王都で水着

『魔法学園の大罪魔術師』の二巻、本日発売です!!!


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 痛むこめかみを押さえながら、ユリスは王都へとくり出していた。

 いつもなら提出しなければならない外出届も、今回の長期休暇では提出不要だった。

 なので、いつ頃帰ろうがいつ戻ろうが気にすることもない。

 めいいっぱい、憂いなく休みの日を堪能することができるのだ。


「そういえば、水着ってどこに売ってあんの?」


 王都の市場を歩きながら、横を歩くアナスタシアに声をかける。


「一応、仕立て屋で揃えることができるわ」


「ふぅ~ん……んで、何も考えずに歩いてるけど、行く当ては決まってる感じでいいのか?」


 行き交う人々は、相も変わらず沢山だった。

 出店の店員が声を張り上げ客を呼び込み、より一層の活気を見せる。

 行き交う人々も、それに合わせて賑やかなムードを醸し出していた。


「決まってないわ」


「おい」


「だって、私が知っている仕立て屋は貴族向けだもの。流石に、ミラベルが一緒にいる時には行かないわよ」


 アナスタシアの言葉に、ユリスは言葉が詰まる。


 アナスタシアの言葉は、決してミラベルが貧乏だからと馬鹿にしているわけじゃない。

 貴族向けというのは金銭面でも馬鹿にならないほど高額であり、それなりに入店規制がかかっているものが多い。


 アナスタシアが知っている場所は、その入店規制がかかっているお店であり、ユリスとセシリアなら問題ないが、ミラベルを連れている以上、行くことは難しいのだ。


「なんか、ごめんね……?」


 後ろを歩くミラベルが申し訳なさそうに答える。

 だけど、はぐれないよう手をミラベルに握られているセシリアが優しく答えた。


「大丈夫ですよ、ミラベルさん。別に、私達はそこに行きたいってわけじゃないですから!」


「そうね。単に私が知っているってだけで、別に行きたいわけじゃないもの」


「そっか……うん、ありがとうね」


 気を遣うわけではなく、単にその気がないだけ。

 嘘を言っているように見えない二人を見て、ミラベルはそっと胸を撫で下ろした。


「とはいえ、結局どうするよ? 水着なんて取り扱ってる店なんか知らないぞ?」


「娼館の場所は知っているのに?」


「おう、そうだァァァァァァァァァッ!? こめかみがァァァァァァァ!!!」


 安易に頷いてはいけないと、ユリスは学んだ。

 若干理不尽だと思わないこともないが、それでもアナスタシアの琴線に触れたのだろう。


「でもどうしよっか? 私も、王都ってあんまり知らないから水着が売ってある場所なんか知らないし……」


 アナスタシアにこめかみを握り締められているユリスを放置して、ミラベルは顎に手を当てて考える。

 その動作だけで、行き交う人々の視線が引き寄せられてしまった。


 流石はエルフ───というのもあるが、ミラベルの容姿が人目を惹くからだろう。


「むふんっ!」


 ────そんな時、セシリアが唐突に胸を張った。


「むふんっ!」


 そして、誰かに反応してほしいからか、二回目を見せた。

 隣にいたミラベルは苦笑いだ。


「どうしたの、セシリアちゃん?」


「私、水着が売っているお店を知っていますっ!」


 どやぁ、と。謎の効果音が聞こえてきそうなぐらい、可愛らしくドヤ顔を見せるセシリア。


 その姿にミラベルは「あぁ、もうっ! 可愛いなぁ、セシリアちゃんは〜!」と、後ろからセシリアを抱き締めて頭を撫で回した。


「私、お友達ができた時用に色々調べていたんです! その時に、水着が売ってあるお店も調べておきました!」


「おぉ……なんて可愛らしい理由」


 ドヤ顔を見せている間に解放されたユリスが、別の意味で感嘆とした声を漏らす。

 二度目だからか、ユリスのこめかみが真っ赤に染まっていた。


「でも、それだったら助かるわね。適当にぶらぶら回って探そうと思っていたのだけれど、そっちの方が効率がいいわ」


「そのあと、皆で遊べばいいもんね! 流石、セシリアちゃんだねぇ〜!」


「わわっ! 恥ずかしいですミラベルさんっ!」


 ミラベルが褒めるように、セシリアに頬擦りをする。

 セシリアは、往来では……と、満更ではないが恥ずかしそうに頬を染めて少しの抵抗を見せていた。


「……なぁ、アナ?」


「何よ?」


「美少女の頬擦りって……なんかいいよな」


 尊い以外の言葉しか出てこなかったユリス。

 一人は自分の婚約者ではあるが、それでもこのような光景を見せられてしまってはそんな感想しか出てこなかった。


 無論、往来を歩いている人達は足を止めてその光景を眺めていた。

 流石、群を抜いて顔立ちが整っている二人だ。


「あら? 私もやってあげましょうか?」


「……勘弁してくれ。こめかみが痛む」


「じゃあ、口の方がいいかしら?」


 アナスタシアが少し頬を染め、自分の唇に指を当てる。

 その姿がどこか色っぽく、ユリスは思わず顔が熱くなってしまった。


「……本当に、勘弁してくれ」


 往来で、こんな恥ずかしい思いをさせられるとは思っていなかった。

 どうも攻めているようで、攻めに弱いユリスは、アナスタシアに好意を向けられた途端、弱くなってしまうのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る