第9話 ユリウスの指導(剣術編)
翌朝起きると、すでにユリウスさんは家の前の庭で僕を待っていた。
「やあ、おはようハヤト君」
「おはようございます。お待たせしてしまいましたか?」
「ははは、気にしないでくれたまえ。君はリーリス様の主となるかもしれないのだからね」
思わず乾いた笑いがこぼれる。始まる前から期待されるというのは、なんともムズムズするものだ。
「あの、僕は今まで剣を振ったことがないのですが、それでも大丈夫なのでしょうか」
「今日のところは実際にどれくらいできるのか、もしくはできないのかを調べるだけなのでそれほど気負わなくていいよ」
「わ、わかりました」
そして僕たちは家の裏手に移動すると、まずはお手本だということでユリウスさんが剣を振ってみせてくれた。当然僕には剣の心得なんてものはないので、見せてもらったものがどのくらいの練度のものであるのかは分からない。しかし剣を振る速さや剣を構えたときの剣先など、素人目にも高い技量を持っていることが伺えた。
「では次はハヤト君に振ってもらおうか。剣はそこから選んでくれて構わない」
そう言って彼は壁に立てかけてあった剣を指し示したが、当然知識がないのでどれを選べばいいのか分からない。しかし待たせるわけにもいかないので、近くにあった短めの剣を取る。
「よし、選んだようだね。じゃあさっそく振ってみてくれ」
「わ、分かりました」
先程の彼のように剣を持ち上げるが、すぐに剣先がプルプルと震えだす。それを抑えるようにして振ってみるが、やはり真っすぐには振れない。一度振ってみせたところでユリウスさんの方を見てみたが、彼は何も言わずに顎に手を当てている。仕方がないのでもう何度か振ってみたところで、彼からやめるように指示された。
「うん、確かに剣に慣れていないようだね。とはいえ、全くセンスがないというわけでもなさそうだ」
「そうですか……」
「よし、今日は筋トレをしてから終わりにしよう」
「う」
初めてのことで仕方がないとはいえ、これでも現代社会に生きていた男子である。剣の一つや二つ、軽々と振ってみせたかった…………。そんなことを考えながらユリウスさんと腕立てなどをして、剣術指導の初日は終了した。
「明日からは、実際に木剣を振りつつ基礎の筋肉をつけていこうと思う。じゃあ、今日はゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます」
その日の夜。僕が夕食を終えて部屋に戻ると、リーリスが床に寝転がっていた。
「それで、どうだった?」
「どうだった、ってユリウスさんとの稽古のこと?」
「ああ、
「そ、そっか。うん、剣が重くて全然振れなかったけれど、明日から木剣を使って稽古だって」
「ま、そうなるか。さて、主様よ」
「どうしたの、改まって」
「昨日妾が言ったことを覚えているか?」
「えっと…………?」
「フフ、少しからかっただけだ。それはそうとして、妾は言ったな。『剣と魔法を覚えて、妾とどう向き合うのか考えてほしい』と」
「ああ、言っていたね。…………まさか」
剣は今日教わり始めたが、魔法については何も言われていない。そんな僕の顔を見て、リーリスはニヤリと口の端を釣り上げる。
「ああ! 主様には明日から剣術だけではなく、妾直々に魔法を教えようと思う!」
今日はそのための準備に一日貰っていたのだ!と腰に手を当てて続ける彼女の笑顔はそれでも眩しく、僕はガクリとうなだれるのだった……。
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