第27話 決断

「ちょっ、止まって、止まってよリーリス!」

「もう少し我慢していてくれ、あるじ様」

「でも、レオンさんたちが……!」

わたしにとっては主様の方が大切だからな。逃げろと言われたらすぐに逃げるさ」

「…………レオンさん、勝てると思う?」

「まあそこそこできるだろうが、勝てはしないだろうな」


 それは、と口を開こうとしたとき、後方で大きな爆発音が聞こえた。その音にリーリスが足を止めたタイミングで、身をよじって肩から降りる。立ち上がって振り返ると、僕たちが来た方向から煙が立っているのが見えた。


「いったい何が!?」

「まあ、恐らくはあの黒騎士の技だろうな。妾達を襲った時に燃える剣を使っていたからな」

「…………!」


 思わず体がブルリと震えた。僕たちを襲った時のあの一撃が振るわれたのだとしたら、かなり被害が大きそうだ。でも、今の僕があの場に戻っても何もできないというのは先程も痛感したばかりだ。


「ほら、主様よ、呆けてないで逃げるぞ。あの一撃ともなれば運良く死んでおらずとも足止めなどはできんだろうからな。黒騎士に追いつかれる前に遠くまで移動するぞ」

「あ、うわ、っとと」


 再び担ぎ直された僕は、そっと唇をかむ。こんな時、僕にもっと力があればと思う。物語のヒーローなら、こんな状況になっても諦めずに敵に立ち向かっていくのかもしれない。けれど、今の僕がヒーローよろしく立ち向かったところで黒騎士に一蹴されるのは目に見えている。


「……誰かを守れるぐらい、強くなりたいよ、リーリス」

「…………ん? なにか言ったか?」

「え、ああ、うん、僕にもっと力があればこうやって逃げなくて済んだのかな、ってさ。僕に力があればレオンさんたちも救えるのかな、みたいな」


 僕が苦笑いをしながらそうこぼすと、不意に彼女は足を止めた。そして地面に僕を下ろすと今までにないほど真剣な表情で僕のことを見つめてきた。


「主様よ、力が欲しいと言ったな」

「う、うん」

「誰かを守りたいという願いを、これからも持ち続ける覚悟はあるか?」

「え?」

「主様にとって、『誰かを守れるだけの力が欲しい』というのは願いだろう? 実に身勝手な願いだとも言える」

「なんか僕、けなされてる?」

「まさか。以前にも言っただろう、妾達魔剣を扱うために必要なことの一つに強い願いを持っている必要があると。そしてその願いが、自分本位であればあるほど魔剣の力を引き出すことができるとされている」

「それって……」


 ここまでくれば、いくら察しが悪くたってリーリスが言わんとすることを理解することができる。つまり彼女はこう言いたいのだ。


「妾と契約すれば、すぐにでも力を与えてやれるぞ。もともと妾は使われてこそ真価を発揮する存在。今の状態なら勝てぬ相手でも、契約してくれるのであれば主様に勝利をプレゼントしてみせよう」


 そう言って、リーリスは僕に向かって手を差し伸べる。その手を見つめて、僕は生唾を飲み込む。前回同じことを言われたときは僕の中には無力感も焦燥感もなかった。でも今は状況がまったく違う。ここで長々と迷ってしまえば、その分だけレオンさんたちが危なくなるだろう。


「リーリス、お願い。僕に力を貸してほしい」

「断る」

「即答!?」

「主様よ、もっと自分本位であれ。ほら、もう一度」

「…………リーリス、僕のためにその力を使わせて、いや、使ってくれ」

「まあ及第点といったところかな」


 僕が差し出した手を、リーリスが引き寄せて彼女の手と絡める。そして僕らは目を見合わせて笑いあう。そんな状況じゃないのは分かっているけど、この瞬間、ようやく僕らはちゃんと向き合えた気がした。


「さて、それでは戻るとするか。ほれ、主様を運ぶとしよう」

「よろしく」

「ではまあ、行きながら契約方法について説明するから聞き流すなよー」

「ちょ、はやっ、肩に担ぎながらそんなスピード出さないでぇ!」

「ではお姫様抱っこがいいか?」

「……………………お姫様抱っこで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る