第5話 部屋の惨状

「えっと…………」

「主様よ、みなまで言うな。わたしも入るまでこのような状態であったことを忘れていたのだ」


 ぶっちゃけ人の住める家ではなくなっていた部屋の様子を見ながら、僕たちは肩を落としていた。


「妾としてはそれほど休息を必要としていないが、主様はそうもいかないだろう? さて、どうしたものか」

「ええと、片付けるしかないよね?」

「しかしそうなると主様が休息をとる時間が減ってしまうだろう」


 どうやら明日の朝起きる時間はすでにリーリスの中で決定しているようだ。うう、すぐに眠れないことを理解した途端、眠気が襲ってきた……。


「む、主様は眠いのか。仕方ないな、突然右も左も分からぬ世界に放り出されればそうなるだろうな」

「う、うん」


 やはり眠たいのが顔に出てしまっていたのか、すぐにリーリスに看破され、なにやら慰めまで受けてしまった。いや、とてつもなく嬉しいけれど、現状それより眠たいっていうか。


「よし、主様が寝られそうなスペースだけとりあえず確保するか。…………とはいえどう手を付けたものか」

「そうだね…………」


 別に部屋の中が全く見えないほど物が山積みになっているわけではないが、満遍なく物が広がっているせいで足の踏み場がないような状態だ。だからまずは足場の確保だろうか。うう、眠たい。


「まあ、こんなものだろうか。主様には少々、いやだいぶ窮屈かもしれないが、朝まではそれで辛抱してくれ」

「うん、まあ仕方ないよね」


 さすがに夜も遅くなってきてこれ以上寝る時間を遅らせるのは、ということで急いで床のものをどけたのはよかった。しかし今度はそれをどこに置くかということになり、周りにさらに積むことになり、あまり高くし過ぎると崩れるということで最低限僕が寝れる場所の確保だけで終わってしまったのだ。


「それでは、また明日だ、主様よ」

「うん、おやすみ」


 そのままリーリスは部屋の奥に向かったけれど、どうしているんだろう。そんなことを考えながら僕は眠りについた。


 次の日体を起こすと、予想通りというか、体が硬くなっていた。背をそらせながらあくびをこぼしていると、部屋の奥からリーリスがうまいこと物を避けながら歩いてきた。そのまま彼女は僕に手を差し伸べてくる。


「うむ、起きたようだな、主様」

「うん、おはよう」

「さて、とりあえず簡単なものだが朝食にしよう。さすがに台所の方にまでは侵食していなかったからな」

「ありがとう」


 僕はリーリスの手を取って立ち上がりながら、明るくなったことで見やすくなった部屋の中を見回す。昨日はよく分からなかったが意外と部屋は広く、きちんと片付ければ僕が七、八人くらいは寝転がっても余裕がありそうだ。しかし本だけでなく獣の毛皮や牙のようなもの、剣や盾などとりとめもなくそこらにばらまかれている印象を受ける。


「後でしっかり片付けないとな」

「ああ。とはいっても今日はまず村長のところへ向かうぞ」

「村長?」

「ああ、この村――ミーヤ村の村長のところには一度顔を出しておきたいのでな」


 そんな感じで僕の村での生活二日目は始まりを迎えたのだった。

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