仕立て屋

『魔法学園の大罪魔術師』の二巻、モンスター文庫より発売中です!!!


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 往来の注目を浴び終わったユリス達は、現在市場から離れた市民街へとやって来ていた。

 並ぶのは出店の類ではなく、市民が暮らす住宅や、住宅の一部を改装した店舗など。


 王都の中にある市民街は、観光客だけではなく王都に住む人達から穴場のスポットだと言われており、わけありのお店から種類が豊富なお店まで多かったりする場所だ。


 そんな市民街に存在するお店の一つ────仕立て屋へと、ユリス達は踏み入れた。


「ふむ……」


 ユリスが、店内を見渡して小さく頷く。

 セシリアが見つけたという仕立て屋は、以外にも店内は広々としており、装飾も煌びやかで少しオシャレだった。

 シャツやパンツ、コートにワンピースなど、様々なぼ品が並び、それ目当ての多くのが店内で服を吟味していた。


「ふむ……」


 ユリスはもう一度頷く。

 そして────


(場違いぱねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)


 店内の入口で、頭を抱えてしまった。


「どうかしたんですか、ユリス?」


 そんなユリスの姿を見て、洋服片手に顔を覗き込み心配そうに声をかけるセシリア。


「いや、場違いじゃない? 俺ってば、完全にいちゃいけない場所じゃない?」


 そう、ユリス達がやって来たのは女性用の服を取り扱う仕立て屋だった。

 故に、ここにあるのは女性ものばかりで、買い物をする客も女性しかいない。


 いくら色欲に忠実なユリスといえど、「女の子いっぱいひゃっほーい!」などと場違いな空気を喜べるはずもなし。


 正直、かなり浮いた存在へとなっていた。


「いづれぇ……いたたまれないよ、俺だけ……」


「ですが、ここではよく恋人さん達が一緒に来ることもあるそうですよ? わ、私も……そ、その、ユリスの婚約者ですから、何も問題はないと思います……」


 婚約者というワードに対して少し照れを見せるセシリア。

 まだまだ純粋無垢な可愛らしい少女のようだ。


「問題はないかもしれんが……」


 よく来る恋人が今現在見えねぇんだよ、と。少し愚痴りたくなったユリスである。


「あはは……まぁ、ユリスくんの気持ちは分かるかな?」


 後ろからやってきたミラベルが苦笑いを浮かべる。


 エルフでありながらも、人の世界にやってきているミラベルは、こういう浮いている空気をよく感じていたからこそユリスの気持ちが分かったのかもしれない。


「意外ね。あなたは、てっきりこういう空気に慣れていると思っていたわ」


 そして、アナスタシアが意外そうにユリスを見る。


「その根拠は?」


「ほら、あなたってどこにいても「俺は俺」みたいなことを言ってるじゃない? だから、別に問題はないと思っていたのだけれど……」


「まぁ、あながち間違っちゃいねぇが……」


 ユリスのその発言は、あくまで『傲慢』が元で出てくる言葉だ。

 誰にも流されず、我を通す───それが、大罪。


 しかし、今回は単純に異性の環境という話だ。

 驕る要素がどこにもなければ、不遜な態度も取れやしない。

 というより、この場でそのようなことをしたらただの痛い人である。


「どうしましょうか……? ユリスが嫌なら、別の場所にしますか?」


 自分から提案し、ここでなら揃っているとはいえ、ユリスが嫌であればそれは本意ではない。

 だから、セシリアは少し困った表情を見せた。


 しかし、それはユリスとて同じ。

 元々彼女達の買い物に自分が同行しているだけ。

 それなのに、自分のせいで気を遣わせてしまうのは嫌だ。


 故に、ユリスは心配しているセシリアの肩を掴み、努めて元気にこう口にした────


「それよりセシリアの水着が見たい!」


「ふぇっ!?」


 水着を売っているのであれば、サイズを測るためにも試着はするはずだ。

 となれば、海を待たずして水着を見ることが可能。


 さらに試着であれば選ぶまでに様々な水着を着ることになり、またまた美味しい。

 決して色欲に負けたからではない────ただ、セシリアを心配しての発言だ!!! と、ユリスは己に言い聞かせた。


「はぁ……さっきの心配を返しなさいよ」


「いたたまれないのは本当だけどな」


「でも、ユリスくんが問題ないならよかったよ!」


 ここでユリスくんがいなくなったら寂しいもんね、と。付け加えるようにミラベルが呟く。

 その呟きが拾えたユリスは「ほんと、ええ子やなー」と、少し年寄り臭いことを思った。


「今思えば、あなたが私の水着を選ぶとか言ったんだから、そこの責任は取らなきゃいけないわよね」


「うむ、任せろ!」


「そ、その気合いの入りようは少し怖いわね……」


 アナスタシアが少し引き気味に体を抱く。

 しかし、何故かその姿に唆るものを感じてしまったユリスであった。


「っていうより、ミラベルは俺に水着姿って見せてもいいの? 女の子って、そういうの嫌がると思ってるんだけど……」


 もちろん、アナスタシアとセシリアからは了承を得ているので問題はない。

 ただ、ミラベルだけは婚約者でもないし了承も得ていないので、ユリスはちゃんと確認する。


「ま、まぁ……恥ずかしいけど、ユリスくんなら大丈夫……かな?」


「ガッデム!」


 喜びのあまり拳を突き上げてしまったユリス。

 アナスタシアとセシリアは冷めた瞳を向けていた。


「それじゃあ早速選ぶとするか! 皆、俺に任せぇえろ!!!」


 ユリスは意気揚々と、水着が売ってあるコーナーへ進む。

 その足取りからは、初めのいたたまれなさは微塵も感じられなかった。

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