FILE038:俺のカノジョを紹介します

 話がひと段落したところで、目を覚まして早々にふと何か思いついた竜平がスマートフォンをいじり出す。

 写真アプリのとあるフォルダを開いて――アデリーンを含んだより家族が見やすく、より自慢しやすくなるように全画面に表示した。


「かわいいわねー。リュウヘイ、その子は?」


「へへへ。俺のクラスメートでぇー、カ・ノ・ジョ」


 自慢げに笑みを浮かべて紹介する。竜平の隣でウインクしてピースサインをしているのは、少し青みがかった黒髪に青い瞳の女子高生だ。

 しかも――美少女で巨乳である!

 カノジョを知らないアデリーンも、既にカノジョを知っている綾女も小百合も、視線はカノジョの写真に釘付けだ。


「葵ちゃんだよ。梶原葵かじわら あおいちゃん。相変わらずかわいくって、妬けちゃうわねーっ」


 綾女はカノジョこと葵について、口では嫉妬しながらも至極嬉しそうに説明する。

 そもそもその葵と綾女は仲が良いのだ。


「私もアオイちゃんに会いたいわ! リュウヘイ、また紹介してちょうだい!」


「えー! ヤダ! 変な誤解されちゃうじゃんよ! なあ!」


「されないわよ。そんなじゃないもの」


 そんな風に茶化して盛り上がる。

 今、浦和家はこんな感じで笑いが絶えない。


「信じられないでしょー? 竜ちゃんこんな感じなのに結構モテるのよ」


「ヒドイぜ母さん! こんな感じってなんだよ! こんな感じって~!」


 冗談めいて泣きそうな口調で小百合にすがりつく。

 「やだもー」、と、小百合は息子を振り払った。


「それで、アオイちゃんと付き合い始めたキッカケは?」


「アデリーンから聞かれても、教えてやんねー!」


「ま、いいケド……」


 口笛を吹くアデリーン。

 この後竜平は軽蔑の眼を向けてきた綾女からヘッドロックをかけられた。

 そこまでされる謂れはない!


「じゃあ、アオイちゃん、部活は何をされてるの?」


「葵本人に直接聞いてみるまでのお楽しみだなー」


 またはぐらかした。「くすくす」、と、綾女は笑い、アデリーンと距離を詰める。


「もー、こいつってばもったいぶっちゃってさ。葵ちゃんね、演劇部やってて、趣味は絵本の読み聞かせなの。ボランティアにも積極的に……」


「わ~~~~ッ!!!!」


 慌てた竜平が大声を出して、遮る。

 もっと葵のことを知ってもらうため、せっかく葵に関するプレゼンをしていたというのに、弟に邪魔をされたとあっては綾女としては不満極まりない。


「ちなみに私も演劇サークルやってるの。良かったらアデリンさんも観に来てね?」


「そっか、アヤメ姉さんはそういうつながりでアオイちゃんと仲がよろしいんですね!」


「わたしやサークルのみんなのお芝居を参考にしてくれてるんだよ。将来有望な後輩を応援せずにはいられるかって!」


 綾女とアデリーンの話がとにもかくにも弾む。

 そのノリと勢いときたら、完全に女子大生同士のトークのそれである。


「ってことは女優志望とかですか?」


「おっと、それは俺とあいつしか知らない秘密だぜーーっ」


 「フフンっ」、と、少しイキった竜平だったが、傍らでニヤつく小百合が今にもバラさんと待ち構えている。

 なぜか悪の女帝っぽく薄ら笑いしてから、小百合は重たい口をゆっくりと開いた――。


「いやね。あの子、絵本とか描いたり、児童文学とか書いたりしようかと思ってるんだって」


「それってすごいことじゃないですか! 子どもに夢を与える仕事をやりたいってことでしょう?」


「え~? あいつ現金だからなー、案外印税生活目当てかもよ……」


「竜平! 言い方ぁ!」


 小百合がアデリーンにあれこれ説明しているというのに、竜平はまた真実を伏せる。

 それほどまでに自分と葵だけの秘密を作っておきたいのだろうか。

 そして、一言余計だったので――竜平は怒った綾女に絞め技をかけられ、白目をむいて顔は真っ青になった。



 ◆◆◆



「そろそろ帰ります。またねー」


「ああ! いつでもいらっしゃい!」


 小百合たち浦和親子から見送られアデリーンはバイクに乗って帰路に着く。

 その途中、コンビニに寄ったところで偶然にもミヅキと遭遇した。

 バンギャル風のコートではなく、カジュアルだがフェミニンな服装だった。

 ――よそ行きだったのかもしれない。


「ミヅキ!」


「お、アデレードじゃん! だったね……。ま、過ぎたことはしょうがないよ」


 少し暗くて気まずい雰囲気になりかけたが、要するに「あまり引きずらないようにしようぜ」と、ミヅキはそういう旨を伝えたかったのだ。

 そして――。


「編集長がさあ、「あそこ行け」、「ここ行け」ってやかましいのよ。マジで」


「それは大変だったわね」


「でしょー? ワタシ、フリーだからいろんな編集部を転々としてるわけだけど、今いるとこの編集長はセクハラ野郎だから愚痴でも言わなきゃやってらんないのよぉ~」


「あんまり飲みすぎないほうが……」


「わーってるよぉ! ワタシもバイク乗ってるからお酒じゃなくて、ウーロン茶やコーヒーですませてんの! アルコールじゃないから、セーフッ! ああああ~~~~!」


「まあまあ、ここは穏便に」


「はぁ~っ。ところで、こんな時になんだけど……」


 気を取り直し、少し駄弁りながらドリンクや雑誌などの買い物を済ませて出たところで、(コーヒーを摂取しただけなのに)ほろ酔い状態でミヅキはチラシを取り出す。どこかでヒーローショーをやるというお知らせだ。


「良かったら、ワタシとヒーローショー見に行かない?」


 仮面のヒーローと5人組のヒーローが描かれている。

 子どもも大人も関係なく人気があって、盛り上がっていそうなコンテンツだという印象を与える。

 興味深そうにして、アデリーンは見入った。

 というか――既にこのヒーロー番組のことを知っており、そのチラシを見せているミヅキは「ドヤぁ……」と、誇らしく笑っていた。


「やだ、『ライジャー1号』と『ビクトレンジャー』が共演するの……!?」

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