第38話 二人目の魔剣遣い

 喧嘩を吹っかけてきた人を軽くあしらった後、僕はリーリスを探して街を歩いていた。契約による繋がりを通じて探してみると、どうやら正門を挟んで大通りとは反対側の方に歩いて行ったみたいだ。


「変な人に絡まれてないといいけど。いや、この場合心配するのはリーリスよりも相手の方かなぁ。…………ん?」


 言い争うような声が聞こえて、思わずそちらを見る。どうやら薄緑の髪の女性が眼鏡をかけた男性に責められているようだけど、険悪って感じじゃない。言い方は変だけど「いつも通りの喧嘩」といった感じだろうか。そんな二人から視線を外し、僕は再びリーリスを探しに行こうとした。


「おい」


 しかし、そんな僕の背に声がかかる。振り返ると、さっきまで向こうにいた二人が僕のすぐ後ろに立っている。あそこからはそこそこ距離があった気がするけど、という僕の疑問は、続く男の言葉で疑惑へと変わる。


「お前、だな? しかも人造プセヴディスじゃなくて神造アリティスの、だ」

「また追手か!?」

「……? どういう意味かは分からんが、お前の魔剣を見せてみろ。俺と戦え」

「断る!」


 そう言って僕は一目散に走りだす。奴の実力は未知数だが、この前戦ったようなレベルなら一度リーリスと合流しないと危ない!

 しかし男は僕を追いかけようとせず、隣にいた女性に手を伸ばす。そして男の手が女性の手を掴んだ次の瞬間、僕の背中に冷たいものが走る。

 男の両手には先程までなかった銃が現れ、女性の姿が溶けるように消えている。これはつまり。


「あれも魔剣、いや魔銃って呼んだ方がいいのかな……? 何はともあれ本当に早く合流しないとまずいな!」


 そんな僕の背中を目がけ、魔銃が弾を放つ。僕はそれをすんでのところで身をよじってかわすが、空中で弾道が変化して僕の方へと向かってくる。

 とっさに魔力を放出して弾道を逸らすが、その弾道の変化すらも修正して弾が僕に襲い来る。しかも後ろから追加で弾が来るのも感じられる。まごうことなく危険な状況だ。しかし、四方を弾丸に囲まれてなお、僕は笑う。

 そして、銀の光の軌跡を描く銃弾が僕の体を貫こうと飛んでくる直前、黒い光が銀の光を断つ。対象があまりの速さで動いていたためにブレていたピントが合うと、そこには剣を振り切った姿のリーリスがいた。


「苦労しているようだな、あるじ様」

「まあね。でもリーリスが来てくれたなら百人力だよ」

「当然だな。さて、相手は魔剣遣い、ついでに言うならわたしの姉妹の一人だな」

「あ、やっぱり?」

「アリシア。風を司る、月の三の魔剣だな」

「形状は銃だけど」

「細かいことは気にするな。というか、魔剣は剣の形にとらわれないという話はした気がするが」

「言われてみればそんな気もするな。ちょっとパニックになってたかも」

「ははは、ドラゴンを倒しても主様は主様か」


 そう言いながら、リーリスは飛んでくる弾丸を切り伏せる。そして、左手を僕の右手に絡めて笑ってみせた。


「さて主様よ。我々神造魔剣アリティス同士がぶつかることはそうそうあるものでもないが、珍しいものではない。気にすることなく全力で戦うぞ!」

「了解! どこまでできるか分かんないけど、できり限りやってみるよ!」

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