第19話 契約の説明(後編)
僕に強い想いがなければそもそも契約すらできない、と伝えたリーリスは続けて具体的な契約の方法を教えてくれた。
「契約の手順は大まかに二つ、詠唱と生体情報の取得だ」
「詠唱は魔法を使うときにもしているけれど、生体情報の取得って?」
「魔剣は
「それだけ聞くと契約そのものの難易度はそれほど高くないように思えるんだけど?」
そんな僕の疑問に、彼女はもっともだ、といった風に頷いて先を続けた。
「そのことについて否定はできないな。詠唱と血液の提供があれば理論上は誰でも魔剣の保有者になりうる」
「つまり、それだけではない何かがあるんだね」
「異世界から来たわりには飲み込みが早いな。いや、異世界から来たからこそ飲み込みが早いのか……。いや、今はそういう話をする場ではなかったな。主様の睨んだ通り、ここまでにはいくつかの関門がある」
そう言って彼女は三本の指を立てた。つまりはその関門が三つある、ということだろう。僕がそのことに気が付いたことをリーリスは理解したようで、すぐに人差し指を立てて説明を続ける。
「一つ目の関門は詠唱を知ることだな。魔剣ごとに割り振られる詠唱は句がそれぞれ微妙に異なるうえ、リズムや音程にも違いがある。そして何より――」
「ちょ、ちょっと待って、詠唱ってリズムとか音程とかまであるの?」
「当然だろう、今の詠唱は文句を知っていれば誰でも唱えられるように調整されたものだが、
そう言いながら肩をすくめるリーリスは「そして何より」と先程の言葉を再び口にした。
「詠唱を知っているのは妾達自身か妾達を作った母様しか知らないだろうな」
「つまり、契約するには契約相手の魔剣から聞き出すか、作成者から聞き出すかの二択しかない、と」
「そうなるな。もっとも無理やり聞き出そうとすることも不可能ではないがな。さて、続いての関門は魔力量の問題だな」
「契約には大量の魔力が必要になる、ってことかな?」
「ああ。ま、主様においては心配せずとも十分な魔力量がある、というか契約を十数回繰り返してもまだ余る程だ」
どうやら気が付かないうちに魔力量はだいぶ増えているようだ。無理やりにでも気絶させられていた甲斐があったというものである。そんな風に感動していると、リーリスは最後の指をぴんと立てていた。
「最後の関門は血液を妾達にどうやって摂取させるかだ」
「口から摂取させる、とかそういう話ではなく、だよね」
「ほう、主様は自分の血液を妾に舐めさせたい、と。これは覚えておかねばなぁ?」
「…………」
「冗談はさておき、妾達とて意志を持っている。詠唱を聞き出すことが出来ようが契約に必要な魔力を持っていようが、妾達がその者を主として認められないならば契約する義理はこちらにはないのだからな」
「じゃあ僕は今のところリーリスにとって主として認めてもいい存在、ってことだよね?」
「まあそうだな。まだまだ未熟ではあると思っているが」
そう言うと照れたようにリーリスは顔を赤くして背ける。そういうふうに思われているのだとわかるのは、なんというか気恥ずかしい。しかしそれだけ僕に期待していると言ってもいいのではないだろうか。
「主様がものすっごくニヤニヤしている……」
「いや、やっぱりそう思ってもらえるのって嬉しいな、ってさ」
「ならば期待に応えてもらうためにもこの後の鍛錬を少し厳しくしてみようかね」
「…………それはまた違う話ではないですかね」
その後本当にみっちりと剣と魔法について訓練させられた僕に、リーリスはこっそりと彼女との契約の詠唱を教えてくれた。いつか僕がそれを口にするのか、それはまだ分からないけれど、ゆったりとしたメロディで紡がれたそれは確かに僕の心を揺らし、僕は穏やかな気持ちで眠りについた。そして。
「そろそろここでの鍛錬も終わりだな」
「長かった……本当に長かった…………」
体感として一年以上にもなる鍛錬が終わりを迎えるのだった。
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