FILE021:スノークリスタルパワー、メイクアーップ!
「――というわけです。私、やっぱり行ってきます」
洗車も終わったところで、アデリーンは両親に見送られてから出発。
もちろんナメクジ怪人の手がかりをつかむためだ。
あまり心配はかけられないし、かけたくない。
早急に解決するのが好ましい。
「おかーちゃん、あれ見て! ネバネバしててきもちわりー!」
「シッ! 近くに行っちゃいけません!」
東京都内のとある街角に移動したところで、何とも微笑ましい親子のやり取りを見かける。
子どもが指差していた方向に向かうと、そこにはピンクの粘液が乾燥して固まった痕跡があった。
(見た感じは、まるで
アスファルトにこびりついていて気持ち悪かったが、アデリーンはそれでもまじまじと見つめ、その跡を歩いて追う。
事件の足跡を少しでも辿れるならいいのだが――。
「あれ、アデレード!? 偶然だねーこんなとこで!」
「ミヅキ? あなたこそどうしてここに?」
――と、その時、ミヅキと遭遇。
いつもの黒いコートと紺青色のシャツに加えて、ポケットにペンを挿すだけでなく耳にもペンを挟んでいて、その姿勢は本格的だ。
単なるオシャレと思われるが、アンダーリムの伊達メガネまでかけている。
(メガネが似合うなー……)
「そうだねー、取材とか特ダネとか? ワタシね、特ダネになりそーなの見つけたんだけどさ。ワタシの手の届かないところにあるんだわ!」
特ダネと言っても、ネバネバとかネバネバとかネバネバとか、ネバネバとかのことだろう。
語り口自体は明るいものだが、それだけでかなり苦労させられたことを窺わせ、アデリーンは少し心配になっていた。
「あんまり大きな声じゃ言えないんだけど。聞いてもらえる?」
「とりあえず言ってみてください」
耳元でささやくなどして、少しもったいぶり、深呼吸してからミヅキは話し出す。
右手の人差し指で、誰かの屋敷が建っている開けた場所がある方角を指差した。
「ワタシね、あの辺でボディガードの怖そうなお兄さんたちをいっぱい見たんだよ。もしかしたら、そこと今話題のピンクのドロッドロ、ネバネバぐっちゃぐちゃの粘液が何か関係あるかもって思ったんだけど、取材NGだったしつまみ出されちゃったのよーッ」
「は、はあ。それは大変でしたね」
貴重な情報を提供してもらった――のは確かだが、それ以上に、ミヅキは誰かに愚痴を聞いてほしかったのだろう。
あまり長々と聞き続けるのも精神衛生的に健全ではない。
「けど、やっぱ危ないからあんまし近づかないほうがいいよ! それがいいそれがいい!」
(なーんかキナ臭い……)
行くなと言われたら行きたくなってしまうのが人間の心理。
なので、親切心からの注意のはずなのに、前フリにしか受け取れない言い回しだ。これにはアデリーンも苦笑い。
「……ま、そういうことだから、じゃあね! お互い気をつけようね!」
「そういうミヅキこそお気をつけて!」
別れる2人。お互いに振り向かずそれぞれの行く先へ。
ミヅキはこの先どうしようか迷って歩きながら首を傾げ、アデリーンは先ほど教えてもらった地点へと向かう。
すぐに立派な外観の屋敷が間近に見えてきた。
ミヅキの言っていた通り、確かにボディガードがやたらと出入りしており、いかがわしさしか感じられない。
こういう場所にはたいてい、何かあるし、何か起こるのだ。
「スノーメイキャップ!」
それは、英語で雪化粧を意味する――ではなく。
アデリーンが敵地などへの潜入のために変装する際に用いる、一種の便利な技能である。
氷や冷気を別の物質、この場合はウィッグや衣服に変換してその身にまとうのだ!
今回は帽子とトレンチコートを作り出して、着用!
「値張……、ねぇ。こういう時は……」
屋敷の外部にて、
そしてスマートフォンを取り出して調べ出した。
――載っていた。
SNS上にある個人アカウントも発見したが――。
(ツクゾー・ネバリ。ふーん、この辺の地主さんね……。SNSもネットの掲示板も悪評だらけ、ほかはお金がほしいのかサクラっぽいコメント多数。とはいえ、まずはこの目で確かめないと)
人造人間に生まれた彼女とて、インターネットなどに書いてあることが全てではないことくらいは理解している。
値張と事件の関連性を知るために行動を開始した彼女は、屋敷を見張っているボディガードを見て、彼らに見つからないよう密かに追跡。
怪しまれないように巧妙に隠れ、迅速に動きながら奥へ、奥へと進む。そしてその先で見たのは――。
「ラセーン!」
(はッ!? あれは……)
なんと、奇声を上げると同時にボディガードの姿が、ケイ素で造られた人工生命体にして秘密結社ヘリックスの戦闘員・シリコニアンに変わった。
彼らは人間の姿に化けることが可能なのだ!
「……あーあ、これで地主さんはクロ確定ね。そうと決まればやることは1つ」
サングラス越しにその光景を見ていたアデリーンは確証を得る。
それからわざとらしく、屋敷付近の茂みに入って転んだ。
「きゃーっ! アイテテテ……」
少しあざとく悲鳴も上げたりなどして、シリコニアンが化けたボディガードの男たちをおびき寄せる。
「怪しいヤツめッ! 連れて行け!」
――狙い通りだ。
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