第7話 創世神話
ナムルさんはリーリスに言われたとおり、僕のことを存分に使って部屋を片付けさせた。とはいえ、そこは僕たちが使うことになる部屋だと考えると、その苦労は買ってでもせよ、というものだったろう。
一通り片づけを終わらせ、一息つけるようなスペースを確保した僕に、ナムルさんはお茶とお菓子をふるまってくれた。お茶はこの辺りで採れる草花を使ったものらしく、少し苦みがあったがお菓子と合わせて食べるとそう気になるものでもなく、何度かお代わりをさせてもらった。
そんな風にお茶をしていると、ナムルさんが話しかけてきた。
「それでハヤトくん、だったか、あなたはどこまでこの世界のことを知ってるんだい?」
「ほとんど何も、といった感じです……」
「なるほどなるほど、じゃあ創世神話とかも知らないのかい?」
「創世神話、ですか」
オウムのように繰り返した僕の反応を見て、知らないと分かったのだろう。席を立って何かを持ってくると、テーブルの上に広げて僕を手招いた。
「これが創世神様たちの似姿さ」
「へぇ…………」
そこにあったのは三人の美しい女性の姿が描かれた絵画だった。一人の女性が
人々を抱きかかえ、一人の女性は木や鉄を抱きしめ、最後の一人は剣を何本も抱いていた。
「ここで人間を抱いていらっしゃるのが月の女神、木や鉄を抱いていらっしゃるのが星の女神、最後の剣を抱いていらっしゃるのが太陽の女神さ。女神様たちはまずその力で大地と海を作り上げ、様々な生物を生み出した後、最後にある存在を作り上げたんだ」
なんだかわかるかい、と不意に問われ、僕は慌てて頭を回す。ここで僕に話を振るということは、何らかの形で僕に関わることなのだろう。そうなると候補はそう多くない……。
「もしかして、『魔剣』ですか?」
「おや、リーリス様から聞かされていたのかい?」
「ええ、少しだけですが」
「まあ、そういうことだ」
そう言って彼女は僕の頭をくしゃりと撫でると、改めて話しだした。
「三女神様たちは最後に自らの力を分け与えた武器を鍛え、作り上げた。それが
「この世の平定…………?」
「女神様たちはこの世界を作られたものの、そのつくりが完璧でないことを一番ご存じであった。それゆえに世界の均衡が崩れたとき、その歪みを正すための装置となりうるものを作り上げられたという。それが神造魔剣だ」
「歪みを正す、装置」
「まあ平時はそういうものとしてではなく、世界に溶け込めるように少女の姿をしているそうだけれどね」
「!」
つまり、リーリスのあの姿が本来の姿ではなく、もう一つの、武器としての姿があるのだろうか。と、そこまで考えて一つ思い出したことがあった。洞窟を出る前に持っていた剣、あれこそがリーリスの魔剣としての形なのではないだろうか?
「はは、少し混乱してきたようだね。この話はこのくらいにして、別の話をするとしよう」
うんうんと唸っているのを見てナムルさんが助け舟を出してくれた。それからは、この村の属するアルマ王国のことや一通り知っておけば恥をかかないであろう、という知識をひたすらに詰め込むこととなった。
ナムルさんの授業が終わり、夕食までの間何をしていようかと思っているとリーリスがこちらに歩いてくるのが窓から見えた。
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