第26話 逃走

 レオンさんたちは僕を中心にして四方を囲むようにして森の奥へと進んでいった。その間、僕はレオンさんに先日は聞けなかった冒険者としての話を聞いていた。


「レオンさんはどうして冒険者になろうと思ったんですか?」

「実は俺の父さんも冒険者をしていてな。子どものころから武勇伝を聞かされて育ったんだ」

「結構誇張してた部分もあったけどな」

「まあね。でも仲間と一緒に誰かを守るために魔物と戦うっていうことに俺は憧れたんだ。だからこの依頼も結構気合入ってるんだぜ」

「昨日の夜とかいつも以上に武器の手入れをしていたからな」


 そんなことを話しながら少し開けたところに来たときに、僕は唐突に寒気を感じて後ろに飛びずさった。そして僕が後ろに着地する前に、僕が立っていた場所に大剣が突き立てられた。


「!」

「どこからだ!?」


 そして僕とレオンさんは同時に跳ね上げられたように顔を上げる。そこには黒騎士が大の字になって襲い掛かってくる姿があった。


「上だ!」


 レオンさんが叫ぶと同時にパーティの四人が飛びのき、僕はリーリスと共にレオンさんの後ろに回る。

 黒騎士は両足でズン、と地に立つと悠々と大剣を引き抜いた。そして剣を肩に担ぎ、僕たちをぐるりと見回した。


「ふむ、邪魔が増えたな。まあ構わんが」

「俺たちがいたとしても関係ないってか。少しムカつくぜ」



 黒騎士の言葉に口をゆがめたレオンさんは、ゆっくりと剣を構える。他の三人もすでに臨戦態勢に入っている。


「ハアッ!」


 気合一声、レオンさんが黒騎士に向かって剣を振るい、それに合わせるようにしてガロさんが槍を突き出す。シエラさんとランさんはいつでも魔法を放てるように準備している。

 しかし。


「邪魔だと言っただろう」


 一閃。しかも剣の腹で薙ぐようにしての一撃で直接攻撃しようとしていた二人はもちろん、後ろに構えていた二人も風圧で吹き飛ばされる。僕はリーリスとに守られて倒れずに済んだが、それでも圧倒的な膂力りょりょくに足が震えた。


「なるほど、大口を叩くだけはあって相当な力の持ち主だな」

「剣を振ったら人間が吹っ飛ぶって相当で済ませていい力じゃない気がするよ……」

「ははは、あるじ様もやろうと思えばできんことはないぞ?」

「ははは、冗談が上手だなぁリーリスは。僕あれに勝てる気がしないよ」

「そうだなぁ、今の主様ならよくて三合斬りあえるぐらいか」

「三合斬りあったらどうなるの?」

「首が落ちるか内臓がこぼれるか歩けなくなるかだな」

「わぁい」

「ずいぶんと呑気に話しているのだな」


 あまりの光景に現実逃避していた僕を連れ戻したのは皮肉にも黒騎士の一言だった。その黒騎士は僕の方へと一歩一歩と歩みを進めてくる。


「リーリスなら勝てる?」

「万全の状態なら勝てるが、今はそうではない。負けはしないだろうが勝てるほどの一撃を与えられない、といったところだな」

「ど、どうするのさ」

「どうもこうもせんよ。わたし達は守られる存在だからな」

「?」


 リーリスがニヤッと笑った瞬間、いつの間にか黒騎士の後ろに忍び寄っていたレオンさんが足に向けて斬撃を繰り出す。その攻撃に黒騎士は慌てたように剣を振り下ろすことで対応するが、レオンさんが懐に入り込んでいるため思ったように当てられず、黒騎士は彼の一撃をノーガードで受けてよろめいた。

 その隙を逃さないようにレオンさんは追撃を与えていく。気づけばガロさんたちも戦線に復帰して黒騎士を攻撃している。


「ウザってえんだよォ!!」


 だがその優勢も長くは続かず、先程のような怪力でレオンさんたちが吹き飛ばされる。彼らはそれを転がって受け流し、ランさんの回復で傷を癒す。しかしどう考えてもそれはジリ貧だ。

 その時、目線は黒騎士に向けたままレオンさんが僕に向かって叫んだ。


「ハヤト君、君は逃げろ! 俺たちがここで足止めする!」

「え? うわっ!」


 彼の発言を理解すると同時に、僕はリーリスによって担ぎ上げられてその場から離脱した。いや、させられてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る