ミラベルの気持ち
『魔法学園の大罪魔術師』の二巻、モンスター文庫様より好評発売です!!!
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それぞれが試着を終わらせた後、ユリスは一人で買い物に出かけてしまった。
というのも「少し女の子だけでお茶していくわ」というアナスタシアの発言があったからだ。
一緒にでかけているのに、ということは少し思ったが、ユリスはユリスで誰にも内緒で買い物をしておきたかったことがあり、文句を心の中に押し込んだ。
というわけで現在、ユリスがいなくなった空間。
セシリア、アナスタシア、ミラベル———この三人は現在、テラスが広々としている喫茶店へと足を運んでいた。
「ふぅ……美味しいですね」
セシリアが紅茶を飲んでホッと息を吐く。
「たまには、こういうのんびりした感じもいいわよねぇ」
「そうだねー……」
アナスタシアもミラベルも、それぞれが椅子にもたれかかったりお菓子を食べたりと、のんびりとした時間を過ごしていた。
テラスには大きくそびえる木が中央に立っており、木漏れ日と気持ちのいいそよ風が余計にもリラックスさせてくれた。
「でも、よかったの? ユリスくんと別行動しちゃって?」
「ユリスは一人でどこか行きたそうでしたから。それならいっそのこと別れた方がいいかなって思ったんです」
「やましい雰囲気でもなかったし、きっと休み中にサプライズでもしたいんでしょ。だったら、素直に時間を作ってあげるわ」
「へぇ……そんなこと思ってたんだ、ユリスくん」
知らなかったなぁ、と。少し劣等感を覚えてしまうミラベル。
(やっぱり、婚約者の二人だから分かるのかな……?)
それとも、ユリスと過ごした時間が長いからか?
いずれにせよ、ユリスに想いを寄せているミラベルからしてみれば劣等感を抱かせてしまうような話であった。
「気にすることはないわ。実は、ちょっと前にユリスが独り言を呟いていて、それをたまたま聞いてしまったから知ってるだけなの」
「ユリスはたまに、思っていることを口にしますからね」
「あ、そうなんだ……」
その言葉に、どこか安心してしまったミラベル。
劣るとは分かっていても、同じだと思ってしまえば安堵してしまう。
ミラベルは、そんな自分が嫌だなと改めて思ってしまった。
落ち込むミラベルを見て、アナスタシアが眉をひそめ、ゆっくりと口を開いた。
「ねぇ……ミラベル」
「ど、どうしたの、アナスタシアちゃん……?」
「ミラベルはユリスのこと、今でも好きなのよね?」
「ッ!?」
ストレートに言われた言葉に、思わずミラベルは息を飲む。
一方で、セシリアは驚く様子もなくアナスタシアの切り出した話に耳を傾けている。
「別に答えにくかったら答えなくてもいいわ。責めているわけでもないし、単純に聞いておきたかっただけなの」
アナスタシアはあまり深く考えないでと、優しい笑みを浮かべてミラベルを見る。
だけど、ミラベルの頭の中には疑問しか湧いてこなかった。
「あなたはセシリア……までとはいかないけど、それなりにユリスのことが好きって伝わってくるもの。正直、今もそんな感じだし……」
ミラベルの態度は、結構分かりやすい。
好意を直接口にまではしていないものの、態度から如実に醸し出されてしまっている。
分からないのは、当の本人である鈍感なユリスだけ。
恐らくリカードも、ミラベルの気持ちには気づいているだろう。
「わ、私は……」
ミラベルが恐る恐る口にする。
気にしないでと言われても、割り込もうとしているという罪悪感が込み上げてくるからだ。
それでも、ミラベルは最後まで言い切った。
「……ユリスくんが好き。初めて会った時から、ずっと」
「……そうですか」
ミラベルの勇気ある一言に、セシリアは小さく頷いた。
気づいていたとはいえ、こうして本人の口から直接言われたら改めて実感してしまう。
「想いを伝えたりしないのかしら?」
「む、無理だよ! そんな、私が告白だなんて……」
ミラベルが頬を赤らめながら否定する。
だけど────
「もし……ミラベルさんが勇気が出ないから、という理由であれば何も言いません。ですが、私達に気を遣っているのであれば────その心配は無用ですよ」
セシリアは、ミラベルの否定を肯定する。
「別に、私達はユリスを諦めろなど言いません。ミラベルさんがユリスを好きで、ユリスがその想いに答えたのであれば、それは私達にとって喜ぶべきことです」
「…………」
「想いを伝えるのに条件なんて存在しないんです。誰にも資格があって、私達は勘定に入れるべき存在ではありません。だから……大丈夫ですよ、ミラベルさん。それに、私達はミラベルさんだったら嬉しく思っちゃいます。」
自分達がいるのに告白をする。
その罪悪感は、感じる必要がないものだと、セシリアは口にする。
その時のセシリアの顔は、どこまでも優しく、誰もを肯定する柔らかさがあった。
きっと、これはセシリアの本心なのだろう。
それと同時に、アナスタシアも同じようなことを思っているとも、ミラベルは理解した。
しかし────
「私には……無理だよ」
ミラベル自身は、己を否定する。
「私には、その資格……ないもん……」
ミラベルの消え入りそうな声が、テラスに響き渡る。
悲しく俯いて発せられた言葉と、ミラベルの顔を見て────二人は、それ以上何も言えなかった。
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