試着

『魔法学園の大罪魔術師』の二巻、モンスター文庫様より好評発売です!!!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 仕立て屋での試着は、店の奥にある個室にてすることができる。

 小さい個室の入口には見えないようにカーテンがかかっており、きちんと閉めれば覗かれることもない。


 そんな試着室の目の前の椅子で、ユリスは乙女達の着替えが終わるのを待っていた。


(果たして、どんな感じになるのか……)


 試着室に来るまで、水着選びはユリスも含め皆で行った。

 時にユリスが己の好みを口にし、時にユリスが願望を口にし、時にユリスが懇願した。


 そのみっともない姿を見せた結果、最終的にはユリスがチョイスしたいくつかの水着を試着することになった。

 もはや、本人達の意識などどこにもない。


(俺が選び抜いたチョイスに間違いはない! ただ、俺の理性がしっかり持つかどうかだ!)


 ユリスが選んだ好み丸出しの水着が、ユリスのストライクゾーンに刺さらないわけがない。

 問題は、ユリスの理性が持つかどうかと、しっかりとした感想が言えるかどうかである。


(大丈夫……娼館通い歴一年弱の俺であれば、女の子を褒めることなど容易い!)


 何とも歴の少ない自信である。


『ユリス、着替えたわよ』


 ユリスが己に言い聞かせていると、先にアナスタシアの準備が整う。


「おう!」


 緊張よりも興奮が滲み出たような声でユリスが反応する。

 試着室には誰もいない。故に、奇異な視線は浴びせられることはなかった。


『じゃあ……行くわよ』


 どこか羞恥の籠った声と共に、一つの試着室のカーテンが開かれる。

 開かれると、そこから現れたのは—――美姫であった。


 少し布地の多い赤色の水着。引き締まった腰回りがスタイルの良さを醸し出し、白いTシャツを胸元で結んでボーイッシュに見せる。

 赤髪と同じように染まった頬はどこかいじらしく、頭にかかったサングラスがかっこよさを見せているはずなのに乙女を感じさせた。


「ど、どうかしら……」


 恥ずかしそうに腕を抱き、照れを見せながらユリスに問う。


「そ、そうだな……」


 同じ羞恥にあてられたからか、それとも単純にアナスタシアの容姿に見惚れてしまったからか分からないが、ユリスは上擦った声で反応を見せる。


「凄く……いいと、思う」


「そ、そう……ありがと」


 始めの気合いと、色欲に忠実な姿はどこに行ったのか?

 二人の間には、初々しさしかなかった。


『むっ! ユリスがアナスタシアさんに見惚れている空気を感じますっ!』


 そんなやり取りが聞こえたのか、もう一つの試着室のカーテンが勢いよく開かれた。

 現れたのは……紛うことなき聖女の姿。


 白と黄緑の柄が合わさったパレオタイプの水着。パレオは薄い透明色で、奥に覗くビキニが薄らと見えどこか色っぽい。

 着やせするタイプなのか、胸元のビキニは谷間を綺麗に強調し、愛くるしい顔に艶美さを与えていた。


 子供のようで、どこか癒しを与えてくれそうな雰囲気――—今のセシリアからは、そんな雰囲気を感じた。


「連続してのこれは……お兄さん、ライフが持たない」


「ふぇっ!? どうしたんですかユリス!?」


 顔を押さえ悶えるユリスを見て、セシリアが心配そうに驚く。

 悶える原因が自分にあるなんて露ほども思っていないような反応であった。


「あなた……初めは凄い乗り気だったのに、耐性がなさすぎじゃない?」


「……あのなぁ、娼館の女とお前らを一緒に見れるわけがないだろ」


 確かに、ユリスは色欲が旺盛だ。

 そのために水着が見たいと言い出し、過去に娼館にも通っていたりした。


 しかし、いざ好きな人の魅力的な姿を見たとなると、今までの経験や自分の色欲などどこかにすっ飛んでしまう。

 それぐらい、ユリスから見れば二人は魅力的で、悶える原因となってしまうのだ。


「ミラベルを見たらどうなるのかしらね……」


「頼む、俺の理性……ッ!」


「その反応は、些か複雑な気分になるわ」


 セシリアなら分かるが、ミラベルまでとなると複雑な気分になる。

 確かに、ミラベルは魅力的な女の子だ。地味にセンスのよかったユリスが選んだ水着を着れば、今まで以上に魅力的になるだろう。

 だから、見惚れてしまっても理由は分かる……分かるのだが、ユリスが好きな人間からしてみれば複雑なのだ。


「セシリアは魅力的、セシリアは魅力的、俺は魅力的に慣れた男。セシリアは魅力的、セシリアは魅力的、俺は魅力的に慣れた男。セシリアは魅力的、セシリアは魅力的、俺は魅力的に慣れた男――—」


「あ、あの……ユリス? 嬉しいですけど、流石に恥ずかしいです……」


 自分に言い聞かせていたユリスだったが、それを聞いていたセシリアは恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせた。

 だが、それも満更ではない。頬をニマニマしながら、セシリアは水着姿のままユリスの膝の上に座った。


 そして――――


『ご、ごめんね! 私が最後だったかな!?』


 最後だと思ったミラベルが、勢いよくカーテンを開けた。


 長い金髪は光によって反射され美しく。

 アナスタシアと同じく綺麗なプロポーションと、布地の薄目な黒いビキニがこれでもかというくらいに大人びた印象を与えている。

 大人びた雰囲気は……同時にかなり色っぽい雰囲気を醸し出していた。


「……」


 そんなミラベルの姿を見たユリスは—――


「ユリス……鼻血が出ているので癒して差し上げますね」


 キャパオーバーによって、鼻血を出してしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る