第51話 センバツトーナメント決定
色々な変遷はあったが、現在センバツのトーナメントは一回で決勝までの全てが決まる。
観る側としてはワクワク度が低い気もするが、戦う側としては分析する相手が絞れて助かる。
キャプテンであるジン、そしてシーナと高峰がトーナメント抽選にホールへ行った間も、白富東のメンバーは調整練習を行う。
だが、浮き足だっている。
黙々とバットを振る大介や、黙々と投げ込みを行う直史はともかく、他はどこか上の空だ。
スマホを見れば普通に決まり次第情報は出るのだが、一応それは禁止されている。
「ストップ! 練習やめろ。集中力欠いてるから怪我しかねない」
直史は止めたが、自分は投げ込みを行い続ける。
他のメンバーもメニューは変えたが、トレーニングは続ける。
センバツは夏と違って、試合数も少なく気温も高くない。
ピッチャー有利と言われるこのセンバツ、体力任せに相手を圧倒するのではなく、調整に成功したところが勝つだろう。
ネットで中継されている映像が、いよいよ抽選にかかるとなって、全員が練習を止めてベンチに集まる。
予備抽選が終わってキャプテンか代表が引いていくわけだが、ジンは割と前の方だ。
『白富東高校、三日目、第二試合A』
相手の高校はまだ決まっていない。
「初日の第一試合じゃないのは良かったな」
「出来れば二日目が良かったんすか?」
「いや、夏とは違うし一回戦はあんまり関係ないよ」
「それに三日目なら応援がもっと集まるだろ」
「もう一つ後の試合だと、準々決勝が連戦だ。いいところだと思うぞ」
どんどんとトーナメントが埋まっていく。
「お、光陰向こうの山か」
「ありゃ、ヨコガクと二回戦でぶつかり合うのはラッキーだな」
「明倫館も向こうか」
当然であるが同じ千葉の三里は、白富東と当たらないように、向こうの山である。
「よし、桜島初戦はなしだ」
「あっこだけは予想がつかないからな」
「うっは! 初日一回戦から桜島と聖稜かよ」
「打撃戦かね。だけど桜島はどいつも打つからなあ」
「しっかし一回戦の相手決まらないな」
「瑞雲こっちか。まあ準決勝まで残れるかな?」
「最悪でも二回戦で桜島か聖稜と潰し合ってくれるから嬉しい」
三里の相手は決まった。津軽極星である。
昨年のベスト8であり、青森の最強チーム。センバツに弱いチームはほとんどないが、優勝候補とまでは言われていないので頑張ってほしい。
ただそこで勝っても、帝都一と立生館の勝者との戦いであるが。
「いいかげん決まれよな」
「あと三つしか空いてないじゃん」
「まあもう強豪とは当たらない」
「いや、一つ残ってる」
直史の指摘した、残りの三チームの中では一番の注目。
ピッチャーの消耗が少ないセンバツとは言え、それでも一回戦では当たりたくないであろう相手。
『弘道館高校、三日目、第二試合B』
九州最速右腕、江藤風太を擁するチームであった。
「江藤か」
「明倫館とほぼ同格ってか。ちょっと嫌だな」
「タイプは違うんじゃね? どっちがやりにくいかな」
「それに勝ったら二回戦は北海道の北陽と兵庫の高徳の勝者か。ホームアドバンテージで高徳かな?」
「北陽はともかく高徳の情報あんまないよな」
「確か打撃のチームだったと思うぞ。でもそれよりやっぱ応援が問題か」
「夏に比べるとまだマシだけどな」
そして全ての枠が埋まった。
「決まったな」
「この島えぐいな。桜島に瑞雲に聖稜、理聖舎、春日山、春日部光栄、名徳じゃん。一ついる21世紀枠が哀れ。春日山の連中はラッキーだな」
「神宮チームが三つもまとまって、加えて去年の優勝校か。それと21世紀枠が当たるって」
「準々決勝はどうだ? 福岡城山か東名大相模原? あ、でも早大付属もいるか。他に天凛って、弱いとこねえ」
準決勝にどこが出てくるかは分からないが、春日山なら夏の借りを返すチャンスだ。
決勝はもうさすがに分からない。大阪光陰に、去年秋の神奈川覇者横浜学一、注意していた明倫館、神宮に出た東北中央など、強豪が普通にいくらでもいる。
「去年のセンバツの方が、組み合わせ的には恵まれてたか?」
「いやいや、ナオがノーノーやったからって、仙台育成は強かっただろ。夏はベスト8まで残ってたし」
「よっし! じゃあ練習戻ろうか」
まだ多少足元はふわふわしているが、それでも気迫の篭もった練習が再開された。
戻ってきたジンの表情が暗い。
シーナと高峰の顔にも緊張の色がある。
そんなに変なクジ運ではなかったと思うのだが?
「おっかえり! なんかあったのか?」
「悪いとこじゃないだろ。なんか変なデータでも見つけたか?」
「お前ら、抽選見てたのか?」
「ちょっと浮ついてたからな。まあ確かに強いピッチャーいるけど、そこまでひどい場所じゃないだろ」
言葉をかけられるが、ジンの表情は暗いままだ。
しかしシーナと高峰の表情は、暗いとは言えず、どちらかというと困惑しているような。
「何があった?」
聞きにくいことでもずばっと聞いてしまう、直史が簡単に切り込む。
「選手宣誓当たったんだよ」
「……いい機会じゃないのか?」
「勝敗と関係のないことに頭使いたくないんだよ!」
センバツの選手宣誓は、色々な紆余曲折を経て、決め方は変わってきた。
夏は今、希望者による抽選となっている。だが春は、完全な抽選で選ばれることになっている。
まあ選手宣誓は確かに名前と顔は売れるだろうが、別にジンとしてはそんなところで目立つ必要はないのである。
「マジで吐きそう」
「夏に比べりゃまだいいだろ」
「夏は志願者抽選じゃん! 大介、お前代わってくれるか?」
「俺にさせたら、お前ら全員ぶっ倒して優勝するとかになるけど、それでいいのか?」
「いいわけねえ……」
ジンはプレッシャーに弱いわけではないが、極端に強いわけでもない。
プレイの中ではパフォーマンスを発揮するが、こういうことはまた別なのだ。
「勝利後のインタビューと似た感じで話せばいいんじゃないか?」
直史としては、喋るということはそれほど変わらないと思うのだが。
「じゃあお前が代わってくれるか?」
「別にいいぞ?」
「いや、やっぱいい! お前にさせるのもやばそう!」
確かに。
ジンは結局高峰と話し合いながら、瑞希の添削を受けて選手宣誓の文章を完成させることになる。
おかげで一回戦の対戦相手の研究には、充分な思考を割けなかったのである。
地元を出発前に決めていた、兵庫の強豪との練習試合。
相手は神戸国際臨海大学付属高校。地元では単に臨海と呼ばれることが多い、この10年で力をつけてきた私立である。
ある程度手の内の知れていた三里やウラシューと違って、データと映像でしか情報のないチームとの対戦である。
率いるはこれまでに多くの私立で実績を上げ、甲子園へと導いてきた名将北監督。
しかし北監督はあまりの戦力差に、ほとんど何も出来ないでいた。
二打巡目のアレクの、二打席連続ホームラン。
これで点差は6-0と広がる。
(なんちゅう破壊力や。ホームラン打てるバッター何人おるんや?)
白石大介はもちろん当然だが、この中村アレックスもとんでもない。
データでは高打率バッターと出るが、その気になればホームランも簡単に打てる。
一年の春から試合に出ているという条件もあるが、公式戦の記録だけでも20本近いホームランを打っている。
データを集めた限りでは、他に鬼塚と倉田が高い長打力を持ち、あとはピッチャーではあるが岩崎も何本かホームランを打っている。
佐藤兄弟は弟の方は何本か打っているが、兄は単打が多い。しかしその分、打席に立っている数は少ないのに打率と出塁率がいい。
下位打線はさすがにそこまでの破壊力はないが、球数を放らせて四球出塁というのが多い。
ピッチャーを交代させたが、一人運良く外野フライに抑えたものの、次が白石大介である。
一打席目は当たれば死ぬぐらいの打球が、ほぼライナーでセンターフェンスを直撃した。
あと30cm弾道が上であったら、ホームランになっていた。
二打席目、低めに外した球を、強引に引っ張る。外角なのになぜか、ファーストベースを直撃する。
ホームランでこそないが、この打球の速さは異常だ。
(あの体勢で掬い上げてレフトにホームランとかの方がまだ分かるわ。なんであの打球の速度が出るねん)
三回までで大量点差がついたため、そこから白富東は控え選手に代わっていく。
さすがに得点力は落ちたが、守備力が落ちない。
予選でも投げていない一年生ピッチャーが投げる。そこそこ打てはするのだが、守備が良くて得点には結びつかない。
(主力ピッチャー使わんくても、うちを抑えられるんか……)
もはや呆れるしかない。
12-1というスコアで、九回までをやって決着した。
「なんかもう君ら、全国優勝する以外にやることあらへんやろ」
魂を抜かれたような北の言葉に、ジンは苦笑するだけである。
「大阪光陰と比べてどうですか?」
大阪光陰。近畿大会の目の上の瘤であり、中国四国地方でも、圧倒的な強者として認識されている。
「控えは総合的にあっちの方が上やろうけど、守備力は互角ぐらいやな。それに今年は大阪光陰より、明倫館の方がきつかったわ」
明倫館。
去年の神宮でも当たったが、こちらでもそれほどの評価であるのか。
「秋の新チームになってから、神宮で負けた以外は引き分け二つであとは全勝や。まあ準決勝で大阪光陰と潰し合うみたいやから、君らはええけどな」
「高徳はどうですか?」
「まあ地元贔屓はあるやろうけど、そっちの守備を抜くほどやないやろ。ただピッチャーは意外と攻略に手こずるかもなあ」
「ナックルですか」
「そや。ええ日と悪い日がはっきりしてるから、悪い日はそんなにたいしたことあらへんのやけどな」
高徳のエース小室は、他の要素は平均的な強豪の速球派なのだが、いざという時にはナックルを投げてくる。
ただ日によってストライクが入るかどうかまちまちで、安定感がないのが弱点らしい。
なんだかんだ言って、対戦しそうな相手を見ていけば、厄介なピッチャーが多い。
初戦の江藤は150kmを投げる正統派右腕であるし、二回戦ではナックル使いと当たるかもしれない。
準々決勝にもし早大付属が上がってくれば、またあの近藤の重い球と対戦しなければいけないのだ。
準決勝はどこか分からないが、あの激戦区を勝ってくるなら、どこであろうと強いことは間違いない。もちろん決勝もだ。
センバツの優勝が予想しにくいのは、実質的な選考の大会である秋から時間が経過していて、伸びてくる選手がいるからだ。
あとは故障していたのが復活したり、逆に主力が寒さの中で故障したりもする。
ピッチャーの球速が伸びるのは、この季節をどう過ごしたかで決まるとも言われる。
故障からの復活と言うと、やはり瑞雲の坂本だろう。
去年、満足なピッチングが出来ない状態であったはずなのに、大介を封じてしまった。
ただ幸いなことに桜島や、厄介な上杉と樋口のいる春日山と同じブロックにいる。
おそらく四つに分かれた山の中では、一番勝ち残るのが難しい山だ。蠱毒の壺とも言える。
「そんであと甲子園までに、どこかと練習試合やるんか?」
「いえ、あんまり伝手がなくてと言うか、あるけど面倒がられて……」
ジンの父である鉄也なら、別にそれぐらいの伝手は合法の範囲でどうにかしてくれそうなのだが、なぜか今年は非協力的だった。
おかげで練習と紅白戦で、体を実戦向けにしていかなければいけない。
「え、そうなん? せやったら近場で紹介しよか? 地区ベスト8以上のチームなら、声かければいくらでも試合したがるやろし」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
さすが長年、私立で雇われ監督をしてきた男は違う。
「そんかわり夏前に関東遠征した時、また試合組んでくれるか?」
「もちろんです。今回初出場の三里とか、公立の強いところも集まりますよ」
ジンは高校野球の指導者を目指している。
その上で必要なものは、もちろん技術や指導力もだが、人脈である。
父の持つ伝手を利用するのに躊躇はないが、自分でもこうやって人脈は増やしていかないといけない。
大阪、兵庫、そして京都や広島まで、白富東と戦いたいために、強豪が予定を変更してまでやってくる。
そしてそれと、臨海も戦うわけだ。損がない。
白富東は充分すぎる試合勘を取り戻し、センバツに挑めそうである。
×××
(*´∀`*)「主にABCDにブロックを分けると、白富東はBブロックに入るよ」
(*´∀`*)「強そうなのは初戦の弘道館もだけど、準々決勝はどこも強そう」
(*´∀`*)「でもAブロックは本当に地獄っぽい。上杉と樋口はお疲れ」
(*´∀`*)「反対側のブロックなんてどうなるか分からないよ」
(*´∀`*)「それでもやっぱり大阪光陰が強いかな?」
(*´∀`*)「ゆっくりしていってね!」
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