第20話 鍛錬の終わりと旅立ち

 最初に出会った狼たちとは、初めて魔法を目の前で見せつけられたあの日からそれほど日を置くことなく再戦し、危なげなく勝つことができていた。…………殺すことにはかなりためらったけれど。

 その後、熊や馬などの獣だけでなくゴブリンやオークといった魔物と呼ばれている存在とも戦った。流石に人型ということで戦いにくさもあったが、それもひっくるめての鍛錬だったのだろう。

 そしてついに今日! リーリスが鍛錬の終わりを宣言したのだ! いやっほう!


「そんなにもここでの鍛錬が辛かったのか、あるじ様よ」

「来る日も来る日も剣を振り魔法を振るい気絶した日は数知れず、筋肉痛も吐き気も目眩も友達どころか親友になれそうなほど付き合ってきたからね!」

「…………主様が変な方向に元気になってしまったな」


 リーリスが小声で「ちょっとやりすぎたかなぁ」とか「いやでもこんな主様もイイ」とか何とか言ってるけどここでの鍛錬が終わることに比べれば些細なことだよね!


「ところで主様よ、ここから出たとしてもそれで鍛錬がおしまいというわけではないぞ?」

「え? ああ、さすがに鍛錬に終わりがないことは分かっているよ。でもここみたいになんでもありな上に寝てるときにも襲ってくるような場所で鍛錬することはないでしょ?」

「…………ここに異界作成の魔道具が」


 僕は全力で逃げた。


「…………それほどまでにここでの鍛錬が厳しかったか」

「もう少し段階を踏んで鍛錬したかったです、はい」

「段階は踏んだだろう? わたしの力添えありで魔獣を撃破できるようになったから次は一人で。慣れてきたら今度は状況に縛りを設けて。それにも慣れてきたら後はもうひたすら戦うのみだろう?」

「慣れてない! いつも吐きそうになってたじゃないか!」

「生きて帰れたらそれはもう慣れているんだよ」


 全力で逃げようとした僕はすぐにリーリスに捕まり、現在ベッドの隅で膝を抱えて座っている。そして今こうやって愚痴っていたというわけだ。


「まあなんだ、主様よ」

「どうしたの?」

「多少は楽しんでもらえたか?」

「そうだね……うん、全く楽しくなかったわけじゃないよ」

「それはよかった。さて、忘れ物はないだろうが一応確認してから戻るとするか」

「了解」


「…………なんかすごい久しぶりな気がするね」

「こちらでは数日ほどしか経っていないはずだがな」

「おや、お二人とも戻られたのですね」

「やあ、ユリウス。何も変わりはないか?」

「そうですね、特にこれといった問題はありませんね」

「そうか。……そうだ、冒険者登録ができる近くの街と言うとどこになるか教えてもらっても構わないか?」

「ああ、冒険者として登録すれば身分証明書にもなりますからね。この村からであれば、三つほど村を越えた先にあるノートルという商業都市が一番近かったかと」

「そこまでの道を教えてもらっても構わないか?」

「もちろんです。旅道具などもこちらで揃えましょうか?」

「いや、そちらは大丈夫だ……と思う」


 僕を置いてけぼりにして旅の話が進んでいく。どうやらこれからノートルという街に行って冒険者、とやらになるらしい。自分の知識とこの世界にあるものが同一ならばギルドのようなところに行くのだろうか。そんなことを考えているうちに、ユリウスさんとの会話が終わったらしくリーリスがこちらを向く。


「さて、これからの予定も決まったところで改めてこれからの話でもしようか」

「これからの話」

「ああ、結局主様とはまだ契約できていないからな。主様に妾を振るうに足る願いを見つけてもらわなければ」

「そうは言っても強い願いでなければ契約できないんだったよね。それがよく掴めていないからなぁ」

「それも含めて冒険者になってもらうということさ。命の危険にさらされれば心の底からの願いというのも出てくるだろうさ」

「…………」


 どうやら僕はこれから命の危険にさらされるような冒険者にさせられるらしい。なんだか泣けてきた。


「とりあえず一旦家に戻ろう。そこで荷物をまとめて数日中にはノートルに向けて出発だな」

「…………」

「ちゃんと死ぬ前に助けてやるから心配しなくていいのだぞ?」

「そもそも死にそうな目に遭わない方向でお願いしたいですね……」

「それはできない相談だな。妾は主様ならできると信じているぞ」


 そう言ってにっこり笑ったリーリスの顔は悔しいほどに可愛らしくって、思わず「そんなに言われたら出来るんじゃないか」って思ってしまった。悔しい。

 そしてその翌々日、僕たちはユリウスさんとナムルさんに見送られて村の近くの街道を歩いている。


「さて、とりあえず食料はユリウスの方で多少は手配してくれているが、もって二つ目の村までだろうな」

「途中の村で買い足しするってこと?」

「路銀がそれほど潤沢にあるわけではないからな。野菜は仕方ないとしても肉は狩りで入手したいところだな」

「また狩りか……捌くのには慣れてしまったなぁ……」

「自給自足ができる生活はよいものだぞ」

「そりゃあそうなんだけれどもさ」

「まあ無理せず行こうではないか」


 「なぁ、主様?」と呼び掛けてくるリーリスの背を追いながら、僕は歩いていく。魔剣のこと、冒険者について、自分のこと……。様々な悩みは尽きないけれど、とりあえず行けるところまで努力してみよう。

 僕はそんな気持ちを込めて、次の一歩を踏み出した。






《作者より》

初めまして、将月はたづき真琴まことです。まずはここまで読んでくださり、ありがとうございます。

「僕と魔剣と、神様と」はまだまだ続ける予定ですが、ここを一区切りとしてお礼を言わせていただきます。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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