第70話 依頼1

 キッチンから猫獣人兄弟がリビングルームに出てくる。お兄ちゃんのパムが大きめのトレイに茶碗と茶托を乗せている。続く弟のミルがそこから1セットずつソファーに座る客の前に置いた。


「ソチャでち」


 コトリ。


「ソチャでち」


 コトリ。


 粗茶は入ってない。後ろに続くウルゾンが急須で緑茶を注ぐ。コポコポ。熱いからね。


 訪ねてきた客がビオラだと分かると、パムとミルがウルゾンに習ったばかりの接客(給仕)をやりたがったので、こんなことになりました。


「パム君、ミルちゃん、久しぶり」


 ビオラが話しかけると、顔を赤くしながらも……。


「ソチャでち」


 コトリ。コポコポ。おすまし、おすまし、ネコ耳ピコピコ可愛いぜ!


     *     *


 客は4人。ビオラと戦斧使いのバス、両手剣のセロのコンビ。そして、もう1人はコンダク。カゲンガーク国、ヘオン傭兵団の隊長代行だ。コンダクは俺のエクストラスキル【友達100人(11/100)】登録者でもある。


「ここは、ラムシーさんから聞いたのですね?」


「はい、ラムシー殿にショキ様の居場所を問い合わせたら、おそらくここだろうと教えて頂きました」


 ああ……口止めとか、してなかったもんな。


「ラムシー殿がショキ様に会ったら宜しくと。ところで私のメールは届いていますか?」


 実は登録者から何通もメールが届いて、正直のところ面倒くさい。そういえば最近、このコンダクからも何通もメールが届いていた。きっと今日の連絡だったのだろう。


「最近ちょっと忙しくてメールチェックが……済みません」


 俺が謝罪すると、慌てて「いえショキ様、そんなつもりで言ったのでは……」と逆に恐縮している。それより、さっきから俺の事をショキ【様】って呼んでるな!


 ここでビオラが立ち上がる。と同時に残る3人も続いた。ババッ!


「先日は危ないところを助けて頂き、誠に有難う御座いました」


 そこから一斉に礼。角度は90度、シンクロ度99.99パーセント!


 おおっ、格好いい。これぞ正に軍隊。我が傭兵戦隊セイント・カインでも採用決定だい。


 着席のタイミングも同時だった。


「コンダク、あれを」


 ビオラが命ずるとコンダクが懐から革袋を出し、テーブルに置いた。


「これに金貨30枚。先日はわたくしのミスから危機を招きました故、私個人で用意出来る金子きんすは、これで精一杯。誠に些少ながら、お納め下さい」


「いや、この間の事は俺が勝手にやったことだから、礼なんか要らないよ」


 まあ、くれるって言うのなら貰っても良いけどさ。


「そう、おっしゃらずに。何卒お納め下さい!」


「まっ、そこまで言われるんなら……」


 変なやりとりは面倒、さっさと頂きましょう。ごっつぁんです。


「改めて自己紹介させて頂きます。わたくしはヘオン傭兵団のサロンマスター、カゲンガーク国フヨミ侯爵家三女ビオラ・デ・フヨミと申します」


 そう言いながら名刺を差し出した。何故か目がキラキラしている。


 そうですか、貴族の令嬢でしたか。そんな気はしていましたが……。俺は名刺を受け取って今、口頭で聞いた内容と同じ文面の名刺を確認する。


 ビオラが俺をジッと見ている。目はキラキラ。なんだろ?


 ハッ?!


「こ、これは失礼しました。おい、ウルゾン!」


 すかさずウルゾンが俺に手渡した物、それは名刺入れ。


「はい」


 俺は出来上がったばかりの名刺をビオラに手渡した。作っておいて良かった。早速、役に立ったぜ!


「え、ええー。そんな?!」


 ……えっと、何か?

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勇者召喚されたんだが、俺だけ職業未定でした。~そこから職業不定で無双する?~ 鍵森 裕 @k-jro

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