師匠とも
『魔法学園の大罪魔術師』の二巻、7/30発売です!!!
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休み期間までは少し時間がある。
あれから皆で話し合って長期休暇の最終日前日と最終日に行くことになったユリス達。
早めに予定しておかなければ────ということがあってのことだ。
そして、本日は長期休暇前の最後の休日。
それぞれが長期休暇に向けて準備している中、ユリスは一人学園長室にやって来ていた。
「ってな感じで、海に行くことになったんだけど……」
ゆっくりと腕を上下に振りながら優しく肩を叩く。
それを受けて、桃色の髪をした少女が気持ちよさそうに目を細めていた。
「行ってこい、行ってこい。若いうちは遊んでおかんといけんしのぉ」
ユリスの婚約者であり、師匠という肩書きいっぱいなミュゼが「ふにゃ」と、可愛らしい声を上げる。
それも、ユリスの肩たたきテクニックが上達したからだろう。
「まぁ……そうなんだが」
歯切れの悪い返事を見せる。
それが少し疑問に思ったミュゼ。
「なんじゃ? 楽しみじゃないのかのぉ?」
「いや、楽しみなのは楽しみではあるんだが……」
ユリスが罰の悪そうに頬をかく。
そして、申し訳なさそうに口にするのであった。
「……師匠、本当に一緒に行かなくていいの?」
皆を誘う前。
ユリスは、ミュゼにも同じように誘っていた。
というのも、ミュゼはユリスの婚約者だ。
いつも一緒にいる生徒メンバーではないものの、親しい者の一人。
ならば、一緒にどこかに出かけたいと思うのは必然。
だけど、ミュゼからはその誘いを断られていた。
というのも────
「妾が行ったところで、生徒達は気を遣ぉて楽しめんじゃろ。アナスタシアやあの聖女ならまだしも、そういう場に水を差すのは好まんよ」
「……それもそうなんだが」
ミュゼの言わんとしていることも理解できるユリス。
だからこそ、あまり強く言えなかった。
「それともなんじゃ? 妾の水着姿でも見たかったか?」
「うん」
「かかっ! 相変わらず素直じゃのぉ!」
別にそれだけではないのだが、思わず即答してしまうユリスはやはり色欲に忠実だった。
「そんなの、いくらでも見せてやるわい。なんじゃったら、今すぐここで脱いでやろうか?」
「そ、それはまた別日にお願いしますっ!」
そして、娼館通いしていた少年は妙なところでヘタレであった。
「そういうわけじゃ。ちぃと寂しくはあるが、そこについては別に問題ないよ」
「……そっか」
その返答が、どこか寂しく思えたユリス。
どうしてユリスはここまで聞いてくるのか?
それは────
(よく考えれば、俺って師匠とどこかに出かけたことってないんだよなぁ)
幼少期の頃も、ずっと山奥で過ごしっぱなし。
学園に来てからも、お互いの立場の違いで遊びに行けなかった。
婚約者になったのだ。
肩書き抜きにしても、どこかに出かけたいと思うのは仕方のないことだと思う。
だから────
「じゃあ、師匠」
「ん?」
「……また今度、一緒に出かけようぜ。俺と師匠の二人きりで」
ユリスがそう口にすると、室内に静寂が広まった。
そして────
「それは、楽しみじゃのぉ……」
ミュゼが小さく笑った。
激しく高鳴る心臓が、妙な心地よさを与えてくれる。
それがなんとも嬉しくて────生きていてよかったと、ミュゼは再びしみじみと思ってしまった。
それから少しして────
「そういえば、お前さんや」
そんな心地よさも、ミュゼは思い出しの言葉で霧散させる。
「どったの?」
「あのエルフの女のことなんじゃが……」
エルフ? ユリスの頭の中に、そんな疑問が湧き上がる。
ユリスの身近にいるエルフといえば、ミラベルしかいない。
だが、どうして急にミラベルの話が?
それも、再びユリスの頭に疑問として浮かび上がる。
「ミラベルのことでいいんだよな? っていうより、ミラベルがどうかしたの?」
ユリスは純粋な疑問としてミュゼに尋ねる。
だが、ミュゼは怪訝そうな顔を見せた。
「なんじゃ、お前さん。聞いておらんのか?」
「聞く? 何を?」
「じゃからの────」
次の言葉を口にしようとして、ミュゼは口を閉じた。
そして、少し複雑な顔を見せながら、そっとユリスから顔を背けた。
「……いや、なんでもないわい」
「んだよ……そこまで言ったんなら気になるじゃん」
「よくよく考えれば、妾の口から言うもんでもないしのぉ」
なんだよもったいぶって、と。
ユリスは悪態をつきながらも、ミュゼの肩を揉んでいく。
「(あやつが言い出さんということは、言いたくないことなんじゃろう……ここは、黙っておくのがあやつのため、か)」
ミュゼが小さく呟く。
この至近距離だったからか、ユリスの耳にはしっかりとその呟きは聞こえてしまった。
(ミラベル……お前、なんかあったのか?)
少しだけ、心配というモヤがユリスの中に侵食する。
だが、ミュゼの言う通り自分から言っていないのであれば────もしかしなくとも、触れてほしくない事柄なのかもしれない。
そう思い、疑問を振り払うユリス。
だが、それでも心のどこかには小さなしこりは残ってしまったままであった。
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