どうして静かにしないのですか
韮崎旭
どうして静かにしないのですか
「ニッケルニオブコバルト鉄亜鉛タングステンスカンジウムイリジウムフェルミウム砒素硫黄アメリシウムセリウムポロニウムトリウムリチウム水素……」
「どうして静かにできないのですか」
体を前後にゆすっていた、女の先生だ、こんにちはと押し殺した声でいう同じく押しころした声でどうして静かにできないのですか先生は冬でも夏でも長袖で物静かで気が弱くコンクリートに埋め込まれて遺棄された。山道を上がる途中のわけがない祠に先生の名前がある、遺棄された。「どうして静かにできないのですか」
煮えたぎる膠に沈めてしまえばもう安心だ誰も口を利かないおとなしく温和な村人は死んだ目をしていた豚のようないや、屠畜上の廃棄物のような異臭が、どこからか流れてきそうなくそ暑い夏にセミの声もしないで葬式のように黙りこくった水面は鏡だった、「どうして静かにできないのですか」化学の先生は一人で帰らなかった首を吊った二人連れてきたそれで静かになった膠に沈めた女の先生だった、静かにしてほしいだけなのにひな鳥のようにわめきやがるもんだから石膏ボードをあるだけ殴りつけて黙らせた石膏が血まみれになったが口を利かない血など恐ろしくない恐ろしいものはうるさい生徒、児童だけだ、後者からは腐臭がした新築だという、腐臭がした下には飛行場があるうるさい。
セミの声がうるさい夏のことになる、セミの声は、機銃掃射のようにうるさく、山から下りてきた死人がみな引き返した、口をそろえて無言でいった、「どうして静かにできないのですか」、麦茶が覚めてしまうという叔母が膠に溺れて死んだ川に溺れて油膜が汚水張り巡らされた確かに汚泥になってしまう死んだ、叔母が油膜の飲み込まれた事故現場の静かな死の清澄の鳥居に叔母を総出でつるしたまるで首をさらすような叔母が死んだもとから都会の人はここが静かだというから来るがどうして静かにできないのですか、女の先生はいないのに静かにできない児童・生徒はみんな死ね。静かにしてください声を引き延ばして割った運動会でも完成の一つも上げないようにしているのに沈黙を学ばないから井戸に捨てた切り刻まぬそんな手間はないから、今日は「あらの煮込みよ」といったどうして静かにできないのですか煮込みといった煮込んだ静かになった静かなニオブモリブデンインジウム銀ラジウムキセノン緑色の工場で解体したのこぎりで引く間も黙らせた静かにしていた褒美にのこぎりで分断したどうして静かにできないのですか叔母は鳥居につるされたまま腐っている。
何も腐っていないじきに夏が来てさらってゆくカラスも無言の巣がない、ガラスのような空に移した濁った瞳の鉛は静かにできていたから誉めてあげた無言で背後から斧で割ったよく割れた血が噴き出した床にたまる血はうるさくないから怖くない村人総出で地域の祭りの出し物にした輪投げの景品のブロック肉によく売れた、景品は空になった二番人気の出し物でみなつるされた叔母を見に行く叔母は静かだからいい子にしてねいいこだね静かだからこの場所にいてもいいよと、はい、御覧、わけ隔てた市街地に静かにできない地図はいらないから静かにしてください文化包丁は本当に切れ味が最悪刺突した静かにしてください押し殺した声で言った女の先生は水の事故で亡くなった刺突した水に沈めた浮かんできた死体を村人総出で切り分けたいい的あての景品になった挽き肉だった切り分けて焼きそばの出店は葬式よりも静かに黙って読経した夜が明けた静かにした静かにしない人間は膠にした静かにした朝日が昇る村人総出でつるす木につるすまるで首をくくった木こりみたいと述べた人間はべんがら工場でくるまざきにされた珪素リン窒素遺伝の関係上無視されうる静かにできる人間の静けさがセミを殺す轢くピンでとめる踏みつぶすつぶす静かにしてください森から一切の音がない教科書を開く黙って音読していい子だねって褒められた桶の中でくびをねじ切られた赤子がいた腐る前に畑に埋めた今でも赤子の気が生えてくる切る切り捨てて切り分ける嫌いだうるさい赤子はうるさいなら嫌いだ選別されるろうあ者ではないとされる無視される選別される聖別された餅切り分けろ黙れ。
どうして静かにしないのですか 韮崎旭 @nakaimaizumi
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