第二章 僕と新たな魔剣と、ダンジョンと

第37話 お約束みたいな冒険者

 ノートルを出た後さらにいくつかの街で冒険者としても活動した僕たちは、ラクティールという街に来ていた。周りが荒野だからかちょっと埃っぽいけど、空気はカラッとしていてすごく不快って程ではない。


「さて、まずはいつも通り冒険者組合に行くのか?」

「そうだね。今日は着いたばかりだしざっと見る感じで、本格的に活動するのは明日からでもいいかな」

「出発してから数時間と経っていないとはいえ、休める場所を見つけたいところだな、あるじ様?」

「ちゃんといい宿が取れるといいねぇ」


 そんな会話をしながら、僕たちは大通りを歩いて行く。門番の人に聞いたところ、この通りをまっすぐ行けば組合の建物は見つかるらしい。それにしても。


「いろんなものを売ってるね、リーリス」

「確かにな。ノートルは大きな商業都市ということもあってかなりいろんなものが売買されていたが、それとはまた違うものを売っていて興味深い」

「リーリスもこの辺りは初めてなんだっけ?」

「ああ。わたしが前回使われていた時はもっぱら戦場を駆けていたし、街に入れば要人として見られるから下手に出歩くというのも出来なかったしな。そういう意味ではこうやって自由に出歩いて見て回れるのは主様のおかげだな」

「どうせ僕はしがない一般人だよ。…………お、あれが組合かな」


 通りの終点には周りの建物より一回り大きな建物があり、入り口らしき所には大きな看板が下げられている。前半の文字が読めないけれど、後半は見慣れた『冒険者組合』だから前半は『ラクティール』かもしれない。

 そんなことを考えながら、リーリスと顔を見合わせた僕は組合の中に入った。


「おいニィちゃん、こんなところに妹連れで来るなんてパパとママはどうしたんだァ?」

「…………うん、こうなるよね。わかってた」


 入って早々、僕たちはいつもの如く先輩冒険者に絡まれていた。確かに僕の顔はリーリス曰く「覇気がなくてなよっとしてる」し、そのリーリスは見た目十代の女の子だ。このくらいの年齢から冒険者をやってる人もいるけれど、それはほとんどの場合が『仕方なく』であり、僕たちみたいに小綺麗にできているのは珍しいのだ。

 ……これも全部、ノートルを出て次の街で思いっきり絡まれてから学んだことだけどね。


「おいおい、先輩のことを無視するのは良くねーよな? 人の話はよく聞きなさいってママに教わらなかったのか?」

「あー、いやぁ、ハハハ……」

「笑ってんじゃねぇぞオォイ!」

(うーん、さすがに見飽きたな。妾向こうに行っててもいいか?)

(あー、うん。あんまり離れないでね)

(その程度なら、主様でも簡単に捻れるだろ)


 嘲るような言い方が通用しないと分かると次はドスの利いた声。初めてやられたときはすごくビビったけど、リーリスに「ドラゴンの咆哮よりはマシだろ」と言われてからはあんまり気にならなくなったなぁ、などと考えつつ僕は横目で周りを見る。あ、リーリスがドアから出てった。ほんとに心配してないのね。

 周りにいる冒険者たちは目の前の先輩さんを囃しているか、見ないふりをしているかのどっちか。受付の人はめんどくさそうな顔をしてるから、これが日常茶飯事なんだろうな。ついでに言えば僕も何度か経験しているので次の彼の行動も想像がつく。多分彼は……。


「なぁ、俺の話がつまんねーのは分かるけどよォ、だんまり決め込むのは良くないよなァ? 聞いてんのかよオイ!」


 うん、お約束というかなんというか。彼は右腕を振りかぶって僕の頭を狙ってきた。僕はその腕を取って、相手の力を利用するようにして彼を投げる。ふぅ、綺麗に決まってよかった。

 一息ついて再び周りを見渡せば、僕と視線を合わせないように目をそらしている人たちが何人かいる。いつものように新人をからかって遊ぼうと思ったら、想像よりも新人が強かったので気まずいってところだろう。まぁ、喧嘩を吹っかけてきたのは向こうだしね。

 ……こう考える辺り、僕もだいぶこの世界に染まってきたのかなぁ。

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