第22話 状況確認
花開くような笑顔を僕に見せたリーリスだったが、何かに気が付いたような顔をすると、「誰か来るな。
するとすぐにベッドを覆っていたカーテンが開かれ、女性が顔をのぞかせた。
「あ、目を覚まされましたか。お加減はいかがですか?」
「あ、はい、大丈夫です」
「それはよかったです。でも一週間ほど昏睡状態だったので、まだ安静にしていてくださいね」
「わかりました」
おそらく看護師であると思われる女性は、そう言ってにっこり笑うと再びカーテンを閉めて出ていった。
一週間か、道理でなんとなく体が重たい気がしたわけだよ。僕はそんな重たい体をベッドにうずめながら、看護師と入れ替わりで現れたリーリスに質問する。
「リーリス、僕が寝てる間に何かあった?」
「いや、特にはないな。とはいえ、こんな状態の
「そっか、ありがとう」
特に指定はしていなかったが、ちゃんとリーリスは僕の意図をくみ取ってくれたらしい。
「それにしてもあの黒い騎士、どうして僕たちを襲ってきたんだろうね」
「最初から狙いは妾達であったようだしな。まあその辺りのことを今考えても仕方あるまい」
「そうだね。……ふぁ、じゃあ僕はもうちょっと寝るとするよ」
「ああ。しっかり休むのだぞ」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
僕の意識はまどろみながら、一週間前へとながれていった。
一週間前のさらに二週間前、つまり三週間前に僕たちはユリウスさんたちに見送られて村を出発した。その後は数日かけて歩いて一つ目の村に、さらに数日かけて歩いて二つ目の村に、といった感じで旅を進めていた。そしてこの商業都市ノートルの一つ前の村からは馬車が出ているということで、最後ぐらいは歩かなくてもいいだろう、というリーリスからの許可を得てから僕は意気揚々と乗り込んだ。
そのまま馬車で揺られること数時間ほど、この森を抜ければノートルですよと御者が僕たちに呼び掛けたところでその黒い騎士は現れた。
騎士は何も言わずに剣を抜くと一閃のもとに御者を斬り殺し、返す一閃で僕たちの乗っていた車両を斬り裂いた。咄嗟にリーリスが僕を引っ張ってくれたから上半身と下半身がさようなら、なんていう事態にはならなかったけど、一緒に乗っていた男の人の腕が目の前で飛んだのはちょっと…………ぅぇ。兎にも角にも、騎士はそのまま魔法で馬車の残骸を燃やし、僕に襲い掛かってきたところにリーリスが割って入って何合か剣を重ねた。しかし騎士の方が一枚上手だったようでリーリスとの勝負の間隙を縫って僕に一太刀浴びせたのだった。あの時は血がだらだら流れて「ああこれが死ぬってことなのかなぁ」なんて思ったり。…………あれ?
うまく回っていない頭で体をペタペタと触る。特にどこかに包帯を巻いているというわけでもなし。ああいや、治癒魔法とかで治されたのかもしれない。ファンタジーだしありうるな。
それから多分リーリスに連れられて街に入り、病院に担ぎ込まれたってところだろう。あとで改めてお礼を言っておかないとな。
*
主様が寝ている。先程少し目を覚ましていたようだが、一週間も寝ていた上に自分で傷を治したのだ、疲れていたとしても無理もない。おや、主様が何かつぶやいている、寝言だろうか。やはり主様はかわいいな。
そんなことを考えながら、つい、と窓の外に意識を向ける。そのまま意識を拡張するようにして街の外まで意識の範囲を広げる。
「うぅん…………」
やはり、いる。妾達を襲ったところからさほど離れていない茂みの中で堂々と仁王立ちをしている。
フッと息を吐いて妾は意識の拡張を解除する。どうやら奴はまだ妾達を狙っているらしい。
「厄介な相手に目を付けられてしまったか。さて、どうやって切り抜けようか…………。主様が妾と契約してくれればあんな奴など目ではないのだが…………」
さてどうしたものか、と考えながら主様の安らかな寝顔を見る。いや、今はあんな奴どうでもいいか。
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