第36話 今回の顛末とその後日譚(第一章エピローグ)

 ドラゴンを倒した後、僕たちはレオンさんたちと共に街に戻った。ドラゴンの姿は街からも見えていたようで、門の内側には武装を整えた兵士とモーリシャスさんが待っていた。


「あ、モーリシャスさん、ちゃんと黒騎士は倒して来ましたよ」

「ああ、いや、今のドラゴンはいったい……」

「ええと……」


 何と言ったらいいのだろうか。倒したのは事実らしいけれど、倒した瞬間を覚えていないしどうして現れたのかもあまり分かってないんだけど……。そう思っていると、リーリスが小声で話しかけてきた。


(あれは召喚だな。恐らく魔剣の素材にドラゴンを使っていて、それを触媒として自分の肉体と魔力を代償にドラゴンを召喚したのだろうな)

(へえ。……あれ、リーリスも似たようなことできるの?)

(できんことはないが……まぁ、ドラゴンは無理しないとダメだな)


 無理したらできるのか……というのはさておき、ドラゴンが現れた理由は分かった。そのことをモーリシャスさんに伝えると、「……ひとまずは安心のようですね」と言って兵士たちを引き上げさせはじめた。


「ハヤト君、まずはご苦労様と言わせてもらおう。同時に、黒騎士の討伐、感謝する」

「いえ、他の皆さんの協力のおかげですよ」

「そうは言われてもな、君のおかげで俺たちは無事に帰ってこれたんだ。そこに関してはちゃんと礼をしないとな」


 モーリシャスさんと話しているところに、レオンさんがやってきて僕の肩を抱く。確かに結果だけを見れば、レオンさんたちを救うことができたのは僕の力なのかもしれない。けれど、そこに至るまでには彼らの協力がなければ辿り着けなかったかもしれないのだ。

 嬉しそうに僕の背中を叩くレオンさんの後ろには、僕たちを見て笑っている三人がいる。その光景が、きっと僕の守りたかったものだ。


(なるほど、なかなか悪くないワガママのようだな)

(でしょ? だからさ、これからも僕のためにその力を振るってくれないかな、リーリス?)

あるじ様のワガママ、確かにわたしが承った。主様は堂々として妾を振るうがいいさ)

(そうさせてもらうよ)


 こうして、僕の慌ただしい一日が終わっていくのだった。


◇ ◇ ◇


 それから数日間、僕らは羽を伸ばすようにして過ごしていた。冒険者として登録することも出来たため、いくつか依頼をこなして経験を積むことができ、充実した日々だった。

 さらにそれから数日後、ドラゴン討伐から十日ほどが過ぎた日に僕らは次の街に向けて出発することになった。


「さて、主様よ、準備はできたな?」

「うん、大丈夫。食料はそろえたし、装備も新調できた。一応昨日までに確認はしておいたから、問題はないはずだよ」

「ならば、そろそろ行くとしようか」

「ああ」

「次の街はどんなところだろうね。何か物珍しいものがあるといいけど」

「さて、主様が驚くようなものがあるといいな」


 そんな風に二人で話しながら門を目指していると、門の前に人影が見えた。近づいてみると、それはレオンさんたちだった。


「おはようございます、レオンさん。朝早いですけど、これから依頼ですか?」

「いや、君たち二人と似たようなものかな。俺たちもそれなりに経験を積んできていたけど、今回手も足も出なかったのは悔しくてね。みんなで話し合って修行の旅に出ようか、ってことになったのさ」

「へぇ! いいですね!」

「だろ? 俺たちの実力がどこまで伸ばせるか、そして俺の目標をちゃんと叶えるだけの実力を手に入れられるか、試してやろうってな」

「ま、リーダーには従ってこそのパーティメンバーだろうよ」


 そう言ってレオンさんの肩を叩くガロさんがすごく嬉しそうで、僕も見ていてすごく嬉しくなった。そしてどうせ街から出るのなら、ということで途中まで同行することにした。


「分かれ道、僕たちはこっちですね」

「俺たちはあっちだ。じゃあ、ここでお別れだな」

「ええ。……考えてみると、レオンさんにはすごくお世話になりましたね」

「よせよ、二度と会えないってわけでもないんだ。そういう空気で別れるのはつまらないだろ」

「そうですね、それじゃあ、お元気で!」

「ああ、そっちもな!」


 そう言ってレオンさんたちが歩き出す。僕はそれに手を振って見送り、自分が進む道の先を見る。


「さて、行こうかリーリス」

「ああ!」



 この世のどこかで、彼女は活動を始める。己が作った駒を見極めるために。




〈第一章 僕と黒騎士と、契約と 了〉


  次章、「僕と新たな魔剣と、ダンジョンと」

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