第四章 末摘 花子

第17話 赤毛のメイド

 俺と同居する女性たちは、4人だ。

 外からみれば、うらやましい状況なのだろうが、実はそうじゃない。俺が食事当番だという日は多いからなんだ。

 一度でいいから、5人分の食事を作らされる身にもなってみろ。

 俺がスマホで料理の作り方をチェックしても、それが全員の好きな料理であるとは限らない。一人でも嫌いだったらアウトだ。

 やっかいなことに、全員とも各々おのおの、好みが違う。


 俺の娘、ムラサキは和食が好みだ。みそ汁かお吸い物、つけ物やえ物がないと不平をもらす。「お父様はムラサキのことを愛していませんのね」とがっかりした表情で、文句を言ってくるのだから、お手上げだ。

 でも、これはまだ、かわいいほうだ。

 兄嫁の月夜は、洋食料理を好んで食べる。例えば、カレーライスとかハンバーグなどだ。ところが、俺の作ったカレーが辛口だと怒って、その日は食べないときがある。

「スーちゃんだったら、作り直してくれたのに……」と彼女はよく言う。

 これを聞いた俺は心底しんそこ、兄の朱雀に同情した。嫁がこんなにも子供だったら、兄も苦労するだろう。

 いや、文句を言ってくるのは、まだましだ。

 ミヤスコと桐壺に至っては、連絡もしないで突然、カラオケや飲み会に行ってしまうことがあるのだ。こうなると、せっかく作った夕食がムダに余ってくる。捨てるのももったいない。俺は処分方法に困って、余り物を冷凍庫で腐らせてしまうのだった。


 ただし、家事全般を俺がやっているわけではない。

 うちには、家政フがいる。名前は末摘すえつむ 花子はなこ。18歳の長身で、赤毛の女性だった。俺は末摘花すえつむはなと呼んでいる。

 掃除そうじ、洗濯、食事、後片付け、買い物など、家の事なら何でもやってくれるのだ。

 彼女は、上野のおばあちゃんの所で、家政フとして働いていた。ムラサキがなつくので、おばあちゃんが亡くなった後、そのまま、うちで働くことになった。今は、我が家の家事を任せている。

 しかし、彼女は午後5時までしか働いてくれないのだ。

 当然、夕食など作ってくれるはずがない。


 そこで、俺は彼女に直談判じかだんぱんすることにした。

 その日は、学校の授業が終わると、大急ぎで俺は家に帰った。末摘花に話をつけるためだ。

 午後4時半、まだ、彼女は俺の家にいた。

 彼女はメイド服を着て働いている。リビングルームでイヤフォンをつけて、じっとスマホをにらみながら、片手を器用に使って掃除機で床をきれいにしていた。

 俺は彼女へ声をかけた。

「ちょっと、末摘花。今、いいかな?話があるんだけど……」

 彼女はポニーテールの赤毛をふわりと揺らして、俺を見た。俺を見るなり、笑顔になった。実に、その顔がかわいい。

「ご主人様、お帰りなさいませ。お話と言うのは何でしょうか?」と彼女がかしこまって、礼をした。

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