FILE056:耐えろ!百発百中のデッド・ゲーム
広々としたこの逢魔ヶ原の峡谷地帯をバイクで並走する2人。
どちらも隙あらば容赦せず銃撃し、転倒を狙う。
互いのバイクに搭載された各種武装も惜しみなく使って、戦いは白熱していた。
「悪いが、この決闘は勝たせてもらう。ワタシも――後には引けないからな」
そうつぶやいて自動運転に切り替えた蜜月はイエローホーネットのAIを信じてドライビングを託し、ジングバズショットで狙い撃つ。
実弾とビームの切り替えが可能だが、今回の決闘においてはずっとビームだ。
実弾も強力だしメリットがあるが、装填の隙を突かれないようにするためだ。
「私は死なない。この勝負に負けるつもりもない。あなたの真意を知るためにもね……!」
それまで並走していたアデリーンは突然マシンをUターンさせ、蜜月に向かって激しく土砂を跳ね飛ばしながらマシンに備わった機銃を掃射。
ウイリーして、銃撃しながら迫ってきた蜜月の体当たりを回避。
するとアデリーンは、蜜月の走行を阻むために敵が通るルートを予測し、そこに数発アイスビームを打ち込んでツララを発生させる。
一瞬驚かされた蜜月だがすぐ、余裕の笑みを浮かべた。
「ほ~う、クラッシュさせる気か!?」
その策に引っかかる気はない。
蜜月はイエローホーネットに内蔵されたナパームを発射してツララを破壊するが、その時上がった煙を突っ切ったアデリーンがバイク・ブリザーディアを大きくジャンプさせて横切り、車体を撃つと同時に凍らせる。
それをアクセル全開で振り切って氷を破り、ターンしてすれ違いざまにアデリーンとブリザーディアを撃つ。
「やっ!」
アデリーンは銃撃された瞬間にアクロバティックに動いてシートから飛び上がり、蜜月を撃つ。
着地と同時に蜜月が乗るイエローホーネットめがけて突進して吹っ飛ばす。
簡単に負けてやる蜜月ではなく、両者は再び並走をはじめた。
「上手いもんだな。けどなぁ、お前がそうであるようにワタシも負けるつもりはない」
アデリーンからの追撃を振り切った蜜月は丘の上までハイスピードで移動して、そこでイエローホーネットを一時停止させるとジングバズショットの出力を上げて、狙撃を行なう。
狙撃はライフルのほうがやりやすいが、蜜月にはたやすいことだ。
まずはアデリーン本人ではなく周辺を撃って逃げ場をなくしていき、爆煙で囲んだところで本人を撃つ。
爆発してダメージが入ったが、アデリーン自身は平然としていた。
「ふへへへ、やっぱりそうか……」
アデリーンの駆るマシンブリザーディアが坂を駆け上がってきたのを見て、蜜月もまた走行を再開して正面から迎え撃つ。
すれ違いざまに撃ち、アデリーンは坂の上まで登りきってからUターン、一気に加速して車体を大ジャンプさせて蜜月を追い越した。
更にジャンプ中に蜜月の走行ルートを予測し、アイスビームを撃ってルート上にツララを置くように発生させた。
「バリア展開!」
「やったわね……!」
そう叫ぶとイエローホーネット自体にハニカム状のバリアを発生させ、ツララへと自ら突っ込んで破壊する。
永続するわけではないらしく、バリアを解除して蜜月は再び攻めに転じようと試みる。
互いに一時停車させて、銃撃戦だ。
どちらも惜しみなく出力を上げてビームを撃ったため、ド派手に爆発を起こし、或いは氷の破片が舞い飛んで宙できらめいた。
「ジングバズショット、最大出力だ……! 食らいな!!」
アデリーンが情け無用でアイスビームを撃っている中、蜜月はジングバズショットにエネルギーを溜めきってから極大ビームを撃つ!
マシンブリザーディアの目の前で着弾すると大爆発を起こした。
大きく煙が立ち込める中、アデリーンが回避したか反撃に転じるのを想定して蜜月は身構えていたが――。
「あいつどこに消えた!?」
そこにいたはずのアデリーンがいない!
警戒して周囲を見渡すが――その時だった。
「私ならここよ!」
「うぁッ!?」
頭上からアデリーンが迫り、ついにイエローホーネットの車体ごと蜜月を転倒させる。
アデリーンは速やかにブリザーディアの座席シートへと戻り、相手の出方を待つ。
迎撃できる自信があったからだ。
蜜月は不屈の精神で起き上がると、車体を起こし乗り込んだ。
そして――。対面すると互いに真っ向から突進する!
「はああああああああああ―――――――ッ!!」
「うおおおらああああ―――――――――ッ!!」
2大マシンはクラッシュを起こして、大爆発――!
2人は爆風に煽られると、車体ごと逢魔ヶ原の採石場跡地から海岸の岩場まで大移動する。
激しくダメージを受けたことにより、互いに変身が解除されて素顔が露わとなっていた。
アデリーンは起き上がり、勇ましい顔をしてブリザードエッジを拾い上げてその手に握って構える。
――その蒼い瞳から、燃え上がる闘志が消えることはない。
「……もう勝負はついたわ。終わりにしましょう」
衣服がボロボロになり、傷も完全に再生しきっていないアデリーンは警戒しつつも呼びかける。
何かあれば殺してでも止めるつもりだが、出来る限り命までは奪わない。
彼女には生きて贖罪をしてほしいからだ。
あくまでそれはアデリーンの考え。
――蜜月自身が、それを望んでいるとは……限らない。
「いや――まだだ。まだ終わってない。でやああああああああああああああ!!」
「はッ!?」
何者にも屈しない精神力を発揮して、蜜月は立ち上がって間もなく、流麗に金と黒の十字剣・【バズソード】を構えて、一切無駄のない動きとともに目にも留まらぬ速さでアデリーンへと迫る。
最低限の動きで躱し続けるアデリーンは、一瞬の隙を見切って――針に糸を通すがごとき精密な動きとともに蜜月へと一太刀浴びせた。
吹っ飛ばされる蜜月だったが、【信念】だけでなく独自の【正義】を持ち、闘志が消えていないのは彼女も同じだった。
「ふ、ふふふふ……。ははははははははははは……! やるな、
「ミヅキ!? さすがは日本一の暗殺者だわ……!」
――すべては【信念】と、暗殺者としての【誇り】と、そして【殺しの美学】のため。
蜜月は頭から血を流し、衣装もボロボロになってなおも立ち上がる。
十字剣・バズソードを杖代わりにして立ち上がり、息を乱していたが――すぐ整えて、ニヤリと笑う。
この戦いは気付けば、夕方になるまで長引いていた。
影がかかったこともあり、死闘の中で乱れてなおも艶のある紫がかった黒い髪や、蜂蜜色の瞳はより一層、妖しく、危うく、美しく彩られた。
更に、殺気立っていたはずの彼女の【声色】もどこか、穏やかに――ある種の【諦念】を感じさせるものへ変わっていた。
「そろそろ決着をつけよう。夕陽を浴びて流れる真っ赤な血は……、綺麗だぜ」
バズソードに夕陽を反射させて構えて笑う彼女のその蜂蜜色の瞳からは、狂気――ではなく、覚悟を決めたことと、確固たる意志を感じさせた。
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