第16話 魔力を搾る!
「え、リーリスがなにか魔法を使って僕から魔力を奪うとかそういうあれじゃなかったんですか?」
「え、
「言い方!」
くすくすと笑うリーリスは、そのまま続ける。
「他者から魔力を奪う魔法もあるにはあるけれど、それだと奪われている相手の魔力がどのくらい残っているのかが分からないのさ。だからそこら辺の安全も加味して剣を使ってもらうというのが一つ」
そう言いながら彼女は人差し指を立てる。そして今度は中指も立てる。
「もう一つは予行練習だな。いずれ主様には妾を握って戦ってもらわなければならなくなる」
「!」
「そのとき、妾を通して魔法を発動するようなこともあるだろうからな。魔力を吸われる、与える、受け取るといった感覚にも慣れていてもらいたいのだ」
「う、うん」
正直、まだ彼女が言う『戦ってもらうとき』が本当に来るのか分からない。さっきの戦闘だって、僕はただ後ろで震えていただけ。できるようになる気がしない。
すると、そんな僕の不安を感じ取ったのかリーリスが剣を握る僕の手を、上から包み込んでくれた。
「なにも今すぐに妾と共に戦ってほしいと言っているわけではない。まああの狼たちとはすぐに戦ってもらうことになるが…………」
「うっ」
「だが、今はそんな心配をするな。妾が付いている」
「…………うん」
まだ、僕の中には戦おうという意志も、戦うための覚悟も、ない。けれどもリーリスは僕のことをちゃんと見てくれている。少なくとも、側にはいてくれている。誰一人として知り合いのいない、言葉も通じない異世界で初めて僕を助けて、支えてくれた相手に対する恩返しぐらいなら、できるようになりたいな。そう、感じた。
「うん、少しは気分が落ち着いたようだな」
「ありがとう、リーリス。それと、これからもよろしく」
「水臭いぞ主様。妾と主様は一蓮托生、主様が老衰で死ぬまでは隣にいるさ」
「死ぬのは老衰で確定なんだ」
「当たり前だろう、妾がいる限り主様が他の要因によって死ぬことなどありえんぞ」
そう言って僕たちは顔を見合わせて笑う。そして僕は大きく息を吸って、吐く。そして剣をまっすぐに構える。まだ不安定だけれど、少なくとも初めて持ったときよりはマシだ。それを見て、リーリスが数歩後ろに下がる。
「準備はいいな?」
「もちろん!」
その言葉を聞き届けると同時に――僕は意識を失った。
「…………あれ?」
「お、目が覚めたか」
気が付くと、僕の視界にはさかさまのリーリスがいた。というか、なんだか頭の下が柔らかい?
「! …………っぁ!」
「ああほら、急に起き上がったりするからだぞ。それでなくとも魔力を一気に消耗したんだ。もう少し妾の膝の上で休んでいけ」
「ぅぁ、ありがとう」
膝枕されているという事実に驚いて飛び起きた瞬間、頭に突き刺すような痛みが走り、そのままリーリスに寝かされる。
「すまないな、すこし妾も先走りすぎたようだ。主様はまだ自分の魔力の制御に慣れているわけではないのに、無理に引きずり出せばこうなるのは当然だというのにな」
「…………」
「次からは気を付けて搾るようにするぞ!」
「……………………」
話そうとすると頭が痛くなるので何も言わなかった。決して何も言えなかったわけではない。ないったらない。
それからしばらく休むと、かなり体が楽になった。そのことをリーリスに伝えると「これを飲んでおけ」と言って小瓶を二本渡された。
「一本は魔力回復薬だけど、もう一本は?」
「疲労回復薬に気絶耐性をつけたもの」
「聞くからに危ないお薬なんですが」
「安心安全のリーリス製だ」
「ですよね」
ここでグダグダ言っていても始まらない、と思った僕は、二本の瓶の中身を続けざまに飲み込む。あ、意外と飲みやすい。それに飲んでいるとなんだか体がポカポカしてきたぞ。
「うんうん、順調に効果が出ているようだな。よし、二本目行くぞ!」
「いやもうちょっと休ませ」
暗転。
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