セシリアの苦悩
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セシリアという少女は、心根の優しい少女だ。
他者を思いやり、平和であろうと望み、困っている存在を決して見捨てたりはしない。
外見だけに囚われず、中身をしっかりと見て、他者に寄り添うことができる。
それ故に、聖女として選ばれたのだろう。しかし、その人格は間違いなく聖女になったからではなく、一人の女の子の時から備えていた優しさであった。
そんな心優しき少女には愛しい少年がいる。
欲に塗れ、少し嫉妬してしまう部分やだらしない部分こそあるものの、助けたいと思う人間は決して手放さず、自分よりも優しい少年。
セシリアは、少年のことが大好きだ。
立場関係なく、セシリアは一人の女の子として、少年に惹かれていった。
願わくば、そんな少年と末永く共に過ごせますように。
時に喧嘩して、時に泣いて、時に笑い合って、幸せというものを一緒に噛み締めていきたい。
その道中、自分以外の女の子にも少年が愛を向けていたとしても、自分を見てくれているなら問題はないと思っている。何故なら、少年の側という幸せを自分一人で独占したいとは思っておらず、自分のこともしっかりと見てくれてくれるなら、その幸せ分けてあげたいと思っているからだ。
つまりは、セシリア望むことは少年の側にい続けること。
それ以外、大きな望みも何もなかったのだ。
────しかし、少年は傷ついている。
側にいてくれていても、少年は前に踏み出す度に傷ついてしまう。
泣いた日もあった。気づくのが遅くかったと後悔した日もあった。
けれど、少年はそれでも前に進む。己の理念と理想を追い求めて、誰かを助けるために拳を握る。
それは美徳か、果たして大罪か。
分からないが、少なくとも周りは良しとはしなかった。
一人、また一人と、少年を助けるために動き出していく。
今まで少年に助けられてきたから、愛しているから、元気になってほしいから、全ての重荷を背負わせたくないから、助けてあげたいと思っているから。
皆、その意思は固い。
それほどまでに、少年のことを思っているのだ。
では、自分はどうなのだろうか? 少なくとも、皆みたいに固い意思を持っていないのは確かだ。
少年が大好き、愛している。自慢ではないが、セシリアは世界中の誰よりも少年を愛している自負はある。
どうして? 違うのだ。
セシリアの中では少年が好きだから助けなければという話には繋がらないだけである。
セシリアにとって、少年はどの存在よりも特別だ。
特別だからこそ、他者と同じように扱うことができない。
他者であれば、傷つけば救済という手を差し伸べ、すぐさま癒しの力を与えるだろう。
しかし、少年は違う。セシリアは、少年という存在を尊重し、寄り添いたいと思っている。
故に、傷いついても自分が悲しむことになっても、前に進みたいという少年の理念を拒むことができない。
それを含めて、支えてあげたいと、側にいたいと思ったのだから。
しかし、だ。セシリアとて一人の女の子。心優しい……少女なのだ。
そう思っていても、少年の傷ついていく姿を見れば胸が苦しくなるし、助ける方法が提示され、皆が乗っかっているのなら流されてしまいたいと考えてしまう。
少年を尊重するか。
少年を救済するか。
前に、少年の尊敬している人から、言われた言葉がある。
『今はよい……いつかは自分で決めるんじゃ。それがどんな道であろうと、妾は止めんよ』
自分で決めろと。流されることは許されず、自分で決めたことであれば止めはしないと。
であれば、この苦悩は自分で解決しなければならない。
例え────賽を振ってしまったのだとしても。
♦♦♦
「全く……セシリアも困った男を好きになる」
ユリスがいなくなった客間。
そこで小さな笑みを浮かべたミーシャが、ゆっくりともう一度ソファーに腰を下ろした。
「まぁまぁ〜、それも「ユリスくんのいいところ☆」ってやつだからね〜!」
「ミカエラは呑気だな。こうしている間に、ユリスくんが逃げてしまうとは考えないのか? 事実、逃げられているがな」
「それはないよ〜! だって、逃げたとしても最後にはセシリアちゃんの下には戻って来ないといけないんだからぁ〜♪ 私達は、ゆっくり探せばおっけ〜!」
ミカエラは、消えてしまったユリス座っていたソファーを見て、徐々に恍惚とした笑みを浮かべる。
「わ、私……抵抗するユリスくんと本気でヤレるって考えると……興奮しちゃう! これが、愛! 互いが違う思想を持ちつつも、力づくでも押し通したいという強い感情! 私が負けて押し通されるか、私が勝ってユリスくんを連れ帰るか────それを考えただけでゾクゾクしちゃうっ☆」
「……お前の戦闘狂いも治らないものだ」
二人が緊張感なく言葉を交わす。
厄介だとか、これからどうしようとか、迷いなど、ミーシャとミカエラからは感じない。
それはセシリアよりも年上だからか? それとも、己の中で頑固たる意思が眠っているのか?
少なくとも、セシリアには持ち合わせていないことだ。
「では、我々も探しに行くとしよう。セシリアとミカエラは一緒に行動して探せ。私は一人で行く」
「おっけ〜♪」
ミカエラとミーシャが立ち上がる。
セシリアも、それに続いて俯きながらもゆっくりと立ち上がった。
「自分の力を欲するのは強欲だ。ならば、私は救恤をもって少年に叩き込んでやろう」
瞳には笑みはない。
どんな得もあるわけでもないのに、ミーシャを突き動かすのは己の理念であった。
そんな姿を見て────
(ユリス……私は、どうしたらいいのでしょうか?)
セシリアは、隣にいない愛しい少年に問いかけた。
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