第18話 契約の説明(前編)
それから、リーリスに魔力を搾られつつ剣の修業をする日々が続いた。リーリスは自らの剣を模したものを僕のために魔法で作り、彼女との打ち合いの形で修業をしていた。
「リーリス、僕が強くなっているのは何となくわかるんだけど、実際どのくらいまで鍛えたら『強くなった』って言えるのかな?」
「
打ち合いで汗だくになって大の字で横になっている僕が漏らした疑問に、リーリスは苦笑しつつ答える。彼女は指揮者のように指を振りながら、何かを思い出すように目を閉じて僕に語りかける。
「そうだな、例えば
「…………」
「以前主様には死なせないと言ったが、妾が近くにいなければそれもできない。まあ、なんだ、彼女が死んだのは暗殺だったからな。いろいろとあったんだ」
「そっか」
「まあ、それはもう過ぎたことだ。妾の今の主人は貴方だからな、主様を守るために動くさ」
リーリスは、まあそれも主様が妾と契約すればの話だがな、と話を締めくくった。
契約。何度も聞かされた言葉だが、詳しくはどのようなものなのかまだ聞かされていない。しかし、聞こうにもどう聞けばいいのか分からない。その日はそのまま、特に聞くこともなく終わってしまった。
「ねぇ、リーリス」
「どうかしたのか、主様」
「契約について、なんだけど」
翌日、契約について聞こうとすると、リーリスは目を輝かせて僕の手を掴み、上下に思い切り振ってきた。
「主様! ついに妾と契約してくれる気になったのか!」
「い、いや、契約って言葉だけは聞いているけれど、実際のところどういうものなのか聞いたことがなかったからさ。ここらで聞いておくべきかな、と」
「ああ、そうだな。契約について、か」
「どういう方法でやるのか、とかどういう効果があるのか、とか聞いてみたいなって」
「いずれは話さなければいけないことではあったからな。ちょうどいい機会だろう」
契約の内容を聞きたい、と聞かされたリーリスは頬を赤くしながら僕の手を放してそう言うと、少し考えるそぶりを見せた。
「そうだな、まずは魔剣についてもう一度整理しよう。主様よ、魔剣というものがどういうものだったかはすでに説明したな?」
「うん、創世神である三柱の神様がそれぞれの権能を込めて作り上げたヒトの形をとる武器、であってるかな」
「一般的な知識としては合格だな。だが魔剣の主となるためにはもっと踏み込んでもらわなければならない。例えば、妾達がどうしてヒトの姿をとるのか、といったことだな」
「む…………」
確かに言われてみればそうだ。彼女たちが武器であるのならば、ヒトの姿をとる必要はない。魔剣を扱うことができる存在ぐらい、神様なら作れないこともないだろう。
「なんだろう、人間の側にいられるように、とかかな」
「意外と主様は夢見がちなところもあるのだな」
「夢見がちで悪かったね」
「人間に近づくという点では間違っていないのだけどな。妾達は人のエゴによって動く存在だ」
「えっと、どういうこと?」
「分かりやすく言うと、魔剣を動かす魔力は使用者の意志の強さに左右される」
「意志の強さ……」
「願い、希望、欲望、思い込み。言葉は何でもいいが、その人にとっての確立された芯があることが魔剣にとって重要であり、それを受け止めうる形として妾達は生み出されたのさ」
「その話を聞いて余計に分からなくなった気がするんだけど」
僕が苦い顔をして言ったその言葉に、リーリスは苦笑いで返す。そして彼女は僕の顔をしっかりと見据えてこう言った。
「主様よ、妾は貴方と契約を結びたいと思っている。……しかし、主様に何を賭してでも叶えたいという願いがなければどれだけ妾が主様を助けようと思っても力になることはできない。それだけは心に留めておいてほしい」
「…………わかった」
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