第6話 ミーヤ村

 僕たちは朝食を食べた後、またもリーリスの先導によって村の中を歩いていた。昨日見たのは夜だったため人の姿はなかったが、今日は出歩いている人とすれ違うたびに立ち止まって頭を下げられている。


「ええと、リーリス、ちょっといいかな」

「どうした主様よ」

「なんだかさっきから村の人たちから頭を下げられているけど、これが普通なの?」


 そこに込められているものが単なる挨拶には感じられなかった僕は、思わず小声でリーリスに問いかけてみた。


「それも含めて村長のところで説明する」

「うん、わかったよ」


 しかし彼女は前を向いたままそう言うと、しばらく歩いて一軒の家の前で立ち止まった。


「ここが村長さんの家?」

「変わっていなければ、な」

「そんなに長い間来てないの?」

「寝てたからな」


 それだけ答えると、リーリスはドアを拳でノックした。少し待っていると、中から四十代かそこらの女性が顔を出して、リーリスのことを見て顔をほころばせた。


「おや、リーリス様。随分とお久しぶりですねぇ」

「ああ、変わりないか、ナムル」

「ええ、ええ、おかげさまで。主人ともども元気にやっておりますよ。して、今日はどのようなご用件で?」


 昔からの親しい知り合いと話すような二人に気後れして後ろで縮こまっていた僕は、いきなりリーリスに首根っこをひっつかまれて女性――ナムルさんの前に連れ出された。


「彼が私の契約者となりそうなのだが、いかんせん彼は『流れ者』でね。この世界のことをいろいろと教えてほしいと思ってな」

「ほう、なるほどなるほど…………」


 そう言って僕のことをしげしげと見つめてくるナムルさんにだんだんと気恥ずかしさを覚えてきたころ、彼女は大きくうなずいて僕の肩をバシッと叩いた。


「ちょっとひょろっとしているところはあるけれど、優しそうないい男じゃないか! リーリス様のこと、よろしく頼むよ」

「え? あ、はい…………」


 なんだかよく分からないけれど、気に入られたようだ。そんな風に困惑している僕をよそに、二人は話を続けていく。


「それで、お二人はどこに住むおつもりなのでしょうか? まさかあの家に住むおつもりで?」

「その予定だったのだが、埃はともかくお母様が置いていったであろう物がごちゃごちゃとしていてな…………。しばらくの間お宅に厄介になろうと思っていたのだが、問題はないだろうか」

「物置になっている部屋を少し片づければ、二人じゃ手狭かもしれないけれど十分な広さがありますよ。主人もリーリス様とその契約者様が住むというなら首を横には振りますまい」

「助かるよ、ナムル。片付けは存分に彼を使ってくれたまえ」


 なんだかよく分からないうちに住むところと次にやるべきことが決められたらしい。そのまま僕は一度家に戻るというリーリスを見送ったあと、ナムルさんに連れられて家の中に入ることとなった。

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