骨の形をした何かを持ち出す。

 ビスが打ち込まれランプもついている――爆弾だ。


「このスペースを無駄遣いしているだだっ広いキャンプ場は、デモンストレーションをやるにはちょうどよいわ! 死ねい!!」


 逃げ惑う人々などお構いなしに骨爆弾を投げて大爆発を巻き起こすだけでなく、ブルドッグガイストは更にトゲ付き首輪からミサイルを撃ちまくり、腕に内蔵したマシンガンも乱射!

 次から次へと爆発を起こしてキャンプ場を破壊した果てに、人々を虐殺して消し炭にした。

 人っ子1人いなくなった、かに見えたが――?


「ブルスコッ! あれだけ爆撃してやったのにまだ生きていたのか、運のいい一家だ……仲良く死ねえ!!」


 芽依とその家族だけが運よく生き延びていた。

 しかし、ブルドッグガイストが生殺与奪の権利を握っている状況に変わりはなく、死がすくそこまで迫ってきている。

 知り合えたばかりの人々を失っただけでなく、自分たちも後を追うこととなるのか、と、彼らがあきらめかけた時である。


「グエッ!? だ、誰だァ!」


「はっはっはっはっはっはっはっ……!!」


 ブルドッグガイストの左肩に唐突に蒼く冷たいビームが撃ち込まれ、氷の粒とともに火花が飛ぶ!

 そして笑い声が2人分――。

 聴こえてきたのはそれだけではない、フラメンコギターの音も一緒だった。


「綺麗な音色……!」


「オア――――ッ! く、苦しいイイイイ」


 そのギターから奏でられる美しき音楽は、心正しき者には安らぎをもたらし、心悪しき者には地獄の苦しみを与える。

 実際、ブルドッグは頭が割れそうなほどの苦痛から頭を抱え、悶えていた。


「ブルドッグ、これ以上お前の好きにはさせないわ。私は零華の戦姫――」


「月夜に舞う黄金の影――」


 演奏していたのは、ティアラなどの冠や雪の結晶のモチーフを持ち、青と白に輝く強化スーツを着た女性だ。

 その隣にいた、スズメバチを彷彿させるモチーフのメタリックゴールドとメタリックブラックの強化スーツを装着した女性も、少しやさぐれた動作で前に出る。

 彼女らの背後には乗って来たと思われるコバルトブルーのバイクと、黄色と黒のバイクの存在があった。


「アブソリュートゼロ!」


「ゴールドハネムーン……」


 2人そろって名乗りを上げるとブルドッグガイストを後ずさりさせ、芽依たちには希望をもたらす。

 彼女たちのその姿はまさにダブル・ヒーローだ。

 荒れ地となったキャンプ場を見渡した2人は首を縦に振り、一度は目も覆ってしまった。


「くっ。間に合わなかったか……」


「あなた方だけでも、早く逃げてください」


 悔しそうに拳を握りしめて蜜月がつぶやき、アデリーンは感情を押し殺して芽依と両親を逃がす。

 その怒りの矛先は当然、ブルドッグガイストと手下たちへと向かっており、両者は全身に闘志をたぎらせると、アクロバティックな動きでまずは手下の戦闘員を打撃と銃撃で殲滅し、それからブルドッグガイストへの攻撃を開始する。


「クソォ! 人間もどきと裏切り者の殺し屋くずれが2人そろってオレ様の邪魔をしやがって!」


「ふぇぇぇへへへへへ! 悪いな、ワタシらの趣味なんだよぉ~」


「お前のようなヤツにかける慈悲はないわ。同情の余地なし!」


 2人のパンチが、キックが、ブルドッグガイストの顔や胴体に直撃し、敵は大きくのけぞってよろめいた。

 低く唸ってブルドッグガイストは、その手に持ったチェーン付きの首輪を鎖鎌や、よくあるトゲ鉄球の要領で振り回す。


「ほざくなァ! ブルスコオオオオオオオオォオオオオオ!!」


 ただ激しく振り回すだけでなく、2人を拘束することも試みたが、ことごとく避けられて、更に2人からアイスビームと毒素のビームを浴びせられ牽制される。

 更にアブソリュートゼロ/アデリーン・クラリティアナは、追加でアイスビームを照射し続けて、ブルドッグガイストを凍らせると身動きを封じたのだ。


「てぇーい!」


「ドラァ!」


「バウババウッ」


 その隙を狙い、アデリーンとゴールドハネムーン/蜜月が飛びかかって浴びせ蹴りや右腕を光らせてからのストレートを叩き込む。

 どちらも重たく強力であり、氷の破片や火花を散らすとともにブルドッグガイストはバウンドしながら吹っ飛んで、木に激突。

 倒木するほどのパワーで叩きつけられた。


「ヒーロー気取りのビッチどもめ……! この【ボーンクラッシュグレネード】はどうだあ!!」


「うあっ!」


 一方的に畳みかけられて、怒りのボルテージが上がったブルドッグガイストは地団駄を踏んでから骨型の爆弾を投げる。

 瞬時に危険だと判断した2人は後ろに飛んでかわしたが、その時、爆弾が噴煙を巻き上げ大爆発を起こした。

 キャンプ場だった焼け野原は煙に覆われて、2人のヒーローが息絶えたと思い込んだブルドッグガイストが下品な高笑いを上げる。


「なにいいいいい――――ッ!?」


「あっぶねーな、おい。クソヤロウが……ドォォォラアアア!!」


 しかし――今更、その程度で死ぬような2人ではなく、煙を突っ切って元気な姿を見せ、ブルドッグを驚愕させた。

 かと思えば、その勢いで殴り飛ばして地べたに這わせ、蜜月のほうは悪態をついてから腰を深く落として力を溜め、アデリーンは青い外観の光線銃・ブリザラスターを構えて、このまま一気にトドメを刺す体制に突入していた。


「こ、このアマッ……!」


「ずいぶん品のないブルドッグね。しつけもなってないじゃない」


「人間もどきのバケモンがぁ! だったら貴様からなぶり殺しにしてやろうかあ!?」


 直接首輪を振り回して蜜月には避けられたが、今度はアデリーンに襲いかかるブルドッグガイスト。

 彼女は相手の攻撃をいともたやすく躱して、捌いて、至近距離でアイスビームを撃って冷やし、下腹部にキックも命中させた。

 直後に蜜月も連続キックとパンチの応酬を見舞ったが、アデリーンをバケモノ扱いされたことに憤っていたかどうかは、彼女のみが知ることだ。


「忘れたの? 私は死なない」


「何をォ」


 ブルドッグガイストからジャブを1発もらったが、アデリーンは平然としていて――素早くハイキックと手刀を繰り出し、蜜月とともに敵の顔面へダブルパンチを浴びせる。

 顔面だけは装甲に守られていないので効果覿面てきめんであり、実際にブルドッグは大きくよろめいた。


「凍れ!」


 吠えるブルドッグガイストが目や両肩の頭蓋骨から放ったビームをバク転し、更にサイドステップで回避したアデリーンは、空中でターンしながらブリザラスターを撃つ。

 念には念を入れて数発アイスビームを撃ったその時、ブルドッグガイストは情けないうめき声を上げるとともに凍り付いた。


「スティンガービートアップ! ドラァ!!」


 勝機を見出した蜜月は、右腕にはめた【ブレッシングヴァイザー】をかざして、左手で触って起動。

 羅針盤のように伸びた針の先にパワーが溜まって行き、彼女は全身にそのパワーをみなぎらせてブルドッグガイストへとパンチを繰り出す。

 ただひたすらに、何度も何度も計7回、そして――。


「ビートエンド!」


 最後の8発目でフィニッシュを飾った。

 凍ったまま粉砕されて、またしても大きくぶっ飛ばされたブルドッグガイストは派手に大爆発を起こす。

 大柄で髪はボサボサ、見るからに悪人面のグレースーツ姿の男がボロボロになって横たわり、ブルドッグの紋章が入ったどぎつい青色のスフィアが転がって砕け散った。


「ぐへェ、お、おのれェ~~……」


 変身を解除したアデリーンと蜜月が、その人相の悪い壮年男性に近寄り、スフィアの破片もあらかじめ回収する。

 ちなみに2人の服装だが、アデリーンは青いパーカーと黒いジーンズにブーツ、蜜月はというと袖をまくった紺青色のワイシャツにダークグレーのブーツ、といった感じであった。


「ほぉ~。ふへへへへへへへ」


「へぇ……。うふふふ」


 悪人面の男性に近付いてまじまじと覗き込んだかと思えば、2人して薄ら笑いする。

 確証を得た風な笑みであった。蜜月のほうからは、彼の神経を逆なでするニュアンスと、ほんの少しの狂気が感じられた。


「やっぱり、SNSにテレビに雑誌に新聞、何から何まで、あらゆるメディアでの炎上の常連、活動家の犬養権二郎いぬかい ごんじろうさんだったか。確か、エイドロン社のアンバサダーもやってたよなあ? エェッ?」


「道理でミヅキや私のことを把握してたわけだわね。今まで上手ジョーズに隠し通せていたようだけれど、ヘリックスと思い切り関わっていたことが白日の下にさらされたからには、あなたはもう逃げられないわよ。観念しなさい」


「スティーヴン・ジョーンズに、しっぽでも振って助けてもらえば? 噛みちぎられないようになあ――ふふふぇぇへへへへへはははははははははッ」


 これでもかと煽られて、名を呼ばれた犬養権二郎が大慌てで逃げ出そうとする。

 アデリーンと蜜月がいつも敵の罪状を書いているカードまで持ち出したその時、突然、大蛇の形をしたエネルギーが横切り、2人の行く手を阻んだ。


「伏せてッ!!」


 同時に、ヘビのような姿をした女性の怪人が姿を現す。

 ゴーグル状の仮面を被って両目を隠し、長く伸びた髪はヘビと化していて、全体的にギリシャ神話のメデューサあるいはゴーゴン姉妹を彷彿させる容姿をしており、異形ではあったが全体的に美しい。

 それから、そのバストは豊満だった。


「あともうちょっとのところ悪いけど、彼を懲らしめようたってそうはいかないわ。クラリティアナに蜜月」


「あなたはキュイジーネ!」


「そんな悪人何故かばう? そこどいてよ」


「できない相談ね」


 【スネークガイスト】へと変身した状態でこの場に現れた彼女の隣で、権二郎は白目をむいて気絶していた。

 昔から彼女を知っているアデリーンは身構え、かつて彼女と仲良くやっていた蜜月は瞳孔を閉じて心を揺さぶられる。


「あなたとも、蜜月とも、こんな形で再会したくはなかったのだけどね。それじゃあ、ごきげんよう」


「待てッ! スネークガイストッ!」


「はァ――――っ!」


 蜜月はアデリーンと共にキュイジーネを止めようとするも、彼女は火花を起こして2人を足止めすると、空間を歪めてテレポートする。

 惜しくも、取り逃してしまった。


「ダメだった……。もう少し早く駆け付けていれば、だってこんなことには」


 ブルドッグガイスト/犬養権二郎が暴れて破壊したために犠牲になった人々の遺体を見て、蜜月はうつむく。

 彼女に寄り添い、アデリーンは優しく彼女の肩を「トンッ」と叩いて、微笑んだ。


「けど、あの親子だけでも守ることができたのは大きいわ。殺された人たちのためにも、彼らを守りましょう」


「アデレード……」


 自分にも責任があると自戒していたアデリーンは、蜜月を責めはしなかったし、逆に少しでも元気づけたいと思っていた。

 そのうち、安全な場所まで避難していた芽依とその両親が戻って来たので、2人とも彼らに事情を説明することを決意する。

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