第28話 レオンたちの戦い


 ハヤトたちが離れたのを確認したレオンたちはすぐさま黒騎士に対して攻撃を始めた。しかし。


「あー? 標的逃げちゃったじゃん。おいおいおい、手間増やさないでほしいんですけどー。まいっか、こいつらぶちのめせば追いかけられるってことジャン?」


 つーわけで、死ねや。

 その声が届くと同時に、黒騎士が持っていた剣から炎が噴き出し、レオンたちを吹き飛ばす。


「オラオラオラァ!」


 すぐにランの回復魔法によって戦えるようにはなるが、黒騎士はそれを上回る速度で攻撃してくるためにいつまでたっても状況を打開できずにいた。


「あ、まずあそこの女殺せばこいつら回復できなくなるな」

「クソっ、させるかよ! ガロ!」

「分かってる!」


 二人がかりで黒騎士に攻撃して足止めしている隙に、シエラがランを連れて移動する。レオンとガロはそれを確認すると深追いせずに距離を取る。それを何度も繰り返し、ギリギリのところで足止めを続けていた。


「あー、もうなんかいいや。面倒だ」

「っ!」


 黒騎士が剣を地面に突き立てた瞬間、炎が地面を嘗めまわし、火柱がそこかしこで立ち上る。火柱は不規則に揺れ動き、レオンたちを襲う。実体のない火を剣で斬ることはできず、ひたすらかわし続けるが前後を挟まれてしまい、レオンは火柱に飲み込まれた。


「ぐっ…………ぁ」

「かはっ…………」

「う、うぅ……」

「ぁぁ…………」


 見れば、仲間は三人とも火柱に飲み込まれた後だったのか、半死半生の状態で地面に倒れている。


「くそ…………っ、俺はこんなところで倒れている場合じゃないんだ……! ハヤト君が逃げ切るまでは…………!」

「自己犠牲の精神かぁ? そんなもん、どうせ無駄になるんだから大人しく諦めとけよ」

「う、おおおおおお!」

「おい、立ち上がるんじゃねぇよ。さっきのは温情で殺さなかっただけなんだぜ? お前ら殺すほど力使うのもったいねぇからその程度で済んでんだぞ?」

「じゃあ、その判断を後悔させてやる……!」

「安心しろ、絶賛後悔中だ。てめえをさっさと殺してればこんなムカつく気持ちも無駄な力も使わずに済んだって思うんだからなァ!」


 剛剣一閃。たった一度の踏み込みでレオンの目の前にやってきた黒騎士は、炎をまとった剣でレオンを強襲する。間一髪剣を挟むことができたレオンだったが、剣はあっさりと折られ、胸もとに強い衝撃が走る。肺の中の空気が吐き出され、後ろにぶっ飛ぶ。木に当たったことで飛距離はそこまでなかったが、前からも後ろからも衝撃を受けるというダメージは計り知れず、レオンはその場に崩れ落ちた。


(ああ、ここまでか…………。ハヤト君は無事に逃げおおせただろうか。ガロ達には悪いことをしたな、俺が無理を言ってここまで連れてきた。あいつらにもいろいろ夢があったのにな……)

「悪いがお前だけは、首も落としとかねぇと気が済まねぇ。これは俺なりの敬意の表し方だ」

「ハ、そいつは光栄だ、な……」

「まだ喋れる時点でおかしいぜ。じゃあな」


 黒騎士が剣を振り上げたところで、レオンは目を閉じる。そしてこれまでの人生を振り返ろうとしたときだった。


「わあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ふむ、ギリギリセーフというやつだな。さて、黒騎士、ここからはわたし達が相手だ!」


 悲鳴と共に誰かが突っ込んできた。目を開けると、黒騎士の向こうに二人組が立っている。


「なん、で」

「レオン、だったか。あるじ様に感謝するんだな。今から妾達がこの黒騎士をぶっ飛ばすから目に焼き付けるがいい!」

「ごめんなさい、レオンさん。でも、僕も誰かを守れるような、そんな冒険者になりたいって思ったんです。だから、僕たちに任せて、休んでいてください」

「は、はは……」


 そんな二人の自分勝手な姿に安心感を覚えたレオンは、ゆっくりと意識を失うのであった。

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