第33話 僕と黒騎士と、契約と(5)
グランツの手から剣が滑り落ちようとする寸前、彼の体が震えて剣を掴む。そのままのろのろと顔を上げ、
「まさかその体でまだ動けるとはな」
「カカ、気合いだよ気合い。まあでも俺はすぐに死ぬだろうな」
そう言いながらグランツはニヤリと笑い、突然糸が切れたかのように倒れてしまった。しかし次の瞬間、エビ反りのように体を跳ねさせて飛び起きた。
よく見れば足元はおぼつかずにゆらゆらと左右に体が揺れていて、どこか不自然な雰囲気を感じる。
「グランツの名において、オマエを解放する」
「っ、まずい!」
虚ろな瞳でグランツがそうつぶやいた直後、
(一体何が起きているんだ…………?)
(少々面倒なことになったかもしれないな。恐らく、魔剣に封じていた魔力を使って何らかの存在を召喚しようとしているらしい)
(それって止められないの?)
(無理やりにでも止めることはできるが、その場合行き場を失った魔力が爆発して、
(それは、ダメだね)
(だろう? となれば召喚だけは成立させて被召喚物を破壊できれば問題はない、ということだ)
そんな会話を続けるうちに魔法陣が組み上がり、グランツの死体を巻き込みながら光を放つ。その中からゆっくりと大きな影が浮かび上がる。次第に見上げるほどの大きさになっていく影に、僕たちはそこにいることが危険だと判断し、レオンさんたちを連れて離脱する。
(最初からこうやって移動させておけば、でもそれだと時間がないのかな)
(そうだな。魔法陣自体は魔剣に刻まれていたからあとは触媒と魔力で完成させるだけだ。そういうタイプの魔法陣は前準備が大変だが、一度発動すると直に書くときより完成までが早いんだ)
(勉強になるけど、あれ、どうするの?)
(んー、あれの力量にもよるが、そろそろ
(さすがに大きすぎると思うんだけど)
(自分より大きな敵の倒し方は教えて…………なかった気もするな。よし、実戦授業だな!)
(スパルタがいる)
軽口を叩きながら、僕たちは森を一度抜ける。このまま一度街まで帰ってレオンさんたちを置いてくるのが一番安全な策なんじゃないかと僕が考えたとき、それが光の中から姿を現した。
(ほう、やはりドラゴンか。とはいえまだ年若いようだが)
(おおー、あれがドラゴンかぁ……)
年若いとはいえ、僕の元いた世界でも最強の生物として扱われることの多かったドラゴンは、震えるような迫力を持っていた。赤い鱗を煌めかせ、筋肉質な足が大地を踏む振動がここまで伝わってくる。そしてギラギラとした両目でこちらを見据えている。ん?
(ねえリーリス、あいつ僕たちに気づいてる?)
(うむ、恐らくそういうふうに最初からインプットされているんだろうな。触媒が触媒だし)
まあどうせ戦闘は避けられないのだから今見つかるか後で見つかるかの違いだな、と話を締めくくったリーリスは、再び森の中へ――ドラゴンのいる方へ向かう。レオンさんたちはとりあえず森の入り口に置いてきたが、リーリスが防御魔法を何重にもかけていたから多分大丈夫だ。というか、今は大丈夫だと信じるほかない。
(さて、妾はバックアップに戻るぞ)
(へ?)
ドラゴンの目の前に着いた瞬間、リーリスの声が響いて僕の視界が切り替わる。光の眩しさに目をつむり、もう一度開けるとそこには。
『GYAAAAAAAOOOOOOOOOOOO‼』
「…………勝てるのかな?」
びりびりと響くほどの咆哮を上げるドラゴンの姿があった。
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