第3話 洞窟の外へ

神造魔剣アリティス人造魔剣プリヴディス…………太陽の一?」


 聞きなじみのない言葉を僕はオウム返しに発音する。


「まあその辺りはおいおい理解できることとなるだろう。それよりも、だ。あるじ様にはわたしと契約し、妾の使い手となってほしいのだ!」

「は、はぁ…………」


 思わず困惑の声が口から漏れてしまった。ただでさえ理解の追い付かない状況に置かれているところに、さらに情報を積み上げられても困惑してしまうだけだ。


「今すぐ契約してほしいというわけではない。主様の身体は魔力がけた外れに多いが、妾を振るうにはいささか筋肉が足りぬようなのでな。まずは鍛錬といったところであろう」

「たんれん」

「うむ。…………厳しくいくか?」


 滅相もございません、とばかりに僕は首をぶんぶんと横に振る。どうやらこちらの世界でもそのジェスチャーの意味は通じたようで、リーリスは「ふむ、それならば仕方がないな」とつぶやいていた。ほっ。

 それはさておき。


「えっと、契約?とかそういうのも分かんないんだけど、まずはいろいろ教えてほしいかなって」

「ふむ…………」


 たどたどしく尋ねた僕の言葉に、リーリスは腕を組んで難しい顔をする。そ、そんなに難しい話を振ってしまったのだろうか?

 そんな僕の焦りを感じ取ったわけではないだろうが、彼女は口を開いた。


「まずは主様がどの程度の知識を有しているのかを知らなければならないな。ううむ、先に常識の勉強……いやその分野は妾も不安……」


 後半部分は小声になって聞き取れなかったが、僕の知識について問いたいらしい。それなら自信をもって答えられることができる。ゼロだ。

 そんな風に変な自信をもってリーリスの次の言葉を待っていると、「少し待っていてくれ」と言って部屋の奥に引っ込んでしまった。


「待たせたな」


 待たせたな、と言うわりにはそれほど待たされていなかった――せいぜいが五分そこらだろう――僕は、とんでもないと首を振りつつ彼女の格好に首を傾げた。

 彼女は先程まで持っていなかった剣を腰に差し、その背にはリュックを背負っている。


「主様がどれほどの教養を有しているのか分からぬ上にこの世界の常識について教えるには妾はいささか寝すぎているからな。いったん山を下りふもとの村で生活しようと思うが構わないか?」

「ええと、でも僕には拒否しようがないです、よね?」

「まあな。脅すわけではないが、ここに食料はほとんどない」


 それは脅しと言うのでは、という言葉を飲み込みつつ僕は首を縦に振る。今は彼女に付き従うしか僕に生きる道はない。

 生きるにしても僕にはこの世界の常識も何もない。言葉もこのイヤリングによって理解し話せているみたいだけどもしも壊れてしまったら何もできなくなる。

 独り立ちするにしてもまずは足場を固めなくては。


「よし、では少ししたら出発するからな。準備……と言えるほどのものはないだろうが、心構えぐらいはしておくのだな」

「わ、わかった」


 そして僕は彼女に連れられて洞窟の外へと出るのであった。

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