第2話 少女の正体

 しばらくそのまま待っていると、先程の少女が何か持ってこちらへと近づいてきた。どこか不機嫌そうな少女はいまだ座り込んでいる僕に顔をずい、と寄せるといきなりその手を伸ばしてきた。


(あ、なんかいい香りがする。それに近くで見ると髪の毛がサラサラでまつげもパッチリしてて、ええと……)


 そんな僕の動揺を知らないであろう少女は僕の耳を掴むと、パチリという音と共に何かを付けた。なんだか左耳の耳たぶに違和感がある。


「よし、これでいいだろう。おい、聞こえているか?」

「ふぇ?」

「…………ぷっ」


 さっきまで意味の通らない音の羅列だったものが、突然意味の通る言葉になったことにも驚いていたが、それ以上に少女の声に僕は心惹かれていた。

 美しい声を表す言葉として、玉を転がすような、というものがあるが彼女の声はまさにそれだった。それと、人間はそういう自分が知らなかった扉を開かれたとき、案外動揺してしまうようだ。


「ふぇ、とはまた可愛らしい声だな、あるじ様よ」

「あるじ、さま?」

「ふむ、言葉はきちんと通じているようだな。倉庫で眠らせていたものだったからちゃんと作動するか心配だったが、今のところは問題もなさそうだ」


 頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになっている僕は、一人で満足げに頷く少女に質問を投げかけてみた。


「あの、すいません、ここはどこ……ああいや、あなたのお名前は……?」

「ん? ここはヴァラク山だな。わたしは、そうだな、リーリスと呼んでくれ」

「リーリス、さん」

「さんなどいらん、呼び捨てでいいぞ。ところで、主様の名前は何というのだ?」

「結城勇人といいます」


 僕の名乗りを聞くと、リーリスは「ハヤト、ハヤト、ハヤト……。よし、覚えたぞ」とつぶやき、ドキッとするような笑顔を浮かべて僕を見た。


「主様よ、そなたにはやってもらわねばならないことがある! …………がしかし今は疲れているだろう。部屋に案内するからそこで休むといい」


 そう言うとリーリスは僕の手を引っ張って立たせてくれた。え、なに、女の子の手ってこんなに柔らかいの? 夢?

 そんなことを思いながら手を引かれて歩くこと少し。僕は洞窟の中に現れた家の中でテーブルについていた。目の前にはパンと目玉焼きとベーコン(のようなもの)がある。


「豪勢なものは無理だが、何も食べないのも悪いだろう。遠慮なく食べていいぞ」

「あ、いただきます」


 僕が食べている間、リーリスはニコニコしながら僕のことを見ていた。そんな彼女の様子が気になった僕は、いろいろと聞いてみることにした。


「リーリス、君はここで何をしているんですか?」

「妾か? 妾はここで祀られていたのさ」

「?」

「あ、そうか。妾は人間ではないのだ。この姿は仮のものに過ぎない」

「??」

「私の正体は魔剣だ」

「???」


 頭の中が再びクエスチョンマークでいっぱいになった僕は、とりあえず目の前の食事を平らげることに集中することにしたのだった。

 しばらくして食事を終えた僕は、先程聞いた話の中で分からなかったことを順番に聞いていくことにした。


「リーリス、魔剣っていったい何ですか?」

「ふむ、魔剣とはざっくりと言うと『意志を持った武器』の総称だ。剣とは言っているが、剣の形にはとらわれない」

「ふむふむ」

「そして魔剣にも二種類あり、神によって作られたものと人によって作られたものがあり、呼び分けるために前者を神造魔剣アリティス、後者を人造魔剣プセヴディスとも言う」


 リーリスは宙に何かを書くしぐさをしている。恐らくその字を書いているのだろうが、僕には模様にしか見えない。そんなことを考えているうちにも彼女の話は続く。


「神造魔剣とは創世神である三柱の神々が鍛え上げた魔剣たちの総称であり、総数は十二。四振りずつに三柱の神々が権能を分け与えたことで、人知を超えた強力な魔法を行使できるというのが特徴だ」


リーリスはそこで区切ると得意げな顔になり、片眼をつむってさっきより大きめの声で続けた。


「そして私はそんな神造魔剣のうちの一振り、最も強く権能を受け継いだ『太陽の一』なのだ!」

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