魔法学園の大罪魔術師(※旧タイトル︰大罪の魔術を極めた辺境領主の息子、何故か帰ってくれない聖女と共に王立魔法学園に入学する)

楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】

第一章 王立魔法学園入学

プロローグ

※2/26 モンスター文庫様より書籍発売です!

よろしければ是非!


〜〜〜〜〜


 ~半年前~


 とある国の辺境の地の一本道。

 この道は他の領地へと移動する際に行商がよく通っている。


 そこに、行商ではない一つの集団が道を歩いていた。

 武装した兵士と思われる数十名の人間が馬車を囲い、その姿は十全の警護が行われていると感じさせる。


 一般の行商ですら、護衛は雇う。

 だが、今この道を通っている一行はそれとは違い、何やら風格が違っていた。

 馬車はきらびやかに、白を貴重とした黄金色の荷台は神々しさを感じ、護衛につく兵士は熟練の足取りを思わせる。


 端から見たら、さぞお偉いさんが乗っているのだろうと分かってしまう。

 それを見た民は興味を示し、貴族は頭を下げ、盗賊は────


「と、盗賊が現れたぞぉぉぉぉぉぉっ!!!」


 ────格好の餌と思う。


「ヒャッハー!!!」


「久しぶりの大物じゃねぇか!?」


「女は生け捕りだぁぁぁぁ!!!」


 見晴らしのいい一本道を歩く一行に、崖から現れた盗賊が襲った。

 さしずめ、待ち伏せでもされたのだろう。その統率された動きは、まるで現れるのを予測していたかのようだった。


「総員、聖女様をお守りしろ!」


「「「了解!!!」」」


 だが、唐突な襲撃にも関わらず、護衛についていた騎士達は動揺も見せないまま馬車を囲うように守る。

 依頼主か、はたまた主なのか……そこは分からないが、それでも「なんとしてでも守る」という強い意思は感じられた。


 だがしかし、騎士数十名に対して盗賊は三倍以上の人数。

 手練れな騎士とはいえ、数は圧倒的不利。さらに言えば、双方の崖から盗賊が挟むように現れ、ここは逃げる場所も身を隠す場所もない一本道。

 状況は最悪と言ってもいいだろう。


「わ、私も戦いますっ!」


 馬車から、一人の少女が飛び出した。

 美しい金髪を靡かして、震える足を踏みしめながら、今にも襲いかかろうとする盗賊から護ろうとしてくれる騎士に向かって言い放つ。


「いけません聖女様! お下がりを!」


「ここは我らにお任せして、早くお逃げくださいっ!」


「で、ですがっ!」


「この人数差では、この場を制圧することはできません! だから、聖女様だけでもお逃げを!」


 そう、熟練の騎士達ならすぐ分かる。

 この状況では、決して盗賊達には勝てないということを。自分達は助からないが、聖女様だけならなんとか逃がせるかもしれないということを。


「わ、私は貴方達を残して逃げられませんっ!」


 聖女と呼ばれる少女は勇ましくも叫ぶ。

 だがしかし、それは蛮勇で如何にも愚かな行為だとは、当の本人は気づいていない。


「お前ら、狩りの時間だぜぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


「「「ひゃっはー!!!」」」


 故に、この後起こるだろう光景は、誰にでも予想することができるだろう。



 ♦️♦️♦️



「ちっ、豪華なもんだから結構な人数の女がいるもんだと思っていたのによぉ……女一人だけじゃねぇか」


「しかし頭! こいつ、かなり身なりいいですぜ!」


「それに、金も装飾も大量だ!」


 それからしばらくして。

 この一帯を縄張りとし、国内で大いに悩ませてきた盗賊の歓喜の声が響き渡る。


「み、皆さん……」


 加えて言えば、少女の絶望的な声も響いていた。

 ……まぁ、それも無理はないだろう。何故なら、周囲に広がるのは先程まで自分を護ってくれていた騎士達の亡骸が転がっているのだから。


 少女はへたりこみ、必死にその亡骸に向かって手を伸ばす。

 その手からは淡い光が漏れていた。


「格好からして、聖職者────それも、位の高い奴だな」


 頭と呼ばれる盗賊が、その少女の姿を見て呟く。

 淡い光を放つ者は聖職者か、治癒魔法士ぐらいだろう。だけど、目の前の少女は身なりが冒険者のソレとは違う。


 故に、彼女は聖職者という事になる。


「聖職者であれば、かなりの額で売れますぜ!」


「まぁ、今時の貴族様はそういう存在を自分の物にしたがるからなぁ……。それか、教会を脅して金にするのもいいな」


 頭は考える。

 この少女をどう扱うかを。


 盗賊に捕まった者は例外なく明るい未来を辿ることはできない。

 奴隷としてどこぞの貴族に売られるか、盗賊達の慰み物となるか……殺されるか。


 故にこそ、悩む。

 どちらに転んでも、盗賊達にとっては宴を開くほどの事なのだが。


(久しぶりの上玉だしなぁ……俺らで殺すのはもったいねぇ)


 外見はかなり整っている。さらに、こんな豪華な馬車で護衛されているくらいだ────相当な立場の人間なのだろう。

 盗賊に、女神を信仰している者などいない。


 故に、目の前にいる聖職者をどうしようと、抵抗は無いのだ。


「まぁ、いい……おいっ! 誰かこいつを連れていけ!」


「へいっ!」


 頭の合図と共に、一人の盗賊が少女に手を伸ばす。


「ひっ!」


 先程まで必死に傍らに転がる亡骸に手を伸ばしていた少女はその手に怯える。

 流石に、この少女も盗賊に捕まったらどういう扱いを受けるのか分かっているからだ。


 体に力が入らない。

 叫ぼうにも声が詰まって言葉が出なかった。


「頭、俺らで先に遊んじゃダメですかい?」


「やめろ。そいつは先に俺が遊ぶんだからよ」


「へーい……その後は?」


「……壊さねぇ程度なら遊んで構わねぇよ」


「流石、頭だぜ!」


 そのやり取りは、余計に少女を恐怖に陥れる。自分の末路が、直前に迫ってくるように感じたからだ。

 それも、下卑た笑みを浮かべる盗賊が自分に手を伸ばしてくれば尚更。


(助けてください……主よ!)


 その叫びは天に向けられた。

 だがしかし、天からは帰ってくる言葉はなかった。


 だけど────



「寄って集って金品を奪う────それは強欲だな」



 突如、目の前の盗賊が倒れた。

 喉元から血飛沫を上げ、少女を護った騎士とは違い、悲鳴も残さず。


「な、何が起こったァ!?」


 盗賊の頭がその光景を見て声を荒あげる。

 その声に反応して、唖然としていた盗賊達も一斉に慌て始めた。


「目の前で起こった光景を理解しようとせず、他者に聞く────それは怠惰じゃないのか?」


 再び、声が聞こえる。

 だけど、今度は皆戸惑う事はなかった。

 それは、目の前に突如として現れたその声の主が、血塗られた剣を携えていたからである。


「……あ、貴方は?」


「……遅れてしまって、ごめん」


 名乗らず、少年は申し訳ないさと、優しく安心させるような……何とも言えない表情を少女に向けた。


 少女は戸惑う。

 目の前の少年がどうして現れたのか? どうして目の前にいた下卑た笑みを浮かべていた男が倒れたのか?


(も、もしかして……主が遣わした勇者様?)


 自分が主に助けを求めたから、彼が主の遣わしで現れたのだろうか?

 ……まぁ、本当はそんなことはないのだが。


 だがしかし、今は少年の出自など関係ない。

 今、この瞬間に彼が現れて、私に優しい笑みを向けている事こそ、考えなければならない事柄なのだ。


「なんだ貴様は!?」


 盗賊の頭が激昂する。

 無理もない。目の前で部下が殺されたのだ。


 方法も何が起こったかも分からないが、目の前のこの少年が何かをしたのは明らか。

 だからこそ、頭は少年に向けて懐に閉まっていたナイフの切っ先を向けた。


 だけど、少年は臆さない。

 不遜に、汚物を見るような目で、堂々と少女を庇うように言い放つ。


「欲にまみれる愚者に名乗る名はねぇよ」


 そう言って、少年は盗賊達の集団に飛びかかっていった。



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