FILE055:後には引けないDUEL!
――決闘当日。
蜜月が舞台として指定した逢魔ヶ原は海に面し、広々とした峡谷に点在し、その中の採石場跡地で蜜月はバイクとともに待ち構えていた。
ブランドスーツの上に黒いコートを羽織り、広い景色を眺めて感傷に浸っていたその時、別のバイクのエンジン音が耳に入る。
コバルトブルーと白を基調とする専用マシンに乗ってアデリーンが現れたのだ。
「来たか――。ふ、ふはははははははは」
蜜月は少し笑って彼女を出迎えることにする。
「よぉ、アデレード。逃げずによく来てくれたな。褒めてやるよ」
赤青のツートンカラーのジャケットを着たアデリーンはマシンブリザーディアから降りて、片手で髪を梳く。
「……なんだよ。命を無駄に散らすなとか、そういうお説教はしてくれないのか? ヒーローだろ?」
「あなたにすり寄るわけではないけど、私も理解が足らなかったわ。なぜあなたが誇りを懸けてまで、誰にも頼らず一騎討ちを望んだのか」
「言葉では言い表せないものがあったからだ」、と、アデリーンは続けようとしたが、あえて言わずに微笑んだ。それを見て、蜜月はニヒルに笑う。
「けど、わからなかったこともあるわ。死なないとわかってて、なぜ私の命を狙うの?」
「お前がワタシの最大のターゲットだからだ。他に理由は無い」
「私は無益な争いは好まない」
「奇遇だね、ワタシもだよ。しかしお前は、ワタシに殺される運命に生まれついた。光栄に思えよ? 死ねない、歳を取れない……そういう忌々しい輪廻を、断つことができるんだから」
「……能書きはいらない。はじめるならはじめなさい」
クルクルと回しながら、ジングバズショットを取り出す。
キザな行動を取った蜜月に合わせて、アデリーンはブリザラスターを召喚し、スタイリッシュに構えてみせた。
「ワタシの武器はこの岩をも破壊するジングバズショットと、分厚い鉄板も貫く【ハニースイートダガー】、そして鉄筋コンクリートの壁や山だろうと切り崩すバズソード。お前の武器はなんだ?」
いつもの武器に加え、黒みがかった金色のダガーナイフも取り出してあらかじめアデリーンに見せておく。
対するアデリーンはバイクの右ハンドルを引き抜いて、ビームソードへと変形させるだけでなく、もう1つデバイスを取り出して左手に持ち――ビーム・シールドを展開させた。
「私の武器はすべて切り裂いて凍らせるブリザードエッジと、すべてを凍て付かせて撃ち抜くブリザラスター、そして防御能力を高め、あらゆる攻撃を臆病なまでに遮断する【ブリザウォール】。私にこれ以上の武器は必要ない」
「……いつになく本気も本気、大マジだな……。はじめようか」
一切ブレることのないアデリーンのその周到さに、少しだけ蜜月は恐怖したが、それもすぐ乗り越えてみせた。
己が誇りのため、信念のため、――大切な、待ち人のため。
「【氷晶】」
「【滅殺】」
今更おめおめと逃げ出すつもりなどない。
アデリーンは右腕を天に向けて、【氷晶】。
蜜月はスズメバチのジーンスフィアを右腕の【ブレスジェネレーター】に装填してから回転させ、ジングバズショットをこめかみに当てて――【滅殺】。それぞれ変身した。
「お覚悟はよろしくて?」
「来いッ! アデレードッ!」
雪の結晶と冠の意匠を持つ青と白に輝くメタルコンバットスーツをまとったアデリーンと、メタリックイエローやダークカラーを基調とするメカニカル・ボディのホーネットガイストとなった蜜月が互いを撃つ。
「イヤァーッ!」
「ふぁ~~~~ははははははッ!」
ジャンプして、すれ違いざまに攻撃。
相殺されてアデリーンは着地。
蜜月はそのまま空を飛んで銃撃と近接攻撃を交互に繰り出す。
アデリーンはこれを果敢に迎え撃つ!
「うあああァ!!」
地面へ落としたところへ、すかさずキックで追い討ちしに行くが蜜月は黒みがかった金色の短剣・ハニースイートダガーを構えて防ぎ、そのままアデリーンの右肩に突き刺す。
アデリーンはそのダガーをすぐに抜き、蜜月にカウンターして投げ返した。
そこからラッシュをかける!
「だだだだだだだだだだだッ!」
「このおおおおお!!」
激しく攻められている蜜月はハニカム状のシールドを展開して徒手空拳のラッシュを防ぐが、最後にブリザラスターのゼロ距離射撃を受けて破壊され、ハイキックを食らわされた。
しかし手刀で素早くカウンターする。
アデリーンはそのカウンターを食らうも、エルボーで返す。
しかし相殺された。
「ふへへへはははははは……! 食らええええええぇぇえええ!!」
急旋回しながらの浴びせ蹴りだ。
アデリーンはビームシールドであるブリザウォールを装備して展開させて攻撃を弾くと、更に銃であるブリザラスターからビームソードへと持ち替えて――斬る!
火花を散らして手応えはあった。
そこからアデリーンは空気中の水分を凍結させ、宙に道を作って滑走しはじめた。
「こいつ、やってくれるな……!」
感心とも悔しさとも取れる口調でそうつぶやき、蜜月は飛翔してアデリーンを追撃する。
残像が見えるほど素早く動き回り、翻弄する。
アデリーンはその場で止まったかと思えば、氷の道を打ち切ってハイジャンプした。
「血迷ったか?」
「いいえ。……素早い相手にはバカ正直に追いつくまでもないわ。動きを止めればいい」
「そういう手は食わない」
次の瞬間アデリーンはブリザウォールを媒介に冷凍エネルギーを増幅させ、周囲に輝くほど冷たい吹雪を吹かせた。
蜜月の作った分身たちが一斉に消え、本体が徐々に凍りつく。
「そこっ!!」
「うっぐはぁ!?」
空中で一回転してからの唐竹割りが決まった!
氷の破片が飛び散る中でそのまま降下するが、蜜月は簡単にはやられない。
体勢を立て直してそのまま逆にアデリーンを回し蹴りで叩き落とした。
「もらったぁ!!」
降下しながらカカト落としを繰り出す。
勢いをつけることで破壊力を増強させて大ダメージを狙う寸法だ。
――が、アデリーンはそれを見越してブリザウォールで身を守る。
技をキャンセルしようとしたが間に合わず、蜜月はビームシールドに弾かれて急いで着地して、大きく後ずさりする。
「クッ……! ふへへへへへへ……」
仮面の下で焦りを見せる――どころか不敵に笑うと、蜜月は金と黒を基調とする十字剣・バズソードを取り出して武装した。
アデリーンもそれに応えるように、ブリザウォールを持ったまま両手でブリザードエッジを持つ。
「えいあーッ!」
「ドラァ!!」
戦いの余波により背後で爆発が起こる中、すれ違いざまに一太刀浴びせる。
決定打とはならず、着地。まだ、互いに倒れるわけにはいかない。どちらにも引けない意地と誇り、信念や正義があるからだ。
やがて、また宙でジャンプしながらの斬り合いで相殺し合った時、2人はそれぞれ専用マシンに乗り込んだ。
「私は負けない!」
「それは! こっちのセリフだ……!」
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