第31話 僕と黒騎士と、契約と(3)
*
ハヤトがグランツと剣を交えている中、リーリスは必死にとある計測をしていた。
(
しかしそれでいいのだ、と頭を回しながらリーリスは口の端を上げる。それだけこの調整が成功した時のリターンが大きくなると分かっているから。
(まったく、生きているうちも妾を振り回しておきながら、死んでからも妾達を振り回すとは難儀な主、いや、元主だな)
脳裏によぎるヒマワリのような笑顔を懐かしみながら、リーリスはさらに調整を続ける。
そして。
「待たせたな、主様!」
*
リーリスが呼び掛けた瞬間、僕は上段から振り下ろされる剣に横からぶつけるようにして剣を振るう。僕がこれまで剣同士をぶつけずに受け流すようにしていたために、その一撃は僕とグランツに等しく衝撃を与える。その衝撃を利用して、僕は一度距離を取ってリーリスの近くに戻る。
「主様よ、妾の扱い方がなってないな」
「あ、ごめん、もっと大事にした方がよかった?」
「そんなわけないだろ、もっと武器として扱えと言っているんだよ主様の腰抜け」
「修行中もそこまで言わなかったよね……?」
「当然。あの時はまだ妾の模造剣だったが今は妾本体だ。主様には妾を信じてもらいたいものだな」
「……なるほど」
要するに、もっと彼女のことを信じてあの剣と渡り合え、ってことらしい。それで、勝ち筋は、と聞こうとしたところでグランツが僕らの間を割るようにして剣を振るってくる。仕方なく僕らは二手に分かれるようにしてぐるりと円を描くように走る。
(主様よ)
(うん?)
(詠唱するためにもう少し時間を稼いでもらう。妾が今だ、と言ったタイミングで先程のように隙を作ってくれ)
(了解、今度はもっとリーリスの力ってのを信じて戦うよ)
(ああ、頼んだぞ)
その言葉を聞くと共に、僕は前に飛び出す。リーリスの詠唱がどれだけかかるのかは分からないけど、僕に時間を稼いでくれと再び頼んだんだ。さっきよりも長くなることはないだろう。たぶん。
(長くならないように努力しよう)
(いやほんとにね?)
僕はグランツの剣をかわして懐に飛び込みながら、剣の腹を当てるようにして彼の横腹を殴る。先程までとは違う衝撃に驚いた顔をしながら、グランツは唇をゆがめる。
「俺に攻撃を仕掛けようとする気概はできたようだが、俺を斬ろうとする意志は未だなし、か。それで俺に勝てると思うなよ」
「もとより簡単に勝てるとは思ってない。僕が頼まれたのは時間稼ぎなんだよ」
「ふん…………いや、その策に乗ってやろう。その方が面白そうだ」
その言葉に、僕は口をつぐむ。その言葉は僕にとってあまりにも異質で、理解しがたい。しかし今は僕の方に注力していることに感謝するべきなのだろう。
「行くぞォッ!」
「っ!」
シンプルな上段斬り。しかしその威力は先程までよりも高い。先までの剣も大地に刺さるほどであったが、今のは完全に割っている。どうやら、今までは手加減していたらしい。
「ハァッ!」
「くっ……」
上下左右から襲い掛かる
(まあそれでも一撃加えて隙を作ってもらう必要があるがな)
(…………そうだった)
(あと少しの辛抱だ。頼んだぞ)
「了解!」
あえて口に出して気合を入れながら、僕は再び前進する。僕を食らおうとする剣の前に身を投げつつ、ギリギリまで引き寄せる。
その刃が僕を裂こうとする直前に、スライディングするようにしてグランツの足元を狙う。直後、僕は腕に衝撃を受けて吹っ飛ばされた。
「っ、たぁ……。危なかった」
「いい判断、とは言えんがなかなかの反応だったぞ」
今起こったことは単純だ。グランツが僕を蹴っ飛ばした、それだけ。僕はとっさに剣を引き戻してガードしたが、そこそこ吹っ飛ばされたのであちこちが痛い。
よろめきながら立ち上がる僕の脳裏に、そのタイミングでリーリスの声が届く。
(待たせたな。大丈夫か?)
(なんとかって感じ。でも今なら…………あ、ちょっとヤバいかも)
地を蹴ってグランツが僕の前まで来るが、僕の腕の痺れはまだ取れない。そのことに気づいたグランツの口に獰猛な笑みが浮かび、その手の剣が僕に向かって振り下ろされる。
しかし、その笑みはすぐに
「《ローディング・メモリー》 対象物が持つ記憶を読み取り、別の対象にコピーすることができる妾のオリジナルだ」
僕の体で、リーリスが喋る。肩に構えた剣でグランツの剛剣を受け止めつつ、
「さぁ、第二ラウンドといこうか」
〈作者より〉
ちょっとリアルが忙しかったのと別の原稿に追われて更新できませんでした<( _ _ )>
来週からは再び毎週更新に戻る予定です。
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